イタリアと日本の国債は何か違うか?

欧州ソブリン危機が深刻な間題だと意識されるに至ったのは、イタリアという大国の国債利回りが急騰したからである。

それまでは、ギリシヤなど小国の問題が中心だった。しかも、ギリシヤはすでに国家破綻的状態になっているので、問題の所在は明らかだった。しかし、2011年秋以降、これまでとは界質の要素が入り込んできた。この過程は、理解するのが容易でない。

第1に、なぜイタリアの国債が暴落したのかが、わかりにくい。

なんらかの理由でいったんイタリア国債の市場価格が下落すれば、それが連鎖的に流動性危機を増殖させていくことは、理解しやすい(市場価格が下落すると、国債保有者は、資金調達の担保条件を満たせなくなる。また、国債価値を市場評価されるので、自己資本規制を満たせなくなる。そのため国債を売却し、価格下落を加速化する)。わからないのは、なぜイタリア国債が下落したかである。

07年のアメリカ金融危機の際には、バブルを起こしていた住宅価格が下落した。だから、住宅ローンを担保にして作った証券化商品の価格が下落したのだ。これは理解しやすい現象だ。しかし今回は、それに相当するようなファンダメンタルズ上の変化は生じていない。

しかも、しばしば指摘されるように、単年度の財政収支を見る限り、イタリアの状態は格別悪いとは言えない。実際、プライマリバランスは黒字である。つまり、国債費の支払いを除けば、財政支出は税収で賄えるのだ。そうした国の国債がなぜ暴娘落するのか?

わかりにくい第2点は、日本国債とアメリカ国債に彫響が及んでいないことだ。単年度の財政収支で見る限り、日本の状態はイタリアとは比較にならないほど深刻である。それにもかかわらず、国債の利回りは1%程度で、上昇の気配はまったく見えない。

アメリカ国債の利回りも落ち着いている。しばしば、「日本の国債は国内消化されているのに対して、イタリアは外国人投資家に保有されている部分が大きいから、問題なのだ」と言われる。確かに、イタリア国債の保有者のうち、約5割は外国の投資家である(11年。なお、1997年までは、約8割が国内で消化されていた)。しかし、アメリカ国債の5割近くも外国で保有されている。また、対外経常収支も巨額の赤字である。それにもかかわらず、なぜアメリカ国債は暴落しないのか?

日本国債やアメリカ国債は、いずれイタリア国債と同じことになるのか? それとも、これらとイタリア国債とのあいだには、実質的な差があるのだろうか?

イタリアは大きいので金融救済が容易でない

「イタリアのプライマリバランスは黒字」と述べた。しかし、過去の財政赤字が累積した結果として、国債残高は大きいのである。しかも、イタリア国債の利回りは急騰前でも4~5%程度とかなり高かったから、国債費は重圧となっているのだ。

その半面で、イタリアの徴税システムには問題がある。税務当局が捕捉できない地下経済が大きいと、昔から言われてきたが、現在でもそれは変わらない。また、官吏の腐敗もある。

こうした事情を考えると、イタリア政府が国債利子を支払えなくなり、償還できなくなる可能性は、決してないわけではない。「単年度の財政赤字が小さいから大丈夫」とは決して言えないのである。

これを背景として、市場がイタリア国債にノーを突き付ける。その場合においても、金融政策で流動性を供給すれば、危機は切り抜けられる。ECB(欧州中央銀行)がイタリア国債を買い支えればよいのである。

しかし、ギリシャと違って、これは大変な課越だ。なぜなら、イタリア国債の規模は、大きいからである。「流動性の間題は金融的に解決できる」というのは、原理的なことである。実際にECBがそれだけの額の支援をするかどうかは、別問題だ。そして、現実の政治的な条件を考えると、それは大変困難な課題なのである。また、国債は、原理的にはCDSでプロテクトできる。しかし、イタリア国債の残高は大きいので、すべてをCDSで守り切ることはできない。

イタリア国債の保有構造も、影響する。外国の投資家が投資原資を短期資金で調達している部分が多いので、国債市場価格の変動に敏感に反応して、保有国債を売る。そのため、危機の伝播速度が速い。それだけではない。国債費として支払われる財政支出は、国外に流出する。日本では、国債費として支払われたものの大部分は、貯薔され、国借で吸い上げられる。つまり、資金が国内で循環しているだけであり、いわば「国債費が自勁的にファイナンスされる」状態になっているのだ。

日本国債のバブル崩壊に備える必要がある

以上のメカニズムによって投資資金がユーロから逃避し、ドルと円に逃げ込んでいる。その結果、ユーロは、ドルと円に対して急速に減価している。

具体的には次のとおりだ。1ユーロは11年4月頃に120円だったが、8月頃11O円になり、12年1月には90円台になった。この間に17%以上円高になったのだ。他方、1ドルは、4月頃82~85円、8月頃76~78円、12月に78円近くである。円の増価率は2.5%だ。ドルに対する為替介入を行ったとはいえ、ユーロとは大きく界なる状況だ。ECBが金融緩和を行うので、ユーロはさらに下落する恐れがある。これは、ユーロという仕組みに対する市場の不信認である。

ところで、日本の財政事情はイタリアより悪い。だから、「次は日本国債だ」との指摘がある。地下経済はなくとも、徴税できないのだから、イタリアと同じだ。だから、市場が日本国債に不信認を突き付けるのは、十分ありうることだ。

それを先取りして、危機が前倒しになるとの指摘もある。ヘッジファンドなどが売りの投機を仕掛けて、日本国債は大暴落、というシナリオである。しかし、これまでの回で述べてきたように日本国債の保有構造を考えれば、売り投機は膨大な損失を被るだろう。だから、このルートでの危機伝播は考えにくい。

われわれが真に憂慮すべきは、長期的に見て、アンバランスがますます拡大する危険だ。短期的に見る限り、日本国債の消化に間題が生じるように思えない。利回りはむしろ低下している。だから、発行に歯止めがかからない。12年度予算の新規国債発行額も、交付国債や復興債を含めれば、50兆円近い。こうして、財政構造を見直す真剣な努力は行われず、公債への依存は高まっていく。アメリカは、経常収支赤字をファイナンスできるから、過消費体質を変えられず、どんどん赤字経済にはまっていく。

実質レートの長期的な傾向から見て、現在の為替レートが円高とは言えないので、バブルとは思えない。しかし、円に流れ込んだ資金が国債に向かうメカニズムは、バブルである可能性が強い。日本国債が長期的に有利で確実な収益を生むから投資されるのでなく、資金流入が国債価格を引き上げ、それが値上がり益を生むためにさらに資金流人を呼んでいるのだ。どちらも、本来は安定的には継続しえない構造が、不均衡が不均衡を呼ぶことによって成立している。日本国債もアメリカ経常赤字も、バブルを起こしているのである。それが崩壊したときのショックに備える必要がある。

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