欧州ソブリン危機は日本国債に波及せず

ヨーロッパの金融危機で、イタリア国債の利回りが急上昇した。これを見て、日本国債も同じ事態に陥るとの懸念を持つ人がいる。

この懸念に理由がないわけではない。日本の財政は惨憺たる状況だからだ。消費税の増税もままならないし、社会保障の見直しもいっこうに進まない。

「個人金融資産、企業余裕資金が巨額だから大丈夫」と言われることがあるが、これらはすでに運用されており、手つかずの資金ではない。だから、その残高がいくら巨額でも、増加しないのなら、国債の消化には役立たない。

これまで国債消化が順調に進んできたのは、企業の資金需要が減退し続けたからである。このため、銀行が企業向け貸し出しを減少させ、増発された国債の大部分を購人してきた。具体的には、次のとおりだ。

(1)1995年から2010年のあいだに、普通国債の残高は、225兆円から642兆円へと400兆円超増えた。

(2)同期間に、金融機関は、貸し出しを約1500兆円から約1200兆円に約300兆円減らし、他方で国債・財投債の保有を約200兆円から560兆円強へと、約350兆円増やした。

ところで、このプロセスは、永遠には続かない。企業貸し出しがゼロになれば、そこで終わりである。つまり、長期的に見ると、国内消化は行き詰まるのだ。

どの程度の期間持つかは、減らせる貸し出しがどの程度あるかによる。金融機関の貸し出しのすべてを、ゼロまで減らせるわけではない。民間金融機関の住宅貸し付け以外だけを考えると、09年末の残高は540兆円程度だ。したがって、国債残高が毎年度50兆円程度ずつ増加すれば、11年後には破綻する。これは決して遠い将来のことではない。

日本は多額の対外資産を保有しているので、それを取り崩して国債購入に充てることもできる。しかし、対外純資産は250兆円程度なので、数年間でゼロになる。この連載で述べたように、対外資産は復興資金を賄うには十分だ。しかし、国債そのものに対しては、十分な規模とは言えないのである。

国内での消化が行き詰まった後の国債消化法としては、二つの可能性がある。

第1は、対外純資産をマイナスにしつつ、海外消化を図ることだ。この場合には、日本政府の返済能力を厳しく評価され、買いたたかれて円安になるだろう。国内では、輸入インフレが発生する。第2は、日銀引き受けだ。この場合も、インフレになる。

いずれにしてもインフレになる。これは、ある意味では自然な結果である。日本の財政赤字は、歳出削減や増税ではいかんともしがたい水準にまで拡大してしまったのだ。歴史的に見ても、これほど巨額の財政赤字をインフレ以外の方法で処理できたことはない。終戦直後にも、インフレによって戦時期の国債残高の実質価値が減らされた。

危機が前倒しで発生することはあるか?

以上で述べた国債発行の行き詰まりは、今すぐ生じることではない。では、その危機が前倒しで発生してしまうことはあるか?。

株や不動産や通貨の場合には、将来価格が下落すると予想されるなら、保有者は、それが実現する前に売り抜けようとする。売却されれば、市場価格が実際に下落してしまう。つまり、予想が自己実現してしまうのである。

しかし、国債の場合には、大きく異なる条件がある。それは、「償還期限まで保有し続ければ、市場でいかに国債が暴落しようと、額面どおりの償還金を得られる」ということだ。この点で、国債は株式や不動産などとは根本的に異なるのである。

保有者が償還期限前の国債を売らなければならなくなるのは、国債購入の原資を返却しなければならなぐなったときである。

イタリア国債の場合には、銀行やヘッジファンドが、短期で調達した資金を原資として国債に投資している場合が多いと思われる。国債の格付けが引き下げられ、市場価値が下がると、担保条件を満たせなくなるので、損失を被ると知りつつ、国債を売却しなければならなくなる。

資金調達サイドからの圧力があるので、償還まで悠長に持ち続けているわけにはいかないのだ。それが、国債価格の連鎖的な下落を引き起こす。このように、イタリア国債価格下落の原因は、流動性制約である。

07年頃の金融危機の際、このメカニズムによって、証券化商品の急激な価格下落が生じた。今回の欧州金融危機でイタリア国債が暴落したのも、同じメカニズムによると思われる。

ところが、日本国債の主たる保有者は、日本国内の銀行や保険会社だ。彼らは、定期預金や保険料という長期の資金を原資として、長期投資として国債を保有している。したがって、国債の市場価格が多少下落したところで原資面からの売却圧力は働かず、償還期限まで「悠長に」持ち続けることができる。時価評価を求められて自己資本規制を満たすために売却圧力が働くかもしれないが、まず処分するのは、貸し付けだろう。

日本国債は、残高が約700兆円ある。償還期限に差はあるが、基本的には単一の金融商品だ。これほどの厚みを持った金融資産は、米国債と米不動産証券(MBSなど)を除けば、世界に存在しない。これに対して売りの投機を仕掛けても、成功するとは考えられない。先物を使ったところで同じである。

事実、ヘッジファンドなどの投機的な資金は、ヨーロッパや新興国から逃避し、日本国債と米国債に流れ込んでいるように思われる。どちらも、格付けを下げられたにもかかわらず、市場利回りは上昇していない。日本国債の利回りは、1%程度というきわめて低い水準のままだ。

インフレインデックス国債の発行を求めるべきだ

日本の財政赤字は、インフレでしか解決できないレベルに達していると述べた。しかし、インフレが起これば必ず赤字が縮小するわけではない。なぜなら、財政支出の中には、インフレが生じると自動的に増大するものがあるからだ。

その典型が公的年金である。物価スライド制度が導入されているので、インフレが続くと、給付が増大してしまう。こうした事情があるので、政府は、インフレによる財政赤字縮小に慎重になるだろう。

政府に対してさらに制約を加えることもできる。それは、インフレインデックス国債の発行を求めることである。インデックス国債は現在でも発行されているが、ごくわずかだ。その拡大を求めるのである。

こうした国債が発行されれば、国はインフレを回避する経済運営を強制されることとなるだろう。少なぐとも、日銀引ぎ受け発行を行つことに、強い自制が働くだろう。

これは、インフレに対して国民の資産を守るためにも必要だ。

インフレが発生すれば、定期預金の実質残高は減少する。したがって、インフレに備えた資産運用方法が必要になる。しかし、個人レベルでこの問題に対処することは難しい。国債の元本がインフレにスライドして増加し、実質価値が一定に保たれるのであれば、インフレが生じても実質資産価値を維持できる。

インフレによる国民生活の破壊を防ぐため、インフレインデックス国債の発行を求める政治運動を起こすぺきだ。

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