経済法則に逆らえば政策も事業も失敗する

日本経済のこれまでの成長モデルであった輸出立国モデルは破綻しており、部分的に修復しようとしても、かえって事態が悪化する段階に達している。前回、このように述べた。

新しい成長モデルを考える場合に注意すべき最も重要な原則は、「経済法則に逆らってはいけない」ということだ。これまで日本が取ってきた経済政策は、経済法則に逆らっていた。

1995年に円高になり、自動車を中心に輸出が減少した。これに対処して、為替レートを円安に誘導するための為替介入が始まった。2000年頃にも円高が生じ、金融緩和が行われた。そして03年には大規模な為替介入が行われ、これが円キャリー取引を誘発して、著しい円安が進行した。

それによって、自動車を中心として輸出が増加した。これが輸出立国モデルだ。

しかし、物価上昇率が他国より低い国の名目為替レートが増価するのは、経済法則なのである(実質為替レート一定の法則)。実際、円安政策は一時的には成功したものの、持続することはできなかった。

07年夏のアメリカ金融危機をきっかけとして、為替レートは急激に円高方向への動きに変わり、このモデルは破綻した。

現在の円の価値をドルで評価すれば、07年夏頃に比べて63%ほど高くなった。

ただし、長期的に見れば、今が円高なのではなく、07年までが異常な円安だったのである。経済危機後の円高は、それが正常な水準に戻りつつあるだけのことだ。そして、実質レートで見ると、長期的な比較ではまだ円安だ。だから、今後もさらに円高が進行する可能性が高い。

外国に「売る」のでなく「買う」ことを考えよ

為替レートは、日本経済の今後の成長モデルを考える際に最も重要なポイントだ。現状のレートが異常でないことを認め、将来さらに円高になる可能性が強いことを想定し、その条件下で成立しうるモデルを考えなければならない。

円高によって、日本製品の海外価恪は6割以上高くなった。だから、「国内で生産したものを外国に売る」というモデル、つまり輸出立国モデルは、07年頃までに比べて著しく不利になった。それに対処して.H本の製造業はすでに生産拠点の海外移転を進めている。これは、正しい対応である。

「売ることから買うことへの転換」は、サービスについても必要なことだ。たとえば、外国人の日本国内旅行は、円高によって不利になっている。

だから、観光によって地域振興を図るという政策は、成功しないだろう。「観光立圓モデル」は、「輸出立国モデル」が成り立たないのと同じ意味で、成り立たないのである(それに、もともと口本国内の観光産業は生産性が低く、割高でサービスの質もよくない。だから、円高にならなくとも国際競争力はない。震災前から、外国人旅行者数がフランスのほぼ10分の1しかなく、世界ランキングが二十数位であることが、それを明確に示している)。

外国人の患者を日本に呼んで医療サービスを与えるという「メディカルツーリズム」が考えられているが、これも同様の問題を抱えている(ただし、いくつかの分野で日本は先進医療を提供しうるから、一般的な観光モデルに比べれば可能性は高い)。

売ることが不利になった半面で買うことが有利になったのだから、外国から財やサービスを買うことを考えるほうがよい。それによって豊かな生活を実現すべきである。

この際、貿易だけで対外収支が均衡する必要はない。対外経常収支の黒字は、所得収支の黒字で実現することができる。すでに05年から、所得収支の黒字は貿易収支黒字を上回っている。今後貿易収支の黒字は減少する(赤字が恒常化する可能性なある)ので、所得収支黒字の重要性は、ますます高まる。

対外資産の運用を効率化すれば、所得収支黒字はさらに拡大するだろう。その運用のために、外国人のサービスを買ってもよい。これは、イギリスが金融業の活性化のために行ったことであり、「ウィンブルドンモデル」と呼ばれている。日本を同じことを行えばよい。

円高によって海外企業の買収が行いやすくなったと言われる。確かにそれも円高活用の手段だが、それより人材を買うほうが日本経済活性化に寄与するところが大きいだろう。07年と比べて、6割以上高い給与を払えるのだ。円高を活用する方法としては最適だ。

日本は「金持ち」なのである(日本の対外純資産額は世界一である)。製造業の競争刀は衰えたが、これまで蓄積してきた富は巨額だ。これこそが日本の最大の強みなのであり、われわれはその活用を真剣に考えなければならない。「働いて作ったものを売る」という「労働者モデル」から、「これまでの蓄積を活用する」という「金持ちモデル」への転換が必要である。

低所得国の労働を使い高所得国に売る

これまでも、中国をはじめとする新興国の工業化が日本経済に大きな影響を与えてきた。今後も、新興国の重要性が増す。日本経済にとって、新興国とのあいだでどのような関係を樹立するかも、新成長モデルを考える際の、重要なポイントだ。

新興国とは、所得の低い国である。中間所得層が成長しつつあるのは事実だが、彼らは、日本の標準で言えば、最低賃金以下の労働者や生活保護世帯のレベルだ。したがって、高働な製品を買うことはできない。そのため、高価な製品は売れず、企業の利益率は低下せざるをえない。

したがって、新興国に売るのではなぐ、その労働力を使うモデルを確立することが必要だ。

製造業の海外移転は、この観点からも正しい。したがって、政府の政策は、それを阻止するのでなく、サポートすべきだ。それによって日本国内に新しい雇用が創出されるだろう。

売る相手は、新興国ではなぐ、先進国でなければならない。アップルが行っているのが、まさにこうした生産と事業モデルだ。したがって、これを「アップルモデル」と呼ぶことができるだろう。いま一つ重要なのは、国内の人口構造の変化で生じる新しい需要に対応することだ。「人口減少で国内需要が減る」と言われるが、そんなことはない。

まず第一に、総人口の減少はこの数年で始まったばかりの現象だが、製造業の国内需要減少は90年代の中頃からすでに生じている。

それに、総人口の減少は、減少率が年率1%未満のきわめて緩やかなものである(2010年から11年までの人口減少率は0・2%にすぎない)。

それよりはるかに重要なのは、年齢構成の変化によって若年層人口が減少したため、住宅や自動車などの従来型の需要が減少したことだ。

他方で、高年齢層の人口は絶対値で見ても増加しているため、医療や介護の需要は増える。これらのサービスの価格は上昇しているし、供給が需要に追いついていない。これらは、この分野で需要超過が発生しているなによりの証拠である。

医療や介護は、基本的には公的保険の中で対応しようとしているために、こうした事態がもたらされる。市場メカニズムで対応できる余地を拡大すれば、潜在的な需要は顕在化する。それは、日本経済の中に新しい成長産業を生むことになるだろう。

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