対外資産取り崩しが復興財源として最適

巨額の資産を持つ退職後の老夫婦を想像していただきたい。資産は、家を何軒も建てられるほどのものだ。しかも銀行預金なので、必要があればいつでも使えるとしよう。

ある日地震があり、住んでいた家がつぶれてしまった。再建のための資金をどう調達したらよいか? もちろん、銀行預金の一部を解約して使うべきだ。慌ててハローワークに飛び込んで慣れない低賃金の職を求め、その賃金で家を建て直そうなどとは、決して考えるべきではない。

災害で実物資産が滅失したときに金融資産が蓄積してあれば、それを取り崩して使うのがごく普通の方法だ。それは、家計でも企業でも政府でも、同じことである。

今の日本は、まさにこのような状態にある。大震災によって、住宅と生産設備と社会資本が失われた。他方において、日本は巨額の金融資産を保有している。だから、復興のための資金は、まず金融資産を取り崩すことによって確保すべきである。

ただし、日本国内の金融資産は、なんらかの用途に運用されている。たとえば、家計が保有する金融資産の多くは銀行預金となり、銀行から企業に貸し出されて生産設備になっている。したがって、個々の預金者がそれを復興資金に充てることができても、日本全体としては財源にはならない。預金者が預金を下ろせば、銀行は企業への貸し付けを引き上げざるをえなくなるからだ。

しかし、対外資産は日本が全体として保有している資産であるから、取り崩して復興資金に充てることができる。しかも、日本の対外資産の多くは、直接投資(海外の工場など)ではなく、証券投資(主としてアメリカ国債の購入)である。したがって、すぐにでも売却して日本に持ち込み、復興資金として使うことができる。政府が社会資本復興などのために必要とする復興資金も、このようなかたちで調達することができる。増税に頼る必要は必ずしもないのである。

社会保障に埋蔵金を使い復興に臨時増税する愚

具体的にどのような方法で資金を調達するかについては後述することとし、まず次の3点について述べておきたい。

第1は、規模である。日本の対外資産は、2010年末で564兆円ある。そのうち、直接投資が68兆円で証券投資が273兆円だ。つまり、大部分はすぐにでも処分できる金融資産である。なお、外貨準備は89兆円ある。他方で、日本が海外に対して持つ負債は312兆円ある。したがって、差し引き純資産は251兆円ということになる。

他方で、6月24日の内閣府推計によると、震災による資産の損失は16.9兆円程度だ。したがって、仮にこの復旧のすべてを対外資産で賄ったとしても、純資産が1割程度減少することにしかならない。

第2は、恒久財源と臨時財源の区別である。復興資金のために消費税や所得税などの基幹税の臨時増税を行うと、前回述べたように、さまざまな不都合が生じる。復興財源は臨時的なものなので、資産の取り崩しが最も合理的な方法なのだ(これが本項の冒頭のたとえ話で確認したことである)。

資産取り崩しによる財源調達は、ここ数年の予算編成で「埋蔵金の活用」と呼ばれてきた。私はそうした財源調達法に反対してきたが、その理由は、対象が恒久的な施策だからである。したがって、埋蔵金は一時しのぎにしかならず、いずれ恒久財源が必要になる。埋蔵金で対処し続けると、その必要性をいつの間にか忘れてしまい、いつになっても恒久財源を確保できない危険がある。

その典型が、基礎年金国庫負担率引き上げのための財源だ。国庫負担率を3分の1から2分の1に引き上げることは04年に決定されたが、そのために「恒久財源を確保する」とされた。しかし、歴代政府はこの義務の履行を怠ってきた。そして近年の予算編成では、埋蔵金が利用されてきたのである。つまり、本来は基幹税の恒久的な引き上げが必要である対象に対して、臨時的財源を用いてきたのである。

それに対して、復興資金は、必要期間も限定的であるし、必要額もおおよそわかっている(少なくとも、社会保障関係費のように増加し続ける経費とは基本的に違う)。対外資産の取り崩しは埋蔵金活用の一種であるが、それが許容されるのは(というより、基幹税の臨時税より望ましいのは)、復興資金がこのような性格を持つからだ。

日本では、恒久的な財源が必要な対象を埋蔵金で処理し、臨時的な財源が必要な対象に対して基幹税の一時的増税を考えている。このどちらも、完全に間違った対処法である。

「家がつぶれたので預金を増やす」という愚

第3は、外貨準備にかかわることである。外貨準備も対外資産の一種なので、復興財源として活用しうる(具体的方策については、後で述べる)。つまり、現在の日本で必要とされのは、外貨準備を「減らす」ことだ。

ところが、実際には、外貨準備は意図的に「増やされて」いる。大震災後為替レートは急激な円高になり、3月17日には日本市場でも1ドル76円台となった。これに対して、国際協調による円売りドル買いの介入が18日に行われた。これによって、外貨準備は増えたことになる。

つまり、本来は復興のために日本国内で使うべき資金を、日本からアメリカに持ち込んで、アメリカ国債を買い増ししたのである。冒頭のたとえ話で言えば、地震で家がつぶれたので仰天し、本来は銀行預金を引き出すべきなのに、あわてて銀行に駆け込んで預金を増やしたのだ。

本稿は、「復興のために対外資産を取り崩すべきだ」と主張している。この主張は理解されないかもしれないが、最低限、それと逆の政策はこれ以上行わないでほしいと、切に願っている。

では、介入で円高を阻止して、なんのメリットがあったろうか? 自動車の輸出を増やすことに役立ったか? もちろん違う。工場が震災で損傷したので、自動車の生産が制約されてしまった。したがって、現状でいくら円安になっても、自動車の輸出を増やすことはできない(そうなることは、3月18日時点でも予測できたはずだ)。

日本の貿易収支を改善するのに役立ったか? 事態は逆である。5月の貿易収支は8537億円の赤字となったが、仮に今の円ドルレートが18日の介入前の1ドル78円程度であれば、輸出額も輸入額も2.5%ほど縮小するはずだ。ところが、輸出額より輸入額のほうが大きいから、輸入額の減少のほうが輸出額の減少より大きい。したがって赤字は縮小して、8300億円程度になったはずだ。つまり、介入は、日本の貿易収支を改善したのでなく、悪化させたのである。

なにが愚かと言って、これほど愚かな経済政策はない。愚かな経済政策は、日本人を貧しくする。今のような国家危急時において、それは、致命的である。3月18日は震災直後であったため、異常な雰囲気の中で、日本人の誰もが冷静な判断能力を失っていたかもしれない。しかし、震災からすでに3カ月以上が過ぎた今、われわれは冷静さを取り戻すべきだ。ジャーナリストも、「18日の介入は適切な措置であった」などと言うことはやめにして、何が日本人を豊かにするかを冷静に判断すべきだ。

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