株価下落の真の要因は日本の経済政策

株価の大幅な変動が続いている。11月12日には日経平均で580円を超える下落を記録した。その後反発したが、株価の行方は不透明だ。

株価の大幅な下落は、2月、8月にも生じたので、今年になって3度目である。これら3下意の株価変動は、同じメカニズムで生じた。すなわち、円高が進行し、それが企業業績に悪影響を与えると考えられて株価が下落したのである。

8月と今回の株価下落の背景には、アメリカのサブプライムローンの破綻がある。しかし、日本の金融機関がサブプライムローン関連で多額の損失を被ったわけではない。影響は、以下に述べるように、世界的な金融連関を通じるものだ。

円高が株価を崩壊させた事実は、ここ数年の景気回復が円安によって支えられていたことを明白に示す結果となった。企業業績の回復については、リストラ努力により日本企業の生産性が高まったためであると説明されてきた。

そうした面があったことは事実だろう。しかし、本当に日本企業の体質が強くなったのであれば、円高によって株価がかくも脆く挫折してしまうはずはない。

他方で、円レートは、今年の夏頃には歴史的な低水準にあった。実質実効為替レートで見れば、1985年のプラザ合意直前のレベルにまで円安が進んでいたのである。これにより輸出産業の収益が増加し、また世界的な原材料・資源価格の高騰により、資材産業の利益が増加した。

今回の景気回復は、このような価格要因によってもたらされたものである。日本企業の体質が90年代に比べて大きく改善されたことによるものではない。好景気の基盤は、まことに脆いものであったのだ。

低金利政策と円安誘導が招いた円キャリー取引の拡大

今年の株価下落は、世界的な規模で生じた。日本以外の国でのそれは、サブプライムローンの破綻に伴う関連金融商品の値下がりで金融機関などが損失を被ったことによる。しかし、日本での株価下落は、円高による輸出産業の収益低下という古典的なメカニズムで生じたのだ。

つまり、これまでの大幅な円安によって支えられてきた株価が、支えを失って下落しているのである。言い換えれば、ここ数年の株価上昇がむしろ異常だったのであり、それが正常なレベルに戻っているのだ。実際、日本の株価下落率は、アメリカのそれよりも高かった。

では、なぜ円高が進行したのだろうか? 一般に、長期的な為替レートは、一国の生産性が上昇すれば増価する。しかし、今回の円高は、右に述べたように、日本企業の生産性が改善したためにもたらされたものではない。

また、一般には、サブプライムローンの破綻によってアメリカの住宅建設が縮小し、それがアメリカ経済の成長率を低めるためにドル安が生じているとの説明が行なわれている。そうした要因があることも否定できないだろう。しかし、今回の円高・ドル安は、金融的な要因によって引き起こされた面が強い。

すなわち、円で借りて外貨で運用する「円キャリー取引」がこれまで大規模に行なわれてきたが、それが、日本と諸外国との金利差縮小により「巻き戻し」されたことによって生じているのである。巻き戻しされると、円を返却するために円が買われる。このために円高になるのである。

金利差の縮小が巻き戻しの引き金をひいているのは、これまでの株価下落を見ても明らかである。2月には日本銀行が金利を引き上げたため、外国との金利差が縮小した。8月には、欧米諸国で金利が引き下げられた。今回は、アメリカ連邦準備制度理事会が追加利下げを行なっている。

では、なぜ円キャリー取引が拡大したのか? これには2つの要因がある。1つは日本の低金利政策であり、いま1つは円安誘導である。

日本の金利が海外に比べて低いことが円キャリー取引の原因であると、一般に考えられている。しかし、長期的に見れば、日本の低金利は、本来は、円高が進行することによって調整されるはずなのである(海外の高い金利で運用しても、円に戻すときに為替差損を被るので、結局、日本国内で運用した場合と同じことになる)。

つまり、為替レートが自由に動けば、日本が低金利であっても、必ずしも円キャリー取引が発生するわけではない。円キャリー取引が大規模に発生したのは、日本政府が為替市場に介入して円高の進行を阻止したからだ。

円キャリー取引は、世界的なカネ余り現象の1つの原因になっている。過剰流動性はオイルマネーによって引き起こされている面もあるから、必ずしも円キャリー取引だけが原因ではない。しかし大きな原因になっていることは疑いない。

このように、日本の異常なマクロ経済政策が、世界的な金融条件を大きく撹乱してきたのだ。そこに、サブプライムローンの破綻というショックが加わったために、前記のようなことが生じたのである。この意味で、今回の株価下落は、日本のマクロ政策がこれまでまいてきた種によって生じたと言うこともできる。

統計上の物価動向と生活者の実感が乖離

ところで、日銀は、11月13日の金融政策決定会合で利上げを見送った。株価下落が生じているなかでのこの決定は、妥当なものと一般には受け止められている。しかし、ここにはいくつかの問題があると言わざるをえない。

第一に、サブプライムローンの破綻問題は、まだ最終段階には至ったとは考えられない。住宅価格の下落がさらに破綻を促進するから、今後も問題は続くだろう。そうだとすると、日本の異常な金融政策は、いつになっても正常化できないことになる。

第二は、これまで説明されてきた金融政策の基本的な考え方との整合性だ。日銀は、「物価下落が続く限り金融緩和を続ける」と表明してきた。これは、「物価のみを見て金融政策を決める」ということではないし、「物価かが上昇すれば金融緩和を解除する」ということでもない。しかし、物価下落が金融緩和政策の正当化に用いられてきたことは、事実である。

ところが、物価動向については、最近大きな変化が見られる。原油価格の上昇によってガソリン価格が顕著に上昇しているし、世界的な原料価格高は、やがては最終製品にも及ぶだろう。また、タクシー料金の値上げに見られるように、国内のサービス価格も上昇気味である。

したがって、統計的に見た物価動向と生活者の実感とのあいだに、乖離が生じ始めている。生活者の実感としては、むしろ値上がりが強く意識される。こうした状況下で、異常な低金利政策を正当化できるか、大いに疑問だ。

消費者物価指数の下落は、大量生産される製造業製品の価格が下落を続けているために生じている。そして、それは中国をはじめとする新興工業国からの輸入品の影響だ。これは、世界経済の構造変化に起因するものであり、過小な貨幣供給量のために生じている「デフレ」ではない。

構造変化に対して、金融緩和が有効な政策になりうるはずはない。日本はこれまで、誤った認識の下に誤った金融・為替政策を継続してきた。その政策がもたらす矛盾が今、噴出していると考えるべきであろう。

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