復興を口実の増税は財政再建にマイナス

政府・民主党は、9月27日、復興財源の大枠を決定した。所得税を中心として9兆円程度の臨時増税を行い、法人税減税を凍結する。

それにしても、震災後半年以上たってやっと復興財源の基本が決まるとは、なんというスローペースであろう。財源が決まらなかったために、復興には著しい遅れが生じた。

本来であれば、復興資金需要の商まりで、今頃は金利がすでに上昇していなければならない。震災直後の時点で、秋には間違いなくそうした事態になると、私は予測していた。しかし、現実には、金利は1%程皮の水準で推移している。これは、復興資金需要が生じていないことを示している。金利が暴騰しないこと自体は望ましいが、それが復興の遅れの結果であることを考えれば、決して歓迎できるものではない。ところで、問題はペースが遅いだけではない。もっと大きな問題は、増税が必要であるとする理由づけがおかしいことだ。

財務省が主張するところによれば、世代間の公平を実現するため。復興支出の負担を後の世代に負わせてはならず、そのため増税が必要なのだという。

しかし、この考えは、まったく奇妙なものだ。なぜなら、復興のための財政支出の大部分は道路や橋などの社会資本建設に充てられるからだ。これらは長期間存続するものであるため、将来の世代もその利益を享受する。だから、見返りに負担を負うべきだ。

今後10年間程度の期間に働き盛りになる世代だけがなぜ復興の負担を負わなければならないのか? その理由はまったく明らかでない。むしろ、利益を受ける後世代も負担しなければ、世代間の公平を保てない。「復興のための負担を現世代だけが負うべきだ」というのは、負担の世代問公平原則に著しく反する考えだ。

財務省の主張は、建設公債の償還ルールとも矛盾する。公共事業で建設される逆路や橋は、60年程度の耐川年限を持つと考えられることから、建設公債の償還期限は60年とされている。そして、復興財政支出の大部分は、すでに述べたように社会資本投資だから、建設公債対象経費だ。

したがって復興国債だけ償還期限を10年とすれば、ルールの整合性が取れなくなる。整合性を保つには、一般の建設公債についても10年償却ルールに変更する必要がある。

また、経常的支出に充てられる赤字国債の償還期限は、当初は10年だったが、1985年度から60年にされている。本来であれば、赤字国債の償還期限を10年に戻し、復興国債のそれを60年とすべきだ。

増税は政治的にきわめて困難な課題である。だからこそ、正しい論理が必要なのである。それにもかかわらず、今回の増税は、理由づけが誤っている。

復興は口実であり、真の目的は増税そのものであることが、誰の目にも明らかなのである。

理屈はどうであれ、この機会をとらえてとにかく増税しようという魂胆が見え見えだ。それゆえに、賛同を得られなかった。今後も于定どおりに増税ができるかどうか、まだわからない。

負担先送りを停止すべきは社会保障

私は、「どんな場合でも増税すべきでない」と言つているのではない。また、「現時点で増税すると日本経済が疲弊する」と考えているのでもない。まったく逆であって、日本の財政が抱えているきわめて深刻な財政アンバランスに対処するため、増税は不可避だと考えている。

私が憂慮するのは、後で述べるように、復興という1回限りの支出のために基幹税が用いられたため、本来必要な目的のために基幹税を増税するのが困難になったことだ。

「利益と負担の世代間バランス」は、社会保障経費、特に年金について、強く要請される。後世代に負担を負わせてはならないのである。なぜなら、現時点で支給される年金は、受給世代が使ってしまうからだ。この意味で、復興関連経費と社会保障関連経費は、まったく性質を異にしている。

ところが、現実に年金保険料を負担しているのは、現役の若い世代だ。したがって、世代間の公平が侵されている。

仮に年金制度が大昔から存続しており、また人口が不変であれば、若年期の負担は退職後の受給で補われる。しかし、現在年金を受給している世代は、若年期には低い負担しか負っていなかった。また、総人口が減少しつつあるため、後世代ほど負担が重くなる。

それに、日本の年金制度は、最初から現在のような仕組み(現時点の給付を現時点の若年層が負担する仕組み。これは、「賦課方式」と呼ばれる)にするつもりでなかった。

発足当初は、積み立て方式で運営していたつもりだったのである。保険料が低過ぎたために、事実上賦課方式になってしまったのだ。

結局のところ、負担先送りをしてはならない対象(社会保障)でそれを放置し、負担先送りをすべき対象(復興支出)について、「先送りしてはならない」と言っているのである。

これでは、まったく逆だ。社会的コンセンサスが得られるはずはない。

今回の増税で財政再建が困難になる

今回の増税に消貧税は含まれていない。それは、社会保障のために温存されている(『社会保障・税一体改革成案』は、2010年代半ばまでに税率を引き上げるべしと握言した)。

しかし、社会保障費の増加に起因する財政収支のアンバランスは、消費税だけで解決がつく問題ではない。所得税や法人税の基本構造や負担水準に関する抜本的な見直しが不可欠である。

ところが、今回の増税によって、それはほぼ不可能になった。復興のために所得税の増税と法人税減税の凍結を行い、それに加えて社会保障のためにこれらを増税するというのでは、国民の理解はとうてい得られないだろう。復興は1回限りのものであるから、基幹的な税には手をつけるべきでなかった。復興財源としてそれらを使ってしまっのは、財政再建に大きなマイナスだ。これこそが、今回の増税がもたらす最大の問題である。財務省は、短期的増収に固執するあまり、将来に大きな禍根を残した。

ところで、財政構造正常化のために必要とされるいま一つの課題は、歳出構造の見直しだ。とりわけマニフェスト関連経費の見直しは急務である。ところが、復興財政をめぐる議論は増税だけに集中してしまい、歳出構造の見直しは忘れられてしまった。

東日本大震災の直後、「こんなことに財政資金を使う余裕などないはずだ」と多くの人が感じたに違いない。しかし、それから半年以上たって、危機感と緊張感は、薄れたように思われる。しかし、見直しが重要な課題である事実には、なんの変わりもない。

見直しが必要なのは、マニフェスト関連経費だけではない。最も重要なのは、社会保障費そのものである。とりわけ、年金制度の抜本的な見直しが必要だ。人口高齢化が進むなかで現在の給付水準や受給開始年齢を維持するには、いくら増税しても追いつかないからである。そうしたことが必要であるにもかかわらず、「一体改革」は、これについて踏み込んだ提案を行っていない。

今なすべきは、復興を口実に増税することではない。復興の危機感をテコに、ムダな財政支出を削減することだ。

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