企業の海外移転は電気料金上昇で加速

東京電力福島第1原子力発電所事故の損害賠償の仕組みが決まった。

基本は、東電が無限の責任を負って賠償を行うということだ。ただし、賠償は巨額で支払いは長期間にわたるため、東電が債務超過に陥って破綻しないよう、特別法で設立される「機構」が、優先株を引き受ける。国は機構に対して公的資金を注入する。

負担の配分にはまだ最終的に決まっていない点もあるし、議論の余地が大きい点も多い。特に、次の2点だ。

第1に、政府は右の金融的措置を超えるなんらかの支援を、税を財源として行うか否か? 現在のスキームに具体的には盛り込まれていないが、「例外的援助条項」は残されている。

第2に、減資や債権カットがあるか否か? これがなされると金融市場が混乱する懸念があるという理由で、現在のスキームには盛り込まれていない。ただし、枝野幸男官房長官は、「(金融機関の債権放棄がまったく行われない場合)国民の理解はとうてい得られない」としている。

これらの背後にあるのは、次のような問題である。

第1は、これまで原子力発電を推進してきた政府の責任だ。それを重視すれば、政府は一定の賠償責任を負うべしということになるだろう。第2は、今後の電力産業をどう編成するかという問題である。具体的には、発送電一体のままでの地域独占を継続するのか否か、また原子力発電を民間企業に任せてよいのか否か、等の問題だ。

今回のスキームの本質は、現在の電力会社による地域独占体制を継続し、その前提の下で、電気料金引き上げによって賠償を賄うという考えである。この前提を崩せば、賠償のスキームとして、さまざまな方法を取りうるだろう(たとえば、東電の事業の一部を売却し、その資金を賠償に充てる)。

もちろん、5月13日に決定されたスキームにおいても、東電は、資産の売却やリストラなどを行う。ただし、それだけで賠償のすべてをまかなえないことは明らかだ。政府支援がない以上、現実的に考えれば、賠償の主要な財源は、料金の引き上げ以外にはありえない。地域独占の下では、料金が上がっても、(後に述べるように、「日本から逃げ出す」ことを除いては)利用者に対抗手段はない。東電のリストラや金融機関の債権放棄は、料金引き上げに対する利用者の反対を和らげるための手段ということになるだろう。

東電の電気料金値上げ率は4割程度になる可能性も

上記の賠償スキームを当面は認めるとしても、電力産業の基本問題についての議論は、今後行われるべきものと考える。ただし、その議論は別の機会に譲り、ここでは、仮に賠償金が料金に転嫁された場合、何が起こるかについて考えることとしよう。

賠償金の総額について、現時点では5兆~10兆円と幅のある予想しか立てられていない。

どのような範囲の被害を対象とするかは、今後の検討課題だ。毎年度の負担は、どの程度の期間で負担するかによっても変わるが、仮に10年とすれば、毎年5000億円から1兆円ということになる。

ところで、東電にとっての追加支出は、賠償金以外にもある。

第1に、福島第1原発事故の収束に向けた支出と、廃炉のための費用がある。廃炉には、総額で1兆円程度が必要と言われる。

第2に、原子力発電から火力発電へのシフトに伴って、LNGを中心とする燃料費が増加する。これは、年間1兆円程度と言われる。

第3に、これまでの燃料構成においても、世界的な資源価格上昇の影響で、燃料費が上昇する。

これらすべてが電気料金の引き上げに反映された場合、どの程度の値上げになるだろうか?

2009年度における東電の電気事業営業収入は、約4.7兆円である。したがって、仮に上記費用の総額が年1.7兆円であるとすれば、値上げ率は36.2%ということになる。2兆円なら42.6%だ。

必要とされる支出についてかなりの幅を持ってしか見通せないので、値上げ率もかなりの幅でしか見積もれない。以下では、おおまかに「4割程度」と考えることにしよう。

電気料金引き上げで企業利益は大幅に減る

電気料金引き上げは、経済活動にどのような影響を与えるか?

電気代は、家庭消費支出の約3.3%だ。したがって、これが4割上昇すれば、家計支出は1.3%ほど増価する。

製造業の活動に対しては、どのような影響が及ぶだろうか。

「国民経済計算」の「経済活動別財貨・サービス投入表(U表)」と、日本銀行の企業物価指数を参照すれば、製造業の産出額100のうち、電力は1.71と考えることができる。

ところで、製造業の場合、生産物価格は国際市場で決まるものが多いので、電気料金上昇を製品価格に転嫁するのは難しいだろう。また、給与への転嫁も難しい。そこで、企業利益が減少すると考えよう。前記U表によれば、製造業の生産額100に対して「営業余剰」が5.977だ。したがって、仮に電気料金が4割アップ(1.71から0.684上昇)すれば、営業余剰は5.977から5.293へと11.4%ほど縮小する。これは、かなり大きな影響である。

以上で考えたのは、東電管内でのコスト上昇であるが、火力発電へのシフトは東電だけの問題ではない。また、原発賠償金の一部は東電以外の電力会社も負担する。

したがって、他の電力会社管内でも、東電の場合ほどではないとはいえ、電気代は値上がりする。日本の電気代はもともと国際的に高い(アメリカの2倍程度)が、海外との差は、今後さらに拡大することになるのだ。

これに加え、電力供給は、量的にも問題を抱えている。製造業は電力多使用産業であるため、特に電力問題の影響を強く受ける。

したがって、昨年の秋頃から顕著になっていた製造業の海外移転は、今後加速すると考えざるをえない。

製造業の海外投資は、昨年の夏頃から円高の影響で急激に増加している。

対前年同期比は、10年7~9月期に36.7%、10~12月期には45.7%という驚くべき値になっている。地域業種によっては、伸び率が100%を超えている場合もある(たとえば、化学のアジア地域投資は325.5%増)。10年10~12月期の国内の名目企業設備投資が対前年比4.7%の増でしかないことと比べると、隔絶的な差がある。

トヨタ自動車の小澤哲副社長は、5月11日の決算会見で、「日本のものづくりは、すでに限界を超えている」と述べた。これは、民間企業としては当然の反応だ。

大震災で損壊した工場を国内に再建するのか、それとも海外に移転するかは、企業にとって重大な問題だ。「国内で頑張る」と言ったところで、それが経済的に合理的な決定でなければ、企業は衰退する。そして、結局は雇用を削減せざるをえなくなる。

製造業が海外に移転した後、国内の雇用をどう確保するか。電力多使用でなく、かつ生産性の高い産業は、付加価値の高いサービス産業でしかありえない。それに向けての産業構造転換が必要だ。これまでも重要であった問題が、緊急に対処すべき課題となった。

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