格差を利用して格差に対処する

トーマス・フリードマン『フラット化する世界』に、インターネット活用のおもしろい実例が紹介されている。アメリカ・ミズーリ州のドライブスルー式ハンバーガーショップに来た客の注文を、1500km離れたコロラドの山中にいる係が受け、デジタルカメラで撮影した客の映像と注文を突き合わせて、店の厨房に送り返す。これによって注文の取り違いトラブルがなくなり、売り上げが増えたという話だ。

客から厨房までわずか数メートル送ればよい情報を、コロラドの山中まで送って送り返すというのがおもしろい。これは、インターネットの通信コストが事実上ゼロであるために可能になったビジネスモデルだ。

これと同様のことが、いまや地球規模で日常的に行なわれている。アメリカで企業に電話すると、インドにあるコールセンターにつながる。アメリカ人は、それと意識することなくインド人のオペレータと毎日会話しているのだ。

アメリカの子供たちは、インターネットを介してインド人の家庭教師に教えられている。アメリカの病院で撮ったCTの画像は、イスラエルやオーストラリアの医師が見ている。

弱みを強みに変えればビジネスチャンスに

情報の伝達に関する限り、地球は点になってしまった。まして、狭い日本列島の中で、「場所」がハンディキャップになるはずはない。情報に関する限り、過疎地域も後進地域もありえない。そして、情報を扱う活動こそ、未来の経済の中心だ。したがって、今こそ地方の時代が訪れたのだ。

それにもかかわらず、現実には、地域間格差の拡大が叫ばれている。そして、2008年度税制改革では、税の基本原則にもとるバラまき施策が決定された(前号で批判した「地方法人特別税」)。

新しい年を迎えて、これまでの発送を根本から転換したらどうだろう。それは「格差を利用する」という考えだ。格差があるからこそできることがある。格差の存在は、ビジネスチャンスの存在を意味するのだ。

インドは、先進国との賃金格差を利用して成長した。先進国からの経済援助に頼っていた時代には達成できなかった成長が、それによって実現したのだ。

ものは考えようだ。弱みを強みに転換することで、地方と大都市の両方にとってプラスになることができる。「天は自ら助くる者を助く」のであり、それによって「禍を転じて福となす」ことができる。「比較優位に基づく分業」とは、そのような考えである。

ところで、フリードマンが紹介した例が、20年前には不可能だった。電話や専用回線の時代には、ミズーリ州とコロラドをつなぐために莫大な投資と通信コストが必要だったからだ。これは、今だからできることだ。

私は、1998年の長野オリンピックのときに、スウェーデンがストックホルムから離れた地点に税理士村をつくったというニュースを参考にして、長野に税理士村をつくったらどうかと提案したことがある。オリンピック中継のために建設した放送施設を利用して通信すればよいではないかと考えたのだ。

当時の通信技術では、こうした施策が必要だった。しかし、今では追加投資は必要ない。インターネットという強力な通信インフラが、誰もが利用できるものとして存在しているからだ。いまや技術的な条件は整った。アイディアとやる気さえあれば、新しい「村おこし」も、駅前商店街の活性化も、いくらでも可能だ。

なお、日本企業が英語を日常的に使いこなせないことは、インドなどへアウトソーシングするうえで大きな障害になっている。

これは、アメリカの企業と比較して日本企業の大きなハンディキャップだ。しかし、日本の地方から見れば、これはチャンスだ。アメリカでは海外に流れてしまう仕事が、日本では国内にとどまるからである。

インターネットを用いる海外アウトソーシングによって、国際的な賃金平準化過程がある部分では生じている。日本国内でも同様のことを行なえば、賃金が地域間で平準化するだろう。

ただし、日本国内の賃金格差はアメリカとインドのあいだの格差よりはるかに小さいから、仕事を選ぶ必要がある。コールセンターのような仕事は、国内の過疎地域に移してもあまり大きなコスト削減効果がないだろう。

では、日本で地域間格差を是正するためのオンラインビジネスとして、どんなことが可能だろうか?

まず考えられるのは、企業のバックオフィス的業務の請負だ。書類整理、データ入力、計算などでアウトソースできるものはたくさんある。これらに関しては、紙の書類を送る必要もありうるので、海外へのアウトソーシングは、(言葉の問題を別としても)難しい。日本国内は適切な委託先だ。

ただし、日本の大企業はすべての業務を企業内部で行なう傾向が強く、外部への委託に消極的である。このため、バックオフィス的業務の請負は、日本ではただちには拡大しないかもしれない。

しかし、もっと個人的なレベルで可能なサービス提供は、いくらでも考えられる。それらを思いつくままに列挙してみよう。

オンラインサービスはいくらでも可能

第一は、オンラインの秘書サービスである。自由業的な仕事の場合、仕事先との連絡、予定管理などのサービスへの需要が強い。企業のメンバーの場合も、定型的な日程や予定管理なら委託できるだろう。

病院や診療所の予約管理、患者との連絡業務なども可能だ。こうした連絡では利用者は電話を用いる場合が多いだろうが、市内通話をインターネットでつなげば、日本のどことでも低コストで連絡できる。

第二は、オンラインのチューター的サービスだ。まず子供の家庭教師が考えられる。高学年の生徒に対して、受験講座、受験指導、進学相談などを行なうことも考えられる。成人を対象としたものや高齢者の生活相談などのアドバイスサービスも考えられる。さらに、同窓会や同好会の連絡代行サービスなどもあるだろう。

第三は、自宅や事務所のセキュリティ管理や防犯・防災サービスだ。防犯カメラの取り付けや問題が生じた場合の対処は現地のスタッフが行ない、遠隔地では日常的な監視業務を行なう。

第四に、すでに行なわれていることだが、インターネットを通じた通信販売がある。

これらは、個人レベルでできる。しかも、巨額の設備投資を必要とするものではないので、すぐにでもできる。ただし、自治体のサポートがあれば、便利だ。特に、サービスの需要者(仕事の発注者)を探すのは、個人では難しい。以下にインターネットを用いると行っても、相手がアクセスしてくれなければ話にならないからだ。この面で自治体がサポートしてくれれば、大変心強い。

大企業が閉鎖的で外部委託に消極的であることが、こうしたサービス拡大の障害になると述べた。しかし、企業側も、外部サービスの活用がコスト削減と業務合理化に貢献すると気づけば、活用するようになるだろう。また、今は消極的であっても、人手不足経済になれば、条件は変わるだろう。

ここで述べたことは、単に地方活性化だけのためのものではなく、日本経済全体を活性化するためのものなのである。

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