脱原発は産業構造と雇用の問題を惹起

ドイツが脱原発に踏み切った。2020年までにすべての原子炉を段階的に停止する。

メルケル政権は、昨年秋に原発の運転期間延長を決めたばかりだ。ドイツでは脱原発の議論がこれまでも活発であったとはいえ、今回の決定は福島原発の事故を受けての方向転換だ。

ドイツの方向転換は、日本にも影響するだろう。というより、すでに影響しているとも言える。定期検査中原子炉の運転再開が、震災後は1つも行なわれていないからだ。

これから定期検査に入る炉もあるわけだが、仮にそれらのすべてが運転再開できないと、国内54基の原子炉が来年春までにはすべて停止すると言われる(原発は13ヶ月運転すると検査が義務づけられているため)。そうなれば、日本の発電能力は約2割低下する(「日本経済新聞」6月8日)。電力不足の問題は、東京電力管内だけの今年夏に限られた問題ではなく、日本全国の問題であり、短期間で解決がつかない問題であることがますます明確になった。

仮に火力発電の増強で量的な問題が解決できたとしても、発電コストが上昇することは避けられない。海江田万里経済産業大臣は、6月7日、現在検査中の原発が再稼働できない場合には、11年度の燃料費が2.4兆円増加し、すべての原発が停止になれば3兆円増加するとの資産を明らかにした。10年における全電力会社の電気代収入は約15兆円なので、電気代は20%ほど上昇する。ドイツの場合、脱原発によって電気代が10%程度上がると考えられているので、日本はそれより厳しい条件に直面することになる。長期的に考えると、原発の新設はきわめて難しくなったので、さらに深刻な問題がある。

日本経済の今後の見通しについて、今年の秋頃に「V字回復」するという意見があるのだが、このような電力制約下では、急速な生産の回復はとうてい期待しえないだろう。

現在の日本の電力問題とは、原子力発電の問題にほかならない。前回も述べたように、現在停止中の電発をすべて稼働できれば、量的にもコスト的にも問題は生じない。問題が生じるのは、原子力への依存に問題が生じたからである。

脱原発は産業構造の改革で実現すべき

原子力依存から脱却して、自然エネルギー、とりわけ太陽光、風力などの再生可能エネルギーに転換すべきだという意見が多い。ドイツが目指そうとしているのも、この方向だ。

日本もその方向を目指すことは必要だろう。菅直人首相は、5月にフランス・ドービルで開催された主要国首脳会議で、「現在9%である自然エネルギーの比率を20年までに20%に引き上げる」とした。しかし、これで問題が解決できるわけではない。再生可能エネルギーは量的に限界があるし、供給の安定性の面でも問題がある。さらに、発電コスト上昇の問題は避けることができない。

電力自由化、企業の自家発電能力の活用、スマートグリッドの導入、節電努力の推進、生活様式の転換なども必要なことだ。しかし、これで電力問題のすべてを解決できるわけではない。

電力問題とは産業構造の問題であることが認識されなければならない。同額の付加価値を生産するために必要とされる電力は、産業活動によって大きく異なる。サービス対製造業で大きな差があるし、製造業の中でも装置産業と組み立て加工産業では大きな違いがある。

だから、「脱原発」を標榜する限り、産業構造を今のままにするわけにはゆかない。本連載ですでに述べたように、「ベッドの長さが足りなければ、(足を切るのはやり過ぎとしても)足を折り曲げる程度のことはせざるをえない」のである。

しかも、それは日本国内だけで解決できる問題ではない。グローバルな視点がどうしても必要だ。

ドイツは近隣諸国から電気を輸入できるので、その点が日本より有利であると言われる(なお、ドイツはしばらく前までは電気の輸出国だった)。しかし、電気を直接に輸入しなくとも、産業用電力なら、財を輸入することで間接的に電気を輸入することができる。

また、大震災で損傷した工場施設を日本国内に再建するのか、それとも海外に移転するかは、企業にとって重要な事項だ。上で述べた電力の量的制約、量的供給の不確実性、電気料金の上昇等を考慮すると、海外移転は経済的に不可避的に進むと考えられる。

装置産業の海外シフトは国内雇用への影響が少ない

ここで次の2点に注意する必要がある。第1は、海外移転するといっても、製造業のタイプによって国内雇用への影響は異なるということだ。これまでの日本製造業の海外移転や海外への生産委託は、海外の安価な労働力を使用することを目的としたものが多かった。したがって、自動車、電気機器などの組み立て型産業や半導体などが中心になっている。円高の進行によって、ますますその傾向が強まっている。

しかし、今後の海外移転は、これとは異なるものになる可能性がある。なぜなら、電気代をはじめとするエネルギー価格の上昇が促す海外生産へのシフトは、装置型の製造業が中心になると考えられるからだ。これが海外に移転しても、国内雇用に与える影響は、組み立て型産業の場合よりは少ない。また、立地点についても、これまでは労働力の確保が重要な課題だったので、アジアの人口稠密地帯への移動だった。しかし、装置型の産業の場合には、必ずしも人口が稠密である必要はない。したがって、今後は、日本企業がこれまでは立地しなかった場所に立地するようになる可能性もある。

いま1つ注意すべき点は、今後海外に移転する企業は大企業とは限らず、中小企業の移転が必要になる可能性もあることだ。これらの企業は、これまで海外での生産活動を行ってこなかったので、移転についても、そこでの活動についても、十分な知識と経験を持ち合わせていない場合が多いと思われる。したがって、そうした面において移転企業をサポートする必要が生じる。

国内での事業展開であれば、取引先の地方銀行などがサポートできたかもしれない。しかし、地銀も海外での事業展開に関しては十分な経験を持っていない。したがって、新しい支援サービスが必要だ。これは、考えようによっては、新しいビジネス需要の発生とも考えられるのである。

エネルギー価格の上昇は、1970年代の石油ショックで初めて意識されたことである。本来であれば、その頃から日本の産業構造の変化が進んでいてもよかった。しかし、原油価格は80年代、90年代を通じてきわめて安定的に推移したため、エネルギー価格や電力価格が産業構造の変革を促すような条件変化は、ごく最近に至るまで生じなかったのである。05年頃からの原油価格の急騰が状況を変えた。そして、大震災後、特に日本においては、電力価格が経済構造の基幹にかかわるような大きな問題になっている。

これに対して必要なのは、国内における雇用機会の創出である。また、装置産業の場合には工場跡地が広大なので、その跡地利用についても考える必要があるだろう。

国内生産コストの上昇から目を背けるのでなく、こうした政策に注力することが必要だ。

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