TPPによる輸出増加効果はたった0.4%

TPP(環太平洋戦略的経済連携協定)への参加が論議されている。「TPPが日本経済にとって必要」との考えは、「TPP参加によって日本の輸出が増える」という期待を基としている。そして、その期待は、TPPをめぐる議論で肖然のように前提されている。しかし、以下に示すように、そうした効果は期待できない。

TPP参加候補国のうち、日本からの輸出が最も多いのはアメリカだ。2010年の輸出額は10.1兆円であり、輸出総額の15.4%を占める。では、TPPに参加してアメリカの輸入関税がゼロとなれば、日本の対米輸出は増加するだろうか? そうとは考えられない理由を述べよう。

日本の対米輸出中の最大の項目は乗用車だが、この輸入関税率は2.5%と、すでに非常に低い。仮にそれがゼロになっても、日本からの輸出にはほとんどなんの効果もないだろう。

その半面で、為替レートの変化は、ずっと大きい。10年の春頃と比べると、為替レートは1ドル90円程度から77円程度へと15%近く変化した。これは、2.5%の関税などまったく問題にならないほどの変化だ。今後さらに円高になれば(その可能性は高い)、2.5%の関税がゼロになることの効果など、完全に吹き飛ばされてしまう。

他の品目はどうか。エレクトロニクス製品や家電製品に対する関税率はほとんどがゼロなのだが、かかっているものだけ取り上げても3%程度である。高くても5%程度だ。だから、これらに対してもTPPは影響を与えないだろう、

トラックに対する関税率は25%と、他の品目よりは高い。これがゼロになれば、影響があるだろう。しかし、日本からの輸出額は、ごく少ない。バス、トラックを合わせても、対米輸出額の0.5%にならない。だから、仮にトラックの輸出が増加しても、日本の総輸出に与える影響は微々たるものだ。

したがって、TPPに加盟したところで、日本の対米輸出にはほとんど効果がない。

FTAの輸出増効果はデータで認められない

TPPへの参加が予定されている他の国への輸出はどうか。このうち、シンガポール、マレーシアはすでに日本とFTAを締結ずみなので、TPPの影響はないと考えてよい。

問題は、FTA未締結国への輸出がどの程度増えるかだ。その予測は容易でないが、次のように考えてみよう。

01年から10年までの期間における日本からの輸出の変化を見ると、アジア全体では1.92倍になった。他方で、日本とFTAを締結した国は、シンガポール1.24倍、マレーシア1.16倍だ。

つまり、FTAを締結した国への輸出の増加率は、アジア全休より低いのである。貿易はさまざまな要囚に影響されるから、このことだけから「FTAは貿易増大効果を持たない」とは言えない。しかし、「FTAが貿易に対して絶大な増加効果を持つわけでない」とは言えるだろう。

日本との2国間協定ではないが、「日本・ASEAN包括的経済連携協定」に含まれている国として、タイとベトナムがある。前記の期間における貿易増加は、タイが2.08倍、ベトナムが3.31倍だ。アジア全体の伸び率に比べると、タイは8.2%、ベトナムは72.5%ほど高い。タイとベトナムの数字を貿易額で加重平均すれば、アジア全体の伸び率に比べて16.7%高い。

言うまでもないことだが、これにはさまざまな要因が関係しており、そのすべてが経済連携協定の影響ではない。しかし、FTAの影響について最大限に好意的な見方をして、このすべてが経済連携協定の効果だとしよう。

そして、TPPへの参加が予定されているがこれまで日本と貿易協定を結んでいない国(オーストラリア、ニュージーランド、ブルネイ)に対する日本の輸出が、TPP締結によって16.7%増加するものと考えよう。

これらの国に対する輸出額は、10年において日本の輸出総額の2.5%を占める。これが16.7%増えれば、日本の輸出は0.4%増える。

つまり、TPPによる貿易拡大効果とは、たかだかこの程度のものなのだ。これまで述べたことからわかるように、これは貿易協定の効果を非常に好意的に見た場合の数字である。それでもこれだけの効果しかないのだ。これは、ほとんど無視しうる効果である。

そして、現実の世界においては、輸出は為替レートの変動によって絶大な影響を受ける。韓国の輸出増も、ウォン安による。07年には、100ウォンが13円近くしたが、最近では、6.5円程度にまで安くなっている。10年春と比べても、25%程度のウォン安だ。韓国の輸出が伸びるのは当然である。

中国こそ日本にとって重要 その出方次第では輸出激減

日本にとって重要な輸出相手国は、TPP参加予定国でなく、不参加国である。とりわけ中国だ。

10年において、中国への輸出は13.1兆円であり、日本の総輸出の19.4%を占める。中国は日本の最大の輸出先であり、しかも、関税率も高い。

したがって、もし貿易協定を結ぶのであれば、相手はアメリカではなく、中国である(私は、TPPやFTAのような関税同盟、すなわち経済ブロック化協定に対しては、それらが自由貿易を阻害することから、一般的に反対である。もし「どうしてもやりたいのなら」という意味である)。

しかし、日本がTPPに入れば、アメリカは日中FTAを許さないだろう。なぜなら、TPPとは、アメリカの対中国太平洋戦略の一環であり、中国を排除することこそが目的であるからだ。

したがって、日本のTPP参加は、中国の反応を惹起するだろう。実際、日本がTPPに加盟すべきだという主張の理由として言われるのは、「韓国がEUやアメリカとFTAを結ぶから、日本をやらないと乗り遅れる」というものだ。ブロック化協定は、「そこから排除された国が別のブロック協定に走る」という「ブロック化の連鎖反応」を引き起こすのである。

だから、TPPに対抗して、中国がTPP非加盟国と積極的なFTAを求めることは、十分考えられる。その相手はEUだろう。なぜなら、輸出・輸入両面においてEU(なかでもドイツ)は、中国にとって重要だからだ。そうでなくとも、経済危機後のユーロの減価によって、中国市場でのドイツの存在感は大きくなっている。

仮に中国とEUのFTAが締結されるなら、中国市場はドイツに席巻されるだろう。したがって、日本の対中輸出は激減する。それは、日本の製造業にきわめて大きな影響を与えるだろう。日本の対中輸出は、機械や部品などの中間財が中心だ。そして、今後の日本の輸出は、新興国に対する中間財の輸出をこそ中心にすべきなのである。

そして、この分野においては、日本と似た産業構造を持つドイツがライバルだ。日本にとってもドイツにとっても、中国に対する中間財の輸出を増やせるかどうかが、貿易上の大きな課題なのである。

中国以外に日本の輸出先として重要なのは、韓国、台湾、香港である。台湾、香港が中国と同じ行動を取れば、日本の輸出は壊滅的な打撃を受けるだろう。日本のTPP参加は、日本の製造業にとって自殺行為としか考えられない。

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