新内閣が早急に対処すべき2つの課題

この原稿が雑誌に掲載された時点では発足しているはずの新内閣が早急に対処すべき税・財政上の課題として、次の2つがある。

第1は、基礎年金の財源手当てだ。2004年の通常国会で成立した年金改革関連法によって、基礎年金の国庫負担率を従来の3分の1から2分の1に引き上げることが決められている。必要な財源は約2.5兆円で、仮に消費税の税率引き上げによって対処するのであれば、1%程度の税率引き上げが必要になる。

安倍晋三内閣は、この問題を「07年の秋以降に検討する」として、具体的検討を先送りしてきた。しかし、国庫負担率引き上げは、財源を確保した上で09年度までに実現することが決められており、そのためには08年末までに具体的方法を決定しなければならない。年金の将来見通しは、これが実現することを前提としてつくられている。だから、実現しなければ、年金制度の基本が狂ってしまう。これは、いつまでも先送りすることはできない、厳しい時間制約のある問題なのだ。

高齢化社会に適合する税・財政制度の確立を

第2の問題は、道路特定財源の見直しだ。これについては、昨年12月に、「揮発油税の税収全額を道路整備に充てる仕組みを改め、08年の通常国会において、所要の法改正を行なう」とされた。また、07年中に道路整備の中期計画を作成することとされており、高速道路料金の引き下げのために法案を提出する方針が決められている。これらも、安倍内閣が具体的対処を先送りした課題である。

これらも含めて、08年度予算の基本的な方向づけを行なう必要がある。事務的な査定作業はすでに進行しているが、予算の基本的性格づけはすでに1カ月ほど遅れているので、早急に対処することが必要だ。

参議院選挙で自民党が敗北したことから、地方へのバラまきが再開するのではないかと危惧されている。そうした要請を反映する予算になるのかどうかが、重要な問題である。

なお、道路予算は、地方へのバラまき施策の象徴的な存在だ。この意味からも、特定財源問題をどう決着させるかが重要である。

この問題は、改革を進める意志が本当にあるのか、それとも単に口先で改革を言っているだけなのかを見分ける重要なリトマス試験紙だ。小泉純一郎内閣の「改革路線」が単なるリップサービスでしかなかったことは、特定財源見直しを結局は先送りしたことに明瞭に表れている。

安倍内閣は、見栄を切ったものの力不足で挫折した。新内閣がどう対処するかを見守りたい。

以上で述べたのは、緊急に対処すべき課題である。もちろん問題はこれだけではない。中期的な観点から見て最重要の課題は、高齢化社会に適合する税・財政制度を確立することだ。

まず持続可能な年金制度を確立する必要がある。04年度改正による制度がこの条件を満たすか否かは、きわめて疑わしい。

今年の2月に出された厚生労働省の見通しでは、50%を上回る所得代替率が維持できるとされている。しかし、この結論は、賃金上昇率に比べて高すぎる割引率(積立金の運用利回り)を仮定して初めて得られたものだ。このような高率の運用利回りを、長期に維持するのは不可能だ。

したがって、この試算は、保険料率をさらに引き上げねばならぬか、あるいは所得代替率を引き下げるかが不可避であることを示すものと見るべきだ。

このどちらを選ぶかについて、国民の合意を得る必要がある。私は、18%を超える保険料率は日本経済にとって大きな負担となるため、給付を切り下げる必要があると考える。特に、支給開始年齢の大幅な引き上げが必要だと考える。

どちらの方向を選ぶにせよ、年金制度改革は、できるだけ早く行なう必要がある。改革が遅れれば遅れるほど、過大なしわ寄せが未来世代に及ぶからである。

また、財政全般についての再建も必要である。安倍内閣は、プライマリーバランス(基礎的財政収支)を11年度までに確実に黒字化するとし、そのため経済成長の促進が必要であるとした。しかし、プライマリーバランスだけでは、高齢化社会において維持可能な財政構造を実現したことにはならない(国債の利払いが収支を悪化させるからである。前述の厚生労働省見通しのように利回りが経済成長より高ければ、収支は確実に悪化する)。

それに、経済成長率の引き上げは、(望ましいこととはいえ)望めば必ず実現できるものでもない。今後も社会保障費が着実に増大し続けることを考えれば、安定的な財源の確保は不可欠である。

仮にそれを消費税に求めるのであれば、最終的には10%を超える税率が必要になるだろう。その場合には、インボイス(前段階における消費税額を明記した書類)を導入することが不可欠になる。

日本の消費税は、インボイスを欠くために、多段階付加価値税としてはきわめて不完全なものとなっている。税率が10%を超える状態では、生活必需物資への免税要求が不可避になると思われるが、それを実施するためにもインボイスの導入は不可欠である。

しかし、インボイスの導入は、決して容易な課題ではない。税率の引き上げに比べると、政治的にはるかに困難な課題だ。

それに、消費税が高齢化社会における望ましい税であるわけでもない。高齢者が比較的多額の資産を保有することを考えると、資産所得に対する課税や相続税の増強が、本来は必要である。少なくとも、若年労働者に対する給与所得課税に依存するこれまでの日本の税制を、根本から変革しなければ税収は確保できない。

真の問題の隠蔽やごまかしの悪循環を断つ

ところで、現実を見れば、参議院において民主党が第一党の地位を占めている。また、総選挙を求める国民の声は強く、新内閣はそれまでの暫定政権的な性格が強い。そうしたなかで、右に述べたような課題に対処するのは、至難の業だ。

しかし、日本は、この困難な問題に対処せざるをえない状況にあることを自覚する必要がある。「高齢化社会に適合した税財政制度の確立」という課題は、今急に現れたものではない。20年も30年も前から、必要性が指摘されていたものだ。それにもかかわらず、日本の政治はこの問題に真剣に取り組んでこなかった。

出生率の低下に対しては、少子化対策・子育て対策しか提示しなかった。これらの施策は、それ自体としては望ましいとはいえ、高齢化による経済的な問題を解決するものではない。財政収支の悪化に対しては、プライマリーバランスの問題に置き換え、さらに経済成長率の引き上げという実現不可能な政策にすり替えていた。これらは真の問題の隠蔽にほかならない。いつまでもこうしたごまかしを続けるわけにはゆかない。われわれは、困難な課題に直面していることを明確に自覚しなければならない。

この解決に失敗すれば、日本が問題解決の能力を持たぬことが、国際社会においてあからさまになる。それは、日本に対する信頼を回復不可能なレベルまで失墜させるだろう。それによって緩やかな資本逃避が持続し、日本経済はさらに衰退するだろう。そして、税・財政制度の確立はさらに困難となる。こうした悪循環を阻止するうえで、政治の責任はまことに大きい。

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