認めるべきでない証券優遇税制の延長

2003年に設けられた「証券優遇税制」の存続が、08年度税制改正の重要な課題になっている。金融庁は延長を求めているが、財務省は認めない方針だ。自民党内には延長を求める声が強いが、民主党は不要であるとしている。

私は、優遇税制の延長を認めるべきではないと考える。その基本的な理由は、株式の譲渡益や配当所得だけを他の所得より優遇すべき理由がないからだ。税において、公平性は最も重要な基準である。その原則をここでも貫徹すべきだ。

導入当初は株価が低迷していたため、テコ入れが必要とされ、時限の特別措置として、株式譲渡益と配当の税率を本則の20%から10%に引き下げた。他方で、預貯金利子などの税率20%は変えなかったので、株式投資だけが不当に優遇されることとなった。当初の適用期限は07年末と07年度末だったのだが、自民党税制調査会が1年間延長した。

特別措置の継続は格差をさらに拡大させる

超金利政策のために、預貯金の利子は減少している。そして、預貯金は比較的低額の資産者が保有するものであり、株式は比較的高額の資産者が保有するものである。したがって、現在の特別措置は高額資産者を優遇するものとなっている。

ここ数年の状況を見ると、配当所得が顕著な伸びを示している。これは、「格差」問題の重要な根源になっているのである。特別措置の継続は、格差をさらに拡大させるだろう。

問題は資産所得の内部にとどまらない。給与所得の場合、税率が10%を超える場合は、ごく普通だ。したがって、株式所得が勤労所得に比べて著しく優遇されていることになる。これは、公平の観点から見て大きな問題であるばかりでなく、高齢化社会における税制という観点からも、大問題だ。

なぜなら、資産所得は高齢者に、勤労所得は若年者に、それぞれ偏るからである。したがって、高齢者の比率が高まれば、所得全体に占める資産所得の比率は高まる。だから、高齢化社会においては、所得税の負担を勤労所得から資産所得に移してゆく必要がある。現在のように勤労所得に過度に偏った所得税制を続ければ、若年者の負担はきわめて重くなる。それによる経済活力の低下は、深刻な問題だ。

特別措置の廃止に反対する理由として、株価や株式投資への悪影響が言われる。しかし、これは容認しがたい議論だ。

まず第一に、この措置が株価を上昇させた原因とは考えられない。日本の株価が06年頃から急上昇したのは事実だが、それは、企業業績が回復したからだ。

さらに言えば、資産所得に対する課税が実際は誰によって負担されるか(これは、税理論で「転嫁と帰着の問題」と言われるものである)は、自明ではない。優遇措置継続論者は頭から投資家の負担になると考えているが、そうとは言えない。仮に他に転嫁されれば、投資に悪影響は及ばない。「貯蓄から投資へ」のためにこの措置が必要との意見もある。しかし、個人を証券投資に向かわせるために必要なのは、税の優遇措置ではない。

第一に必要なのは、株価が企業価値を正しく反映するような株式市場をつくることだ。日本の株式市場がこの条件を満たしていないことは、ライブドア事件や村上ファンド事件で暴露された。株価がいい加減な市場では、個人投資家は恐ろしくて近づけない。

第二に必要なことは、企業の収益性を高めて、株式投資の収益率を高めることだ。日本の企業収益が回復したのは事実だが、その大部分は「円安」というドーピングによって実現したものだ。だから、今年の8月に生じたように、為替レートが円高に振れると、途端に株価が崩壊してしまう。日本の企業収益は、まことに脆弱な基盤に立っていると言わざるをえない。

しかも、株価が上昇したのは主として東京証券取引所第一部である。これは、伝統的な巨大企業が中心だ。他方で、新興市場は目を覆わんばかりの壊滅状態だ。日本には、未来を切り開く新しい企業が登場していないのだ。

アメリカでは、グーグルの株価が04年のIPO以来で7倍になった。そして、時価総額において日本最大のトヨタ自動車に迫りつつある。株式市場の活況とは、このような企業に支えられて初めて可能になるものだ。

税の特別措置で支えなければ成立しない株式市場では、まことに心もとない。これは、「まちづくり3法」に頼る地方都市駅前商店街と同じ構造である。あるいは、タヌキやキツネしか通らない山中の高速道路を、「真に必要な道路」と強弁して道路建設を求める地方と同じ精神構造である。こうしたものが続く限り、日本に未来はない。

資産所得も含めた総合課税化が必要

では、どのような税制が望ましいか? 政府税制調査会や民主党の考えは、現在の特別措置を延長せず、金融所得課税の本則に戻ることだ。政府税調は、さらに「金融一体課税」の導入を検討している。これは、あらゆる金融所得を合算して課税する方式である(株式取引で損失が発生しても、利子や配当所得から差し引ける)。

しかし、私は、こうした案では不十分だと考える。所得税の原則は、すべての所得を合算して課税する「総合課税」である。現在、資産所得はこの例外とされており、分離課税がなされている。しかし、こうした扱いをする合理的な理由はない。したがって、資産所得も総合課税の対象としなければならない。資産所得だけを別に扱うから、現在のような特別措置が入り込む余地が生じ、その結果、特定の資産所得が優遇されてしまうのだ。

なお、総合課税や金融一体課税のためには、納税者番号などを導入して資産所得の把握を図る必要があると言われる。

しかし、そんなことはない。源泉段階で高率の課税を行ない、確定申告で調整すればよいのである。個人事業所得などと違って、資産所得は源泉課税が容易だ。したがって、なんの技術的問題もなく、また納税者番号などの新しい制度を導入することもなく、総合課税ができる。

なお、資産所得の総合課税化は、年金との関連においても必要なことだ。民主党が提案する税財源の年金制度に移行した場合、所得制限が必要になる。しかし、現在のように資産所得が分離課税されたままだと、資産所得が捕捉できず、公平な所得制約をかけることができない。

最後に、この問題は政党の戦略面からも重要な意味を持つことを指摘しよう。

現在の民主党は、自民党脱藩者と労働組合関係者の寄り合い世帯であり、「誰の見方なのか」という政党として最も重要なイメージが確立できないでいる。今のままだと,「農村バラまき」や「財源を考えない年金改革提案」に見られる無責任野党のイメージが定着してしまう危険がある。

しかし、証券税制において正論を展開すれば、「自民党はカネ持ちと業界寄り」という印象をつくることができよう。そして、「民主党は公平を重視する国民全体の政党」というイメージを確立できるだろう。

それは、総選挙の可能性が高い現状において、民主党にとってきわめて大きな意味を持つ。この問題は、民主党が政策決定で存在意義を示すための、千載一遇のチャンスを与えている。

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認めるべきでない証券優遇税制の延長” への1件のコメント

  1. 源泉段階で高率の課税を行う場合、ほとんどの人が確定申告を行うことになると思うのですが、その辺の配慮は必要ありませんか?

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