外貨準備取り崩しで復興資金を調達する

復興資金には対外資産を活用するのがよいと前回述べた。外貨準備も対外資産の一部なので、復興資金として使うことができる。これは究極の埋蔵金である。

2010年末の外貨準備は約89兆円ある。これほど巨額の外貨準備を保有し続けることがはたして必要なのだろうか?

じつは、必要ないのだ。外貨準備は、固定為替レート時代に、レートを維持するために必要とされたものである。しかし、それは、もう40年も前の話だ。変動為替相場制の下では、外貨準備がゼロであっても、なんら問題はない。為替レートが変動することによって国際収支を調整するからである。現在の世界で巨額の外貨準備を保有しているのは、日本と中国だけだ。

外貨準備が必要になる場合をあえて考えれば、投機などが原因で急激な円安が生じたときに、保有しているドル資産を売却して、それを食い止めるときだ。しかし、そうした必要性が現実に生じるとは思えない。仮になったとしても、そのために89兆円もの資金が必要とは、とても思えない。

日本がこれだけ巨額の外貨準備を保有しているのは、円安誘導のために購入したドル資産をその後も保有し続けているからである。とりわけ、2003年から04年にかけて35兆円にも上る大規模な為替介入をしたことの影響が大きい。つまり、積極的な目的があって保有しているのではなく、円安介入の後遺症として、「やむをえず」保有しているにすぎない。

なお、外国為替資金特別会計が保有する資産から生じる利子収入は、円ベースで見れば負債である政府短期証券に対する利払いより多いので、剰余金が発生する。その累計額(10年度末で約20兆円)は、取り崩して使用することができる。09年度は2兆4000億円を、10年度は2兆9000億円を積立金から取り崩して一般会計に繰り入れた。ただし、円評価した外貨準備高は円高によって減価しているので、同特別会計は債務超過になっており、無制限に取り崩せるわけではない。10年12月に、剰余金の一般会計繰入ルールが定められた。本稿で考えているのは、剰余金ではなく、外貨準備そのものの取り崩しである。

金融資産のポートフォリオ変更で復興財源になる

対外資産を取り崩して復興資金に充てるメカニズムは次のようなものである。

政府の国債増発と企業や家計の復興資金増加によって、国内の金利が上昇する。そこで、金融機関は対外資産を売却し、その資金を国内に持ち込んで国債を購入したり、貸し付けを増やす。このようなポートフォリオ変更によって、自動的に対外資産が復興資金に使われることになる。

外貨準備は、政府短期証券の発行で資金を調達して外貨を購入しているので、政府にとっては資産と負債と両面がある。復興資金に用いるには、政府短期証券を長期国債に借り換えることになる。

以上のことに対して、「外国の金利は日本より高いから、外貨で運用を続けるほうが利子収入が多い」という意見があるかもしれない。しかし、外国為替市場が適切に機能していれば、為替レートは、金利差で得られる利益をちょうど帳消しにするように変動するのである。それを考慮に入れれば、日本円で運用してもドルで運用しても、結局は同じ利回りになる。

金融機関が対外資産を売って国債や貸付に変更するのは、復興資金の増加によって日本の実質金利が上昇するからだ。このため、従来に比べて、ポートフォリオにおけるドル建て資産の比重を下げることが必要になるのである。

ところで、このような資金調達がなんの問題も起こさずに実行できるかといえば、そうではない。日本の対外資産の多くはアメリカ国債に投資されているので、それを大量に売却すれば、アメリカの金融市場で国債が暴落する危険がある。だから、日本がここで述べたような資金調達をすることを、アメリカは望まない。実際、3月18日の協調介入は、このような事態を恐れたアメリカのイニシアティブで行われた可能性がある。

したがって、日本が以上のような資金調達を強行すれば、日米間の重大な外交問題になる可能性がある。しかし、「アメリカ人が許してくれないから、日本人は自分の資産を利用できない」というのでは、いかにも主体性がない。これが外交問題になるのなら、日本の立場から見て対外資産の活用が必要なことをアメリカに承諾させるべきだ。こうしたことこそが、「外交的解決(diplomatic solution)」である。それこそが、外交官の役割だ。

なお、対外資産を国債に乗り換えれば、これまでの為替損が確定することになる。金利差を考えても、外貨準備の場合と同じように損失が発生するだろう。売却資金を日本に還流させるときに円高になるので、損失額は現在の為替レートで評価したより大きくなる。

そうではあっても、ドルベースでの価値は変わることはない。したがって、資金を輸入に充てれば、これまでと同価値の財を輸入することができる。だから、こうした資金調達は、日本全体の立場から損になることではない。ただし、日本の金融機関は、円で評価した保有資産の価値減少を確定することを嫌うだろう。これへの対処も、無視できないことかもしれない。

復興経費は実物資産として残る

対外資産を原資とした国債消化が以上のようにできるのなら、今後も対外資産が尽きるまで国債を増発し続けてよいのだろうか?

そうとは言えない。まず第1に、今回は復興資金需要が巨額なので、国内の金利を高める可能性が高いために、こうなるのだ。これまでのような金融情勢が続いて金利が特に高くならなければ、銀行はポートフォリオ変更を行わないだろう。

ただし、今後国債が累増していけば、金利が高くなる可能性はある。その場合に社会保障などの経常的支出を賄うために、ここで述べたような資金調達を行うことは許されるだろうか?

それは、望ましくない方法だ。なぜなら、資金取り崩しで得た資金を経常的支出に用いる場合には、使い切りになってしまい、後になにも残らないからだ。経常的な支出に対しては、税や社会保険料のような経常的財源で資金を調達する必要がある。

それに対して、復興資金に充てる場合には、企業の生産設備や住宅、社会資本などのかたちで資産が残る。それは、将来の生産力増強に役立つ。つまり、対外資産という金融資産のかたちで持っていたものを、実物資産に置き換えるのである。それは、資産を使い切ってしまうことではなく、資産の形態を変えるだけだ(なお、財政法が公共事業の財源として国債を認めているのも、同じ理由による。現在の国債発行が経済的に不健全と考えられるのは、それによって調達された資金が経常的使途に充てられているからである)。

復興資金のために対外資産の使用が許されるのは、「それが1回限りの支出だから」というだけの理由によるのではない。もう1つの重要な理由は、その大部分が実物資産の形成に使われることである。

実物資産の利益は将来にもわたることから、その財源は、基幹税のような経常的なものよりは、負債増加や資産取り崩し等の資本勘定上のもののほうが望ましい。復興構想会議の提言には、このような考察も欠如している。

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