消費税の前に必要な保険料の大幅引き上げ

「社会保障・税の一体改革」では、「2010年代半ばまでに消費税を10%に引き上げる」こととしている。しかし、この程度では、社会保障財政が抱える深刻な問題はまったく解決できず、焼け石に水だ。前回、このように述べた。背景を以下に述べよう。

日本の人口構造変化の基本的方向は、高齢者が増えて生産年齢人口が減少することだ。これまでもそうだったが、今後もその傾向か継続する。

国立社会保障・人口問題研究所の将来人口推計(中位推計)によれば、65歳以上人口は、10年において2941万人だが、42年の3863万人まで増え続ける。他方で、15~64歳人口は、10年の8129万人から42年の5546万人まで減少する。つまり、この32年間のうちに、商齢者は1.31倍になる半面で、生産年齢人口は68.2%にまで減少してしまうのだ。

なお、今後30年間程度の将来に関する限り、その時点の人口の大部分はすでに生まれてしまっているので、今後出生率が高まったとしても、基本的な人口構造が大きく変わることはない。

社会保障の議論をするのであれば、細かい議諭をする前に、まず以上のことをはっきり認識しておくことが必要だ。

これによって、社会保障給付費はどれだけ増加するだろうか? そのために、過去の推移を見よう。

65歳以上人口は、1990年には1490万人たったが、08年には2822万人になり、2倍弱に増加した。他方で社会保障給付費総額は、90年度の47.2兆円から08年度の94兆円へと、ほぼ2倍に増加した。この間に社会保障制度に大きな改革は行われなかった。つまり、社会保障給付費は、制度を変えなければ、高齢者人口にほぼ比例して増えるのである。年金や介護は直接に高齢者を対象にしたものであり、医療費も鳥齢者のものが大きな比重を占めるので、こうなるのは当然のことだ。

したがって、42乍までに高齢者人口が3割増えれば、社会保障給付費総額は、現をの約3割、つまり約30兆円増えることになる。これに対して財源を手当てする必要がある。一ところで、消費税率を5%引き上げることによって得られる税収は、12.5兆円程度である。これは、必要とされる総額の3分の1程度でしかない。実際には。12.5兆円の税収のうち、2.5兆円は地方に回され、3.7兆円程度は地方交付税交付金になる。また、すでに決定されている基礎年金の国庫負担率引き上げのために、2.5兆円か割り当てられる。

したがって、残りは4兆円程度しかない。これは、本来必要とされる負担増のわずか8分の1程度だ。

社会保険料率を2倍に引き上げる必要

社会保障給付費は、いくつかの財源によって賄われている。全体の55~60%程度を占めるのが、社会保険料だ。これはさらに、本人負担分と事業主負担分に分かれる。かつては事業主負担分のほうが多かったが、01年度頃から両者はほぼ等しくなり、それぞれ全体の3割程度を負担している。

したがって、現在の制度を維持するなら、上で見た30兆円増の6割程度である18兆円ほど、社会保険料を増加させる必要がある(なお、基礎年金の国庫負担率を引き上げたため、社会保険料の比率は低下して国費の比率が上昇した。ただし、これによる変化は社会保障給付費総額の2%強でしかない)。

社会保険料は、主として生産年齢の人びとが負担する。したがって、1人当たりの保険料負担を、1.31りの保険料負担を、1.31÷0.682=1.92倍にする必要がある。現在より3割ほど増える給付を、現在より3割以上減少した人びとで負担しなければならないために、このような高率の引き上げが必要になるのだ。

厚生年金の保険料率は、11年度において16.412%であるが、これを17年度に18.3%にまで引き上げ、その後は固足することとされている。これがいわゆる「100年安心年金」であるが、この程度の引き上げでは、とうてい足りないわけだ。

このことは、シミュレーション計算でも確かめられる。すなわち、18.3%までの保険料率引き上げでは、厚生年金保険の積立金は、30年頃に枯渇すると予測される(拙著『日本を破滅から救うための経済学』、第4章、10年、ダイヤモンド社)。

財政検証の結果が、「18.3%までの保険料率引き上げだけで100年持つ」という結果になっているのは、給与の伸び率として、10年は3.4%、その後も3%近い値、16年以降は2・5%という非常に高い値が仮定されているためである。現実には、1人当たり給与は、01年以降、年率1%ほどで低下しているのだから、これは荒唐無稽な想定と言わざるをえない。

言うまでもないことだが、保険料率を現在の2倍近くに引き上げることは、どんな観点から見ても不可能なことだ。

年金保険料について言えば、将来の受給に不安があるなかでこうした高率の負担を求めるのは、不可能である。厚生年金保険料は給与から天引きされるために逃れることができないが、国民年金の保険料納付率は、著しく低下している。10年度では、59.3%となった。これが回復する見込みは、ほとんどない。

国民年金の未納が増えれば、その負担は厚生年金や共済年金などの被用者年金にかかってくる。したがって、被用者の保険料負担は、2倍以上になる可能性が十分にある。

保険料のほぼ半分は、事業主負担だ。現在約28兆円ある。これは、法人税の総額(11年度予算で7.8兆円)よりはるかに大きい。

これが3割増えれば、経済活動に対する大きな桎梏となる。消費税率引き上げもさることながら、その前に考えるべきは、こうした高率の社会保険料を日本経済が支えられるかどうかである。

今後30年間程度が正念場となる

国民年金保険料納付の実情を見て、年金を全額税方式に転換させようとする提案がある。これは、主として、事業主負担を免れたい企業の要請だ。

白紙にプランを描くなら。それも可能だろう。しかし、現実には、年金制度はすでに数十年前に発足している。したがって、保険料をすでに納付している人が多数存在する。これまでの納付記録をいっさいご破算にして、保険料を納付しなかった人も同額の年金を受けられるようにすれば、著しい不公平が生じるだけでなぐ、プランが発表された途端に、保険料を支払う人はいなくなってしまうだろう。

したがって、これまでの保険料支払いの実績を年金に反映させざるをえない。つまり、経過期間が必要なわけだ。それは、現在30歳の人が80歳近くなる程度まで必要だろう。つまり、今後50年近くの経過期間が必要なわけだ。しかし、この経過期間は、いかにも長い。

日本の社会保障財政問題の正念場は、これから42年頃までの30年間を乗り切ることができるかどうかだ。とりわけ、20年頃までは高齢者人口の増加がかなり顕著なので、高齢化が財政に対して大きな圧力であり続ける。

この期間において高齢化にいかに対処するかが、日本の財政にとってきわめて重要なのだ。50年近くたたないと本来の効果が表れないような改革は、このような事情を前にしては、ほとんど無意味である。

Comments

comments

Powered by Facebook Comments