世界金融市場の動揺と日本経済のゆくえ

世界金融市場が不安定化し、動揺が続いている。9月上旬のG7では、具体策はなにも出てこなかった。

今の世界金融の問題は、経済危機に対処するため各国が積極政策を採用し、そのために財政赤字が増加したことが原因だとされることが多い。

そうした側面があるのは事実だ。しかし、国あるいは地域によって、問題の性質は大きく異なることに注意が必要だ。

ヨーロッパの金融危機の大きな原因は、ギリシヤの財政赤字問題が解決できないことだ。その結果、ギリシヤ国債が下落し、10年債の利回りが20%を超える危機的な状況になった。ドイツやフランスの銀行がギリシヤ国債を保有しており、損失が生じる可能性がある。これまで行われてきたドイツやフランスのギリシヤ支援は、十分とはとうてい思えない。しかし、これ以上の支援は国内世論との関係で難しい。

このように、ヨーロッパにおける問題は、全世界的な問題というよりは、ギリシヤという特殊な国が引き起こした財政危機の問題である。それが、ユーロという特別な仕組みの下で起こっているために問題が深刻化しているのだ。

仮にギリシヤがユーロに加盟していなければ、通貨は下落する。それによってギリシヤ政府は財政再建を強制されただろう。1990年代末のアジア通貨危機で韓国が経済再建を強制されたようなものである。

あるいは逆に、ヨーロッパが一つの国になっているのであれば、ドイツやフランスの銀行がギリシヤの国債を買い支える。さらに、財政的な支援がなされる。このどちらもできない仕組みになっているので、問題が解決できないのである。

ユーロとは、財政統一なしに金融のみを統一した仕組みだ。一般的に考えても、もともと無理な仕組みである。現実のユーロ圏ではさらに、ドイツ、フランスなどの先進的グループと、ギリシヤ、スペインなどの後進的グループが混在している。これら二つのグループのあいだには、生産性に大きな格差がある。仮に財政統一すれば、日本国内で都市地域が農村地域を支えているのと同じようなことになる。これまでの支援さえ、ドイツ国民は支持していない。だから、財政統一に進むのはとうてい無理だ。

こうしたユーロの基本問題が、今典型的なかたちで表れている。ユーロの仕組みを抜本的に変えない限り解決できない。現実的には、ユーロの解体(最低限、ギリシヤの離脱)しか解決策はないと思われるが、それを実現できるかどうかは、定かでない。

日本が大きな影響を受けることはない

アメリカの財政収支は、経済危機への対応で大幅に悪化した。アメリカ国債の格付けが引き下げられたことがそれを示している。

それにもかかわらず、財政再建のために増税するという動きはない。

FRBは、失業を減らすためにさらに金融緩和を行う。その結果、ドルの価値が下落する。経常収支の赤字は減らない。かつてと同じく、双子の赤字の状態になった。

しかし、アメリカの状況は、ギリシャとは雌本的に違う。アメリカが差し迫った財政破綻の危険に面しているわけではない。それは、格付けが下がったにもかかわらず、アメリカ国債の利回りが上昇せず、むしろ下落したことに表れている。

巨額の経常収支赤字を継続できているのも、それを補う資本流入が続いているからだ。それは、アメリカ経済が今後も成長し、アメリカが投資に値する国だという期待があるからだ。

資本流入は主として中国からのものだ。資本収支の大幅赤字は経済危機前と同じ構造だが、資本輸出国の構成が変わった。経済危機前は、アメリカに資本を供給したのは、産油国、中国、それに日本であった。産油国の比重は変わらないが、中国の比重が高まる半面で日本の比重が減った。

では、以上で述べたことの日本への影響はどうか。

ヨーロッパの金融危機は、日本に大きな影響を与えることはないだろう。アメリカ金融危機は、日本の対米輸出減を通じて、また中国の対米輸出減が引き起こした日本の対中輸出減を通じて、日本経済に大打撃を与えた。これは、金融的な連関ではなく、貿易を通じてのリアルな連関であった。

しかし、今回はそうした影響はないだろう。ユーロ安も日本の貿易に大きな影響を与えないだろう(ユーロ安にもかかわらず、欧州車の国内販売価格はほとんど下がっていない)。日本とヨーロッパのあいだには、金融面でも貿易面でもあまり強い関係はないからだ。影響があるとすれば、中国の対欧輸出が減少することを通じる間接的な効果だ。しかし、それよりは、中国自体のインフレや成長減速に伴う影響のほうが大きいだろう。

アメリカとの関係で言えば、アメリカが金融緩和を続けて日米金利差が拡大すれば、円高になる。これが日本の対米輸出をさらに減らすことになるだろう。

現在の国際経済構造は持続可能ではない

以上のすべてに共通しているのは、現在の状況が、長期的に継続しうるものではないことである。

ユーロが構造的問題をはらんでいることは、すでに述べた。これは、誰の目にも明らかなことだ。しかし、アメリカをめぐる資本移動の関係については、それほどよく理解されていない。

経済危機前の日米経済関係は、「日本がアメリカに対する貿易黒字を資本輸出でアメリカに還流させる」というものであった。日本から流入した資金がアメリカの住宅価格と証券化商品投資を支えた。そして、日本からの資本流出のため、円安が加速した。しかし、この構造は、経済危機で破綻した。

中国とアメリカの関係は、中国が貿易黒字を記録して資本輸出をするという意味で、日本の場合と同じだ。人民元が増価しないのも、中国からアメリカへの資本流出があるからだ。

では、この関係は継続するだろうか? 今のところよくわからない。大きな不確定要因は、中国の側にある。特に、インフレがどう収束するかだ。また、中国の対外資産運用対象がアメリカ国債から離れる可能性もある。どちらにしても、変化を引き起こす原因は、中国の側にある。

日本の国内問題はどうか。日本の財政事情は、ヨーロッパやアメリカに比べてはるかに深刻である。それにもかかわらず、国債は順調に消化されている。日本国債の格付けは引き下げられたが、国債消化にはまったく影響を与えていない。それどころか、利回りは低下している。これは、アメリカの場合と表面的には同じ現象だ。

しかし、国債消化の構造は、アメリカの場合とはまったく違う。アメリカは海外からの資本流入で国債を消化しているが、日本で国債が消化できているのは、海外から長期資本が流入しているからでもなく、国内貯蕃が増えているからでもなく、対企業貸し付けが減少しているからだ。これは、日本国内の生産性を長期的には引き下げる。つまり、日本経済は、徐々に蝕まれているのである。だから、長期的に見ると、日本が最も深刻な問題を抱えている。緩慢に進行する病だからこそ解決が難しいのだ。

唯一日本にとっての救いは、巨額の対外資産を保有していることだ。日本は、生産性は低下しているが、「金持ち」なのである。その資産をどう活用するかは、大変重要な課題である。

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