社会保障目的税は増税目的のトリック

自由民主党の財政改革研究会が、消費税の社会保障目的税化についての中間報告とりまとめを発表した。その提案は次のようなものだ。一般会計に勘定区分を設けて社会保障費を他の経費と分けて経理し、消費税をその勘定の歳入とする。これによって消費税の使途を社会保障に限定し、名称は「社会保障税」とする。つまり、将来の社会保障の増加は消費税増税によって賄おうとするものだ。

「消費税の社会保障目的税化」というこの考えは、一見したところ、まともな提案のように見える。したがって、これを支持する意見も多い。

しかし、このような対応づけは、技術的に不可能なのである。また、そのように説明して消費税を増税することは、さまざまな問題を隠蔽することになる。したがって、社会保障目的税化とは、消費税増税を行ないやすくするための方便でしかない。

社会保障費は、道路整備や公共事業費とは違って、「国民の福祉を高めるためにどうしても必要な経費」と考えられている。だから、「そのために使われるのであれば、消費税引き上げもやむをえない」と考えている人が多い。

このような「社会保障善玉観」と、人びとの錯覚を利用して消費税増税を行なおうとする意味では、「トリック」であり「欺瞞」であると言わざるをえない。

自動的増税を認めるのは議会の自殺

私は、この問題について、この欄でも何度か書いた。したがって、再び書くことは同じことの繰り返しになるので大いに気が引ける。しかし、重大な問題であるにもかかわらず、多くの人がこの提案の欺瞞性に気づいていないので、ここに再び取り上げることとしたい。

現在、一般会計の社会保障関係費は約20兆円であり、消費税の税収は約10兆円である。仮に一般会計に「社会保障勘定」を設けて区分経理すると、消費税だけでは歳入が不足する。したがって、所得税、法人税など消費税以外の税収、および公債金収入の一部もこの勘定の歳入とされることになる。

つまり、「社会保障勘定」は、歳出は社会保障関係費20兆円、歳入は消費税10兆円、その他の歳入10兆円という構成になる。

ここで消費税を4兆円増税したとしよう。今、社会保障関係費は不変であるとすれば、歳入が4兆円だけ多くなる。そこで、歳入と歳出をバランスさせるため、社会保障勘定におけるその他の歳入を、4兆円だけ減らす必要がある。

この場合、原理的には所得税や法人税を4兆円だけ減税することも考えられるのだが、実際にはそうした措置はなされないだろう。すると、その他の歳入は4兆円だけ余ることとなる。そこで、これは社会保障費以外の勘定に繰り入れられる。すると、社会保障以外の歳出を4兆円だけ増やすことが可能になるわけだ。たとえば、防衛関係費を4兆円だけ増やすことができるだろう。

この場合、「増税した4兆円の消費税は社会保障費に充てられた」という説明は、形式的には誤りではない。しかし実質的には、増税分は防衛費に充てられたのである。つまり、「消費税を社会保障費に充てた」という説明は形式上のものにすぎず、実態的な意味はなにもないということになる。

これは、一般に「カネに色目はない」と言われることだ(英語では、Fund is fungibleと言う)。

以上の説明では、社会保障費の歳出は不変であるとした。では、社会保障費をなんらかの理由(たとえば、基礎年金の国庫負担率の引き上げ)で4兆円だけ増やす必要があり、その財源として消費税を4兆円増税した場合にはどうか?

この場合、社会保障勘定は歳入歳出とも4兆円増加しており、バランスしている。また、その他経費の勘定には影響が及ばない。したがって、この場合には問題がないように見える。

しかし、じつはそうではないのだ。なぜなら、社会保障費の増加(少なくともその一部)は、その他の歳出を合理化し、削減することによって賄うべきだったかもしれないからだ。右のような処理をすれば、そうした努力が最初から行なわれないこととなる。したがって、はっきりと目には見えないが、目的税化(正確に言うと、「目的税になっているという説明」)が財政の合理化を妨げることとなるのだ。

問題は、それだけではない。なぜなら、高齢化の進展により、社会保障費は、制度を不変としてもGDPの伸びを超える速度で増大するからだ。それに対して消費税は、税率を不変とする限り、GDPの成長率と同じスピードでしか増加しない。

したがって、増加する社会保障費をすべて消費税だけで賄うこととすると、消費税の税率は自動的に引き上げられてゆくこととなる。つまり、これは、高齢化社会において財政当局がなんの努力をしなくとも社会保障費の財源を確保できる手段を与えることとなるのだ。

こうした「自動的増税」は、負担が増えるという意味で問題であるばかりではない。これが可能なら、社会保障制度を見直して合理化し、経費の増加を抑制する努力も行なわれないことになるだろう。

さらに、税率の自動引き上げは、憲法に規定された「租税法定主義」にも反することとなる。歴史的に見て、議会が設立されたのは、専制君主や国による勝手な税負担増をチェックするためだ。現代においても、その機能は重要である。

消費税を社会保障の目的税と称して自動的税率引き上げを認めしてしまえば、議会はその最も重要な責務を自ら放棄することになる。つまり、これは議会の自殺にほかならない。

消費税について議論されるべきはインボイスの導入

なお、ここで述べたことは、道路特定財源の場合とちょうど逆の関係になっている。揮発油税収入の伸び率は、GDPの伸び率より高くなる可能性が高い。一方、道路はいまやかなり整備されているので、本来必要な伸び率は、揮発油税の伸び率より低いはずだ。

しかし、特定財源制度があると、揮発油税収入と同じ伸びを続けることが可能となる。つまり、この場合には、歳入が歳出を引っ張ることとなる。財政当局が道路特定財源制度に反対するのは、このためだ。

これに対して、消費税と社会保障の場合には、歳出が歳入を引っ張る。したがって、財務当局にとって都合のよい制度なのである。消費税について、本来議論されるべきは、将来の高税率に備えて、その構造を合理化することだ。特に重要なのは、インボイスの導入である。インボイスを欠く多段階間接税は、付加価値税に似て非なるものと言わざるをえない。

まず、益税の問題が残る(したがって、事業者の本音は、税率引き上げ大歓迎だろう)。いま1つの問題は、ゼロ税率課税ができないことだ。消費税の税率が10%を超えれば、食料品などの生活必需物資に対して軽減税率を適用する必要性が高まる。しかし、いまの消費税の構造では、最終段階の消費税を免除にすることしかできない。仕入れにさかのぼって消費税の減免税を行なうには、インボイスが不可欠である。

このような基本的構造合理化の努力を行なわず、ひたすら財源確保だけを目的として消費税の税率の引き上げを目論み、それを「トリック」で実現しようとする考えには、とうてい賛同できない。

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