破綻論理で増税でなくマニフェスト見直しを

新聞等の報道によれば、政府税制訓査会は、所得税と相続税の増税に向けて検討を開始した。高所得者や高額資産保有者を対象に、2013年度以降の実施を日指す。年末にまとめる「税と社会保障の一体改革」の大綱にこれを明記する方針だという。

なぜ所得税・相続税の増税が必要なのか? それは、「消費税を増税すると低所得者の負担感が重くなるので、これを是正するために、高所得者の課税を強化する必要があるからだ」という。

この理由づけを聞いて、誰しもがあぜんとしたことだろう。そして、「それなら、なぜ最初から所得税と相続税だけを増税しないのか?」と疑間を抱いたはずである。

税制調査会は、「消費税には重大な欠陥がある」と認めているのである。そして、「その欠陥が引き起こす問題を打ち消すために、所得税・相続税を増税しなければならない」と言っているのだ。

仮に、消費税増税がなんらかの理由で不可避であり、それがすでに決定されているのなら、この論理はわからなくもない。しかし、これから消費税を増税しようというのに、「その税には重大な欠陥があります」と言うのでは、論理が破綻している。仮に言うのであれば、「消費税増税を検討していたが、低所得者の負担を高めるという重大な欠陥があることがわかったので、それは取りやめにする」ということでなければならない。

いま一つ誰もが疑問に思うのは、増税の総額だ。つまり、「消賞税増税に合わせて所得税・相続税を増税すれば、全体としての増税額は、消賞税率5%引き上げの場合より大きくなってしまうのではないか?」ということである。

税制調介会の提案では、「低所得者に対して現金を給付する」とされている。仮に所得税・相続税増税額のすべてを現金給付に充てるのであれば、ネットの増税額は消費税増税額だけになる。その場合には、6月にまとめた「税と社会保障の一体改革」が提言したとおりの増税になる。しかし、そうでなければ、増税額は、一体改革の提言より大きくなってしまう。

そうなれば、「どさくさまぎれに、当初の提案を超える増税を行う」ことになる。あるいは、「6月の一体改革提言は必要増税額に関して誤った見通しを示した」ということになる。

「年金債」という姑息な粉飾計画

基礎年金の国庫負担増額2兆5000億円は、11年度当初予算において、埋蔵金で財源手当てがなされた。しかし、その財源は、第1次補正予算で使われてしまった。その穴埋めが必要とされていたが、第3次補正予算で予算措置がなされた。

3次補正の財源はほぼ全額が復興債なので、結局は国債によって基礎年金国庫負担増額が賄われたことになる。「恒久財源によって賄う」と法律で規定されていたのであるから、日本政府は明白な法律違反状態に陥ったことになる。

法律違反はこれにとどまらない。来年度においては、「年金債」を発行して財源手当てをする計画であるという。どんな名前をつけようと、これが国債であることに変わりはない。将来の消費税増税を当てにした「つなぎ国債」にすぎないのである。いや、消費税増税はまだ決定されていないので、「つなぎ」になるかどうかさえ、定かでない。年金債の実態は、なんの当てもない借金だ。

簡単に言えば、04年度以降政府に課されている「恒久財源によって基礎年金国庫負担増加分を賄う」という法律の規定を、「来年度も破ろう」ということである。

「年金債」などという姑息な手段に頼らなければならないのは、8月に決めた「中期財政フレーム」との関連があるからだ。ここでは、新規国債発行を44兆円以下にすることが決められている。

だから、「これを超える国債は国債と呼ばないことにしよう。そうすれば中期フレームの制約は守られる」というわけだ。つまり、「設定した条件が守れなかったら、はみ出し分は例外にしよう」ということだ。

仮にこうしたことが許されるなら、どんな制約もクリアできることになってしまう。別の表現をすれば、「どんな制約をかけても無意味」ということになる。

ギリシヤ神話のプロクルーステースは、旅人を寝台に寝かせ、足が寝台からはみ出したら切ったそうである。日本政府がやろうとしていることを聞いたら、プロクルーステースも真っ青になるだろう。

その半面で、政府は消費税増税のために準備法案を提出しようとしている。これは、増税時期や税率を示そうというものだ。つまり、将来の消費税増税を法律によって定めようとしているのである。

しかし、右で述べたように、政府は、過去において法律で定めた恒久財源確保の約東を破っている。「一方で増税のための法律を破り、他方で増税のための法律をつくる」というのでは、支離滅裂で、何をしているのかさっばりわからない。

16兆円財源捻出の公約はどうなった?

今年度予算には、子ども手当、農家戸別所得補償、高校無償化などのマニフェスト関連経費が3・6兆円(1次補正、3次補正で減額され3・2兆円)計上されている。

これらの経費は、09年の総選挙の際、「財政の見直しで16・8兆円の財源が出る(支出の見直しで9・1兆円)」ことを前提として導入したものだ。しかし、その年の秋に行われた事業仕分けでは、7000億円しか捻出できなかった。つまり、子ども手当などの施策を実現する条件は満たされないことがわかったわけだ。

したがって、これらの経費の見直しは急務だ。その規模は、今提言されている増税に比べても無視できない。これを使えば、消費税増税額を圧縮できる。

また、経費の削減は、「恒久財源」と評価しうるから、基礎年金国庫負担の増加財源にも充てることかできる。そうした措置を取れば、右で述べた法律違反状態から脱却できる。

行政刷新会議は、「提言型政策仕分け」を行った。しかし、マニフェスト関連経費は対象としなかった。たとえば、農家戸別所得補償は、「見直しを行う3党合意がある」というだけの理由で、取り上げていない。これでは、問題の多い経費から国民の関心をそらすための陽動作戦としか思えない。

前回述べたことを含めて、これまで述べてきたことを繰り返そう。復興増税に関しては、「臨時増税を行う」という理屈づけで始まったにもかかわらず、「25年間の増税」という事実上の恒久増税になった。

今度は、「消費税率を5%引き上げる」という提案で始まって、実際にはそれを超える増税が行われようとしている。そして、「消費税が適切な財源」と言いながら、「じつは、低所得者の負担を高めるという重大な欠陥を持っている」と認めている。

私は、「消費税に加えて所得税・相続税を増税するのが誤りだ」と言っているのではない。そうではなぐ、「増税の理由づけがおかしい」と言っているのである。

論理が完全に破綻しているのだ。それは、小学生でもわかるほどの破綻ぶりである。負担増は、もともと困難な課題だ。破綻した論理でそれを行つのは、不可能である。

この状況を見ていると、クラウゼヴイッツに倣って、次のように言わざるをえない。国政は、民主党に任せるには、あまりに重大な問題である。

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