金融で救済できる危機とできない危機

欧州の金融危機には、性質の界なる三つの問題が含まれている。

第1は、財政破綻だ。ギリシャのケースはこれに当たる。格別の産業がなくて公務貝ばかり多く、徴税機構もまともに機能していない。国家財政についての粉飾決算が2009年10月の政権交代で暴露され、問題が一挙に顕在化した。

第2は、流動性危機である。最近のイタリア国債の利回り高騰(国債価格の下落)は、これに当たる。イタリアの財政事情は、格別悪いとは言えない。過去の財政赤字の結果として国債残高は大きいが、現在の財政赤字はさほど大きくない。要するに、イタリアのフアンダメンタルズは、格別悪いわけではないのだ。これが、ギリシャとはまったく異なる点だ。

それにもかかわらずイタリア国債の利回りが上昇したのは、ギリシャ問題の行き詰まりを見て、資金がイタリアから流出したためだ。銀行も国債を買い控え、あるいは売却した。このため、金融情勢が平静なら間題にならないイタリア国債に問題が生じたわけである。銀行の自己資本規制が強化されていることも、これを加速した。

イタリアの国債発行残高は大きい(アメリカ、日本に次いで、世界第3位)ので、影響も欧州にとどまらず、世界的なものとなった。アメリカの金融機関にも影響が及んだ。

第3は、銀行の不良債権の増大である。これは、住宅バブルの崩壊によって生じたものだ。前回述べたアイルランドのケースは、これに当たる。スペインもそうだ。ハンガリーなどの束欧諦国も同じである。

流動性危機や不良債権は金融で対処可能

問題がこのいずれであるかによって、対処の方法は異なる。

流動性危機に対しては、中央銀行が流動性を供給する必要がある。十分な流動性が供給されれば、パニック的な危機の拡大は抑えられる。11月30日に取られた各国中央銀行によるドル供給は、このためのものだ。

同様の措置は、07年のアメリカ金融危機の際にも行われた。これは、純枠に金融的な支援である。

銀行の不良債権に対しては、公的資金の注入によって銀行の自己資本を増強する必要がある。これも、08年のリーマンショック後に、アメリカで行われたものである。日本でも、1998年の措置以来、何回か行われた。

これによって、一時的には財政赤字が拡大する。ただし、公的資金は出資のかたちで供与されるので、金融機関の状況が回復すれば返済される。つまり、財政当局が関与するものの、渡し切りの支出を行うのではなく、銀行が回復するまでのあいだに金融的な支援を行うわけである。

金融措置で間題が解決できるかどうかは、借り手が借金を返せるか否かにかかっている。国のレベルで言えば、将来の税収を生み出す生産性の高い産業が存在するかどうかである。

アイルランドの財政赤字は、公的資金注入という1回限りの問題によって膨張したものだ。しかも、国内にITと製薬という生産性の高い産業が存在する。このため、国債を将来償還できる。したがって、IMFなどが支援して時間稼ぎすれば、問題を解決できるわけである。実際、同国の10年国債利回りは、11年初めには14%まで上昇したが、その後傾向的に低下して、現在では8%程度だ。

スペインが同じような方法で問題を解決できるかどうかは、微妙である。同国の産業は、アイルランドのように強くないからだ。イタリア国債に対する信認が回復するか否かも、基本的には市場がイタリアの産業力をどう評価するかによる。

ギリシャ問題も日本問題も金融では救済できない

ギリシャの財政赤字は、公務員が多く年金も手厚いなどの財政支出構造と、不完全な徴税体制に起因している。だから、1回限りの赤字膨張でなぐ、将来を継続するものだ。そして、観光と漁業以外の産業はないに等しい。だから、国債を償還できない。

ギリシャの国債は、ドイツやフランスが買い支えている。しかし、破綻した国の国債だから、購入すれば損失が発生することは避けられない。銀行に対する公的資金注入とは違って、これが将来戻ってくると期待することはできない。

だから、ギリシャの国家財政破綻は、金融措置では解決できないのである。ギリシャに対する金融支援は、財政支援になってしまう。だから、ドイツ国民は反対する。これまでの支援も、国内の理解が得られたわけではないから、今後どこまで拡大できるかは、大いに疑問だ。

IMFや中国などが支援に加わることも期待されている。しかし、IMFは世界的な仕組みだから、ユーロだけの支援はできない。中国は、「欧州問題は欧州で解決すべきだ」として支援を渋っている。

ユーロとは、各国が独立した財政運営を行いつつ、固定為替レートを維持しようとする仕組みであり、もともとありえないものだ。だから、解決策は、ギリシャがユーロを離脱することしかありえない。そうでなければドイツが離脱することになるが、それでは政治的ダメッジが大き過ぎるだろう。

ギリシャが離脱するまでさまざまの救援策が行われるだろうが、どれも問題を最終的に解決することはできない。それまで、世界経済の動揺は続くわけだ。

ところで、以上で述べたことは、日本にとっても重要な意味を持っている。われわれは、欧州の金融危機から多くを学ぱなければならない。

第1に、日本の財政赤字は、アイルランド型ではなく、ギリシャ型のものだ。すなわち、1回限りのものでなぐ、構造的なものだ。

ギリシャと違って産業が存在するし、徴税体制を整っている。しかし、政府が負担を引き上げたり支出を抑制することに努力していない。

社会保障改革について12年の通常国会で法改正を目指すものは、負担減、給付増の内容が中心だ。消費税率引き上げは5%という中途半端なものであり、それさえも政府部内に反対が強い。

したがって、返済の当てのない借金を増加させていることになる。埋蔵金で処理しているのは、ある意味での粉飾である。ギリシャのように問題が顕在化しないのは、内国債であることや、多額の対外資産が存在することなどによる。日本国債にイタリアのような問題が突然生じるとは考えにくいが、事態が徐々に悪化しつつあるのは事実だ。

第2に留意すべきは、金融の基本的な役割に関するものである。それは、将来時点で期待される利益を、現時点において誰もが受け取るキャッシュに変換することである。

その条件を変えて経済活動に影響を与えることはできるが、ファンダメンタルズそのものを改善することはできない。アイルランドやイタリアの問題を金融措置で解決することはできても、ギリシャの問題を解決できないのは、そのためだ。アイルランドやイタリアでは将来時点でキャッシュフローが発生すると期待できるが、ギリシャでは期待できないのである。

ところが、日本では、90年代後半以降、ファンダメンタルズの改善を金融に求めた。すなわち、金融緩和と為替介入で、低金利によるコスト削減と円安による価格競争刀を求めた。これこそが、日本の基本的な誤りである。

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