FTAやTPPはいまや時代遅れの輸出促進策

TPPに参加しても、日本の輸出を増やす効果はほとんどない。前回、このように述べた。

これは、関税同盟という手法によって輸出を増やそうとするのが、今の世界ではアナクロニズムになっていることを示している。

なぜかと言えば、現代世界の貿易は、関税以外の要因によって、大きく影響されるからだ。なかでも重要なのは、為替レート、相手国の経済成長率、それに貫金格差に基づく価格競争力の差である。

第1に、数年間というレンジで見れば、貿易の変動に大きな影響を与えるのは、為替レートである。

日本がTPPに参加すべきだとする七張の論拠の一つに、「韓国はさまざまなFTAを結んでいるから輸出が伸びる」というものがある。韓国の輸出が伸びているのは事実だ。しかし、それは韓国がFTAに積極的だからではない。経済危機後、顕著なウォン安が進んでいるためだ。台湾の場合もそうである。

他方で、目本の輸出が経済危機前に比べて大きく減ったのは、FTAに消極的なためではない。経済危機後、顕著な円高が進行した(正確に言えば、2007年頃までの異常な円安が是正されて、正常な水準に戻りつつある)からである。

第2に、より長い期間を考えれば、日本からの輸出に影響を与えているのは、相手国の経済成長率である。

日本は、シンガポール、マレーシアとFTAやEPAを結んでいる。しかし、前川述べたように、両国に対する日本からの輸出の増加率は、アジア平均より低い。それは、中国の経済成長率が軒しいために、日本から中国への輸出が高い伸びを示し、それが日本からアジアへの輸出の仲びを高めているためだ。

第3に、ある国の輸出総額に長期的に影響するのは、その国の輸出の価格競争力である。

1980年代後半以降、日本の輸出は、アジア新興国、特に中国からの輸出によって侵食された。これは、中国の圧倒的な価桁競争力による。その背後には中国の低賃金がある。韓国、台湾の輸出が成長したのも、同じメカニズムによる。

80年代以降の世界では、こうした要因が圧倒的に大きかった。仮に日本がアメリカとFTAを結んでも、日本の対米輸出は増えないだろう。他方で、中国がアメリカとFTAを結ばなくとも、中国の対米輸出が減ることはないだろう。

海外移転が進めば関税同盟の意味は薄れる

関税同遊に関する古典的な議論は、ヤコブ・ヴァイナーによって50年代に展開された。彼は、関税同盟は、域内貿易を促進するだけでなく、(貿易転換効果」(trade diversion effect)も引き起こすとした。生産性の高いA国から輸入していたが、A国が域外になると、生産性の低い域内B国からの輸入に転換するという効果である。したがって、「関税同盟が締結国に利益をもたらすとは限らない」というのがヴァイナーの粘論だ。

ヴァイナーの理論は、今でも重要な論点を介む。しかし、「関税以外の要因が貿易に大きな影響を与えるようになった」という意味では、時代遅れになった。

FTAやTPPの議論は、貿易転換効果を無視している点でそもそも誤っているが、それに加え、右に述べた要因の影響を忘れて関税の効果に気を奪われている点でも誤っている。つまり、二重の意味で誤っているのである。

さらに、生産拠点海外移転の意味を考慮していない点でも、時代遅れである。

「韓国はEUとFTAを結んでいるから、EUとの貿易上、日本は不利な立場にある」と言われる。確かに、EUの輸入関税はアメリカの2倍程度はあるから、これがゼロになることの効果は無視しえない。

しかし、日本の企業であっても、工場を韓国に移転して輸出すれば、EUの関税を回避できる。80年代頃までの世界であれば、生産拠点の選択に制約があったから、「韓国が結んだから日本も」という議論に説得力があった。しかし、工場移転に制約がない現代世界では、そう考える必要はない。事実、日本企業は、すでに生産拠点の移転によって、他国が締結したFTAの利益を享受している。

生産拠点の移転は、次の意味でもFTAを無意味なものとする。日本がいくつかのアジア諸国とFTAやEPAを結んだのは、それらの国に移転した自動車組み立て工場に日本から部品を輸出する際の輸入関税引き下げが目的だった。しかし、部品メーカーも移転してしまえば、その必要はなくなる。「海外移転すると日本国内での空洞化が起きるから問題だ」という意見があるだろう。しかし、海外移転は、円高によって必然的に進む。そして、円高をコントロールすることはできない。だから、海外移転が今後も進行することを前提として物事を考えるべきだ。

日本の生きる道は海洋国家しかない

「TPPは、経済連携を進めるから重要だ」と言われることもある。確かに、一般論としてはそのとおりだ。しかし、連携協定を締結したところで、実際に連携が進むわけではない。その典型的な例が、外国人看護師受け入れ問題だ。

日本とフィリピンの経済連携協定に基づき、フィリピンの看護師を日本に受け入れることになった。しかし、難しい日本語の試験があるので、実際にはきわめて少数の看護師しか受け入れていない。日本側の受け入れが積極的にならなければ、いくら連携協定を結んでも、人材開国は進まない。協定を結ぶことが重要なのではなく、日本国内での外国人排斥をなくすことこそが重要なのだ。

最後に次の点を述べよう。FTAやTPPに対する基本的な誤解は、それを貿易自由化と考えることだ。これは、自由化でなく、ブロック化なのである、仲よしクラブを結成して、メンバー以外を排斥しようとする試みだ。

仲よしクラブは、複雑な外交ゲームを引き起こす。日本の外交がそれをマネージできる能力を持つとはとうてい思えない。事実、今回のTPPに関しても、アメリカの対中戦略だとの認識は希薄だ。

TPP推進の論拠として、「日本がTPPに入れば、中国もTPP参加を望むだろう」と言われる。しかし、アメリカの関税率は低いので、中国がTPPに参加するメリットはない。それに、中国は、頭を低くして「どうか入れてください」と言つてくる国ではない。仮に私が中国の政策担当者なら、TPPに対抗してEUとFTAを結ぶだろう。先に述べたように、EUの輸入関税はアメリカより高いから、対米FTAより効果が高い。その結果、中国市場はドイツに席巻され、日本の輸出は壊滅するだろう。

「TPPも、日中FTAも」という選択は、ありえない。仮にTPPか日中FTAかの二者選択なら、答えは明らかに後者だ。中国の輸入関税は高く、また経済成長率も高いからだ。ただし、それが日本の取るべき道とは思えない。日本は、あらゆるブロック化協定から距離を置くべきだ。

日本が目指すべきは、海洋国家だ。そのモデルはイギリスだ。イギリスは今ではEUに入っているが、長らくEECやECからは離れた立場を維持した。ユーロにはいまだに加盟していない。そのため、ユーロの混乱に巻き込まれないですんでいる。世界のどの国とも等しく付き合うことが、海に囲まれた国の歩むべき道である。

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