今回の消費税増税は間違った個所の手術

政府は、消費税の増税を決めた。現在5%である税率を、2014年4月に8%に、15年10月に10%に引き上げる。

しかし、この増税は、日本財政が抱える問題を解決することにはならないだろう。実際、今後の財政収支についてシミュレーション計算を行ってみると、増税直後には国債発行額が減少するものの、2年程度で元に戻ってしまうという結果になる。つまり、今回の増税は、「焼け石に水」の効果しかないのである。

こうなってしまう基本的な原因は、歳出の伸び率のほうが税収の伸び率より高いことだ。だから、歳出構造を大きく変えない限り、財政赤字は縮小しないのである。

歳出の中で特に重要なのは、社会保障だ。だから、社会保障制度を抜本的に見直さない限り、どうにもならない。制度の細部にわたる技術論もさることながら、まずなによりも、「なぜ公共主体が関与しなければならないか」を考える必要がある。これは、医療・介護について、特に重要な点だ。

それにもかかわらず、現実にはなにもなされていない。12年度予算においては、受給資格期間の短縮など、むしろ給付を増加する措股が取られている。

こうした状況が続く限り、これからも際限のない増税が必要になる。そして、財政収支を安定させるためには、税率を30%程度にまで引き上げる必要がある。つまり、日本の財政赤字問題は、「常識的な」範囲内の消費税率引き上げでは、解決できない段階にすでになっているのだ。

政府の姿勢は、「初めに増税ありき」としか言いようがないものだ。増税の論拠としては、世代間の公平というような抽象的なものしか挙げられていない。本来必要なのは、「日本の財政にどのような問題があり、放置すればどんな問題が生じるのか? どこまで増税すれば問題がどこまで解決されるのか?」を具体的に示すことである。

「財政再建のために、とにかく増税が必要」と言うのでは、「病気が深刻で手術が必要だから、どこでもよいから切ろう」と言っているようなものだ。問違ったところを切れば、病気が治らないだけでなく、命の危険さえ生じるだろう。今回の政府決定は、間違った個所の手術なのである。

税率引き上げの前にインボイスの導入が必要

日本の消費税には、インボイス(仕入れにかかった消費税額を記録した票)がない。これがないままだと、零細企業が増税分を取引先に請求できず、負担を強いられる恐れがある。消費税が10%になり価格転嫁できないと、経営が成り立たない企業も出てくるだろう。インボイスの発行を業者に義務づければ、仕入れにかかった消費税が明確になり、税額分を請求できるようになる。

さらに、食料品などの生活必需品の税負担軽減措置が必要になるが、消費税は多段階売上税なので、最終段階の税率を下げただけでは、これは実現しない。仕入れに含まれている税を控除しなければならないが、これは、インボイスがないと実現できない。政府は、給付付き税額控除でこの問題に対処しようとしているが、これは著しく不完全な措置だ(そもそも、低所得者の所得を把握できていない)。

増税より先に必要なのは、インボイスの導入である。税率を引き上げなくとも、インボイスの導入は不可欠な措置だ。インボイスを欠く多段階売上税は、欠陥税以外の何物でもない。

以上は増税間題の原点であるはずだ。それにもかかわらず、こうした点について十分な議論が行われたとは言いがたい。増税が必要な論拠として、「社会保障の給付が増えるから、その財源が必要である」とか、「日本の財政は歳入の半分近くを借り入れに頼るという異常な姿になっており、増税せずに放置すれば赤字はさらに増加するから、増税で財政再建する必要がある」とは言われる。

確かにそのとおりだが、これでは抽象的過ぎて、建設的な議論をリードする指針とはなりえない。選挙を意識して反対論に走る政治家を引きとめることはできないだろう。

増大し続ける国債残高は日本が抱える時限爆弾

現在の日本では、国債の大部分を金融機関が購入している。ただし、預金が増加したために国債保有を増やせるのではない。貸し出しを減少させることによって国債を購入しているのである。だから、貸付残高がゼロになってしまえば、それ以上は国内消化できなくなる。

しばしば「巨額の個人金融資産があるから、その範囲までの国債発行は可能だ」と言われる。しかし、個人金融資産はダンス預金されているわけではなく、すでに運用されている。だから、個人金融資産がいくらあろうと、運用を削減しなければ、国債を消化できない。

「ゼロにまで削減できるのは、どの範囲の貸し付けか」の判断によって結論は異なるが、20年代に国内発行が行ぎ詰まることは、ほぼ間違いない。

国内消化が行き詰まれば、日銀引ぎ受けで国債を発行するか、海外消化を求めるしかない。いずれにしても、円安とインフレがもたらされる。これは、国民生活を破壊するだろう(インフレと同時に進行する円安は、円の実質働値を減価させないので、日本の輸出を促進する効果はないことに注意が必要である)。

消費税を増税すると経済に悪影響があると言われる。しかし、このまま放置すれば財政赤字が拡大し、国債消化が行き詰まる。それがもたらす問題のほうが、ずっと大きい。

現在ヨーロッパで進行中のソブリン危機は、ある意味で日本の将来図である。日本の財政事情はイタリアに比べて格段に深刻だ。それにもかかわらず日本国債がイタリア国債のような状況に陥らないのは、国債消化構造が違うからだ。イタリア国債は外国人の保有が半分を超えているため、流動性危機に陥りやすい。それに対して、日本の国債は、国内の金融機関が預金などを原資として長期投資として保有しているため、簡単には流動性の問題に直面しないのである。

事実、日本国債の格付けが引き下げられても、利回りは低いままだ。リスクが高まれば金利が上昇してよいはずであるが、そうはなっていない。

ただし、外国人投資家のリスク判断を反映する日本国債のCDSスプレッドは、神経質な動きを見せている。11年1月、10月にピークを付け、今年になって再び高くなった。そして、長期的に見れば上昇傾向にある。これは、長期的に見て、日本国債のリスクが高まってきていることを意味する。

また、日本の銀行は、保有国債のデュレーション短期化を図っており、現在日本国債の平均残存期間は7年を割っている。

以上で見たのは、一見すると矛盾する動ぎだ。これについては、次回に論じる。

ただし、日本経済が病に侵されていることは間違いない。

人体にたとえれば、日本の病気は、ガンではなく、生活習慣病なのだ。体は徐々に蝕まれていく。しかし、今すぐ重大な問題が起こるわけではないので、危機感は高まらない。したがって、本気の対策が行われない。そのうちに、資金の海外逃避が起きて、事態は急速に悪化するだろう。増大し続ける国債残高は、日本経済が抱える時限爆弾であり、それは経済と国民生活を吹き飛ばすほどのものなのだ。

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