対外資産取り崩しで復興資金を調達する

日本は巨額の対外資産を保有している。したがって、これを取り崩して復興資金に充てるという方法は、ごく自然で合理的なものだ。

日本の対外資産は、2009年末で554兆円ある。負債を差し引いた純資産では266兆円だ。他方、必要な復興投資は、16~25兆円程度だ。だから、復興資金のすべてを対外資産取り崩しで賄っても、純資産が1割程度減るだけだ。

対外資産はどのようなかたちで保有されているか? 直接投資は68兆円と少なく、証券投資が262兆円、うち債権が207兆円だ(内訳の詳細はわからないが、アメリカ国債が多いと考えられる)。つまり、流動性が高い形態だ。だから、売ろうと思えば売れる。

対外証券投資のうち、約半分を金融機関が保有し、約3分の1を政府が外貨準備として持っている。金融機関の中では生命保険の比重が高く、日本生命保険は、資産49兆円のうち9.4兆円を外国証券で持っている(外国債券6.7兆円、外国株式2.4兆円など。09年度末)。

したがって、仮に金融機関が保有している外国証券を売り、その資金を国内に持ち込んで国債を購入したり国内貸し付けに充てたりすれば、国内での金利上昇を抑えつつ復興投資を行なえるわけである。

もちろん、日本は計画経済ではないので、金融機関にこうしたポートフォリオ変更を強制することはできない。金利や為替レートが変動することで、金融機関がそうした選択をするのである。

工場や住宅再建のために、民間資金需要が増加するなかで国債も増発されれば、金利が上昇する。したがって、対外資産で運用するよりは国債や国内貸し付けに充てるのが有利になり、右で述べたようなポートフォリオ変更が進む。ただし、この取引は、ドルを売って円を買うものだから、円高になる。それを阻止しようとすると、この取引は進まない。したがって、円高を許容することが必要だ。

最も合理的な復興資金調達法

この形態での資金調達は、国内での国債消化とどこが違うのか? それは、負担を将来に移転できることである。

対外資産を取り崩して、売却代金を日本に持ち込むのは、資源を海外から日本に持ち込むことを意味する。だから、現時点では、需給バランスが改善する。しかし、対外資産は減るので、将来世代が得られる運用収入は減る。このようなかたちで、現在の世代が負担を免れ、将来世代が負担を負うのである。

ところで、多くの人は、国債でも「負担を将来の時点に移せる」と考えている(「復興財源をまず復興債で賄い、しかるべき時点に増税する」というのは、そうした考えによるのであろう)。しかし、そうはならないのである。

償還時においてこれが正しいことは、比較的理解しやすいと思う。説明の便宜上、復興国際は10年債であり、借り換えはしないものとしよう。

償還のために10年後の時点で増税すれば、10年後の人びとが負担を負っているように思える。しかし、その時点の国際保有者は、償還金を受け取っている。結局のところ、償還時には、納税者から国際保有者に所得が移転されるだけだ。国全体としては、使える資源が減少するわけではない。つまり、10年後の日本人は、全体としては負担を負わないのである。

では、復興投資の負担は誰が負うのか? それは、国債が発行される時点の人びとである。生産制約がある状態で国債を発行すれば、金利が上昇する。海外との取引がない経済では、それによって投資が減少する。つまり、企業の生産設備の復旧や住宅復旧を犠牲にして、道路や橋などを建設することになるわけだ。海外との取引がある経済では、円高が進む。金融緩和をして円高を阻止すれば、物価が上昇して消費が犠牲になる。いずれにしても、その時点で他の需要項目が減少することによって、復興投資が賄われるのである。これが「クラウディングアウト」にほかならない。

これは、別に目新しいことでも、奇抜なことでもない。すでに1940年代に、経済学者の共通認識になっていたことだ。これは、「第二次世界大戦の戦費を戦時国債で賄うか、それとも戦時増税で賄うか」という問題に関して議論されたことの結論だ。

ポール・サミュエルソンは、「大砲や戦車を作る資金を戦時国債で調達したとしても、戦後の国民が負担を負うのではない。負担を負うのは、今の国民だ」と言っている。

アメリカも資金流出を望んでいない

しかし、日本には、円高に対する強い嫌悪感がある。輸出産業は円高で利益が減少するので、円安を望む。金融機関もこれらの企業の株式を保有しているので、円安を望む。「円高を阻止しなければ復興が円滑に進まない」という考えが、ほぼコンセンサスになってしまっている。

ところが、本当は、まったく逆なのである。円高になれば、輸入が増える。これは、国内の生産制約を緩和する働きをする。その理由は、次の通りだ。

外国で生産される鉄やセメントには、電気が使われている。したがって、これらを輸入することは、海外の電気を間接的に購入することを意味するわけだ。電気そのものを輸入できなくとも、電気が含まれている財を輸入することで、外国の電気を購入するのと同じことが実現できるのだ。

一般に、輸入は、日本国内に希少な資源を、間接的に購入することを意味する(たとえば、小麦を輸入することは、小麦を栽培する広大な農地を借りるのと同じ働きをする)。今後の日本国内での生産拡大に最も深刻な制約となるのは電力なので、外国の電気が含まれた製品を購入するのが、最も合理的な解決法なのだ。

これによって、日本の電力不足を緩和することができるのである。だから、円高を容認することは、復興戦略の重要なポイントである。円高拒否の考えを変えることが重要だ。

ただし、日本人が考えを変えて円高を許容するだけでは十分でない。日本が保有しているアメリカ国債を売却すれば、アメリカの金融市場が混乱する恐れがあるため、アメリカも資金流出を望んでいないのである。3月18日の為替加入が協調介入として行なわれたのは、アメリカがそうした意向を持っているからだろう。

協調介入すれば、「政策当局は円高を許さない」というメッセージを全世界に送ることになり、円キャリー取引が促進される(この取引は円を借りてドルを買うので、円高になると為替差損を被る。政策当局が一定水準以上の円高を許容しないなら、安心して円キャリーを進められる)。つまり、日本からアメリカへの資金流入が続く。

世界経済は、アメリカの巨額の経常赤字を日本や中国からの資金流入で補うという不均衡の上に構築されてしまっており、これが急激に変化することを望まない勢力が、日本だけでなく、アメリカにもいるのだ。これを打破するのは、容易なことではない。

日本にとって最も望ましいかたちの復興資金調達法を、日本人の固定観念(円高拒否)とアメリカの既得権益(日中からの資金流入で経常赤字を補う)が阻害している。われわれは、日本にとって本当の国益が何かを、はっきりと認識しなければならない。

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