5時間で300億円超! FX投機で空前の利益

政府・日本銀行は、10月31日に為替介入を実施した。財務省の「外国為替平衡操作の実施状況」には、この介人に関するデータはまだ公表されていないが、新聞報道等によれば、10兆円規模の円売りドル買い介入だったようである。

介入には常に疑問が付きまとうが、今回の介入はこれまでにも増して疑問と問題が多い。

第1は、「なぜドルなのか?」という点である。この数ヵ月閥の円高は、対ドルというよりは、対ユーロだった。今年の8月22日と10月24日を比べると、対ドルレートは、1ドル76.6円から75.9円まで0.9%上昇したにすぎないが、対ユーロレートは、1ユーロ111.4円から107.2円へと3.7%上昇した。欧州金融危機を背景に、ユーロ安が進行しているのである。

しかし、政府はユーロでなく、ドルを買った。もちろん、為替市場では裁定が働くから、介入によって対ユーロでも円は安くなる。しかし、介入後の11月7日の対ドルレートは1ドル78.05円で、介入前より約3%下落したのに対して、対ユーロレートは1ユーロ107.5円で、0.3%下落したにすぎない。

仮に介入するのであれば、ユーロをターケットにすべきだった。その理由は次のとおりだ。

円高は、輸出企業の利益を減らす。しかし、日本全体として見れば、損失だけでない。原油をはじめとして資源にはドル建てのものが多いので、ドルに対する円高は日本経済に利益をもたらすのである。復興過程では特に重要なことだ。

ところが、ユーロに対して円高になっても、そうした輸入面のメリットは少なく、輸出面でデメリットがあるだけだ。だから、輸出産業のためにユーロに対して円安にしても、日本経済が全体として受ける損失は少ない。

政府がぼろ儲けの手段を提供した

第2は、1ドル79円の指値注文をしたと推察されることである。

当局の目標レートがわかれば、巨額の利益を確実に得られる。市場ドルレートがそれより安い限りドルを買い続け、市場レートが目標レートに達したら売る。こんなに安全・確実で、かつ簡単なぼろ儲けの方法はない。小学生でもできる。マネー誌にある「株投資で1日で百万円!」という記事など、真っ青だ。

これは、机上の空論ではない。31日の円・ドル取引額は、2005年にFXを開始して以来の最高位(約6500億円)を記録した。介入前後の5時間でドル・円相場は5%超上昇したのだから、単純に計算すれば、300億円を超える巨額の利益がFX取引者の懐に転がり込んだはずである。FX投機者にとっては、前代未聞、千載一遇のぼろ儲けの機会であったわけだ。ニクソンショックの直後に、日本だけが為替市場を閉鎖せずに固定レートで円を売り続け、巨額の損失を被ったことがあったが、その再来だ。

私はこれまで、「FXは危険な投機だからやめたほうがよい」と言い続けてきた。しかし、政府がこういうことをやってくれるなら、話はまったく別だ。仕事などほっぽらかして、一日中為替の動向に全身全霊を投入したらよい。そして、日本政府が介入に踏み切ったと見たら、ただちにドル買い注文を入れる。

「市場は介入を警戒している」と報道されている。とんでもない。全世界のFX投機者は、日本政府が次のぼろ儲けの機会をいつ提供してくれるかと、一日千秋の思いで待っているのだ。

こうなると、「輸出業者のための介入は望ましくない」などと批判するのが馬鹿らしくなってくる。介入は、FX投機者をぼろ儲けさせるだけのために行われているのだから。

せめて国税当局は、FX取引者の巨額の利益をしっかり把握して適正な課税を行ってほしい。

そして、インサイダー取引を監視してほしい。右の説明からわかるように、こうした介入では、インサイダー取引の機会はあり過ぎるほどある。しかも、為替取引の場合には、株式取引とは違って、インサイダー取引に対する罰則がない。現状には大きな問題がある。

なお、指値注文は、「1ドル80円以上の円安を日本政府は望まない」と公言したことをも意味する。これは、製造業にはショックだったろう。

これまで「70円台の円高は異常。いずれ80円台に戻る」と期待していた企業も多かったろうが、それは空夢とわかったわけだ。したがって、海外移転は加速するだろう。

現在の内外金利差では介入の効果は継続しない

第3は、なぜ介入を続けるのかである。2010年以来、3回の介入を行った(10年9月15日 2兆1249億円、11年3月18日6925億円、11年8月4日 4兆5129億円)。しかし、いずれも、為替レートに長期的な影響を与えることはできなかった。

今回の介入は、円ドルレートが75.3円と戦後最安値を更新したために行われた。介入直後は79円台まで下落したが、その後は上昇している。FX取引者が上述のように行動すれば、当然そうなる(79円まではドルを買うが、そこまでいけば利食い売りする)。

マーケットに逆らって為替レートをコントロールすることは、国といえども無理なのである。マーケットが望む方向に動かない限り、介入は徒労に終わる。

「単独介入では効かない」と言われることがあるが、03年の介入は単独だったが効果はあった。その当時は日米金利差が十分大きかったので、介入が円キャリー取引を引き起こしたからだ。

しかし、経済危機後、欧米の金利は引き下げられた。事実、それこそが円高の原因である。欧州が今後さらに利下げずれば、さらに円高になる。アメリカもさらに金融緩和する可能性が強い。こうした状況では、円を売ってドルやユーロを買うキャリー取引は、起こりえない。したがって、介入直後に円安になっても、すぐに戻ってしまう。

目減りするとわかっている資産を買うのは、愚かなことだ。問題は、日本の現在の資産ポートフォリオでは、今後のドル減価に見合う利子収入を得られないことである。日本の外貨準備は、アメリカ短期国債に集中している。この利回りは、長期債に比べて低い。ところが、金利平価式は、最も有利な運用を行った場合の金利について成立する。したがって、ドルの減価率は、短期国債の利回りよな高くなる。したがって、利子収入を加えても、外貨準備は目減りしてゆくはずである(事実、そうなっている)。この意味において、介入で外貨準備を増やすことは、日本にとってコストになる。

介入に関する第4の問題は、「1ドル79円が実現できれば、日本の製造業は復活ずるのか」ということだ。そうではないことを、本連載でこれまで何度も指摘してきた。現在の為替レートの水準は、実質レートで見れば、格別円高とは言えない。長期的なレンジで見れば、現在はまだかなりの円安だ。07年までの異常な円安は、いまだに完全には修正されていないのである。

それにもかかわらず日本の多くの企業が、12年3月期決算で赤字に落ち込む見通しだ。これは、新興国に対して競争力を失っているからである。

こうした状況下で介入を行う理由は、ただ一つ。介入しないと無策と批判されるからである。企業にも戦略がないが、政府のお粗末さは、救いようがない。

Comments

comments

Powered by Facebook Comments