今回の日本の株安は低金利政策のツケ

サブプライムローン問題の影響で日本の株価が下落したのは、前回述べたように、サブプライムローンを組み込んだファンドが日本にあって、それが値下がりしたためではない。そうではなく、欧米金利の低下によって円キャリートレイドの巻き戻しが生じて急激な円高になり、それが輸出産業の収益に悪影響を及ぼすと考えられたためだ。

この背景には、日本の異常な低金利と輸出産業中心の経済構造がある。つまり、今回の騒動は、古い産業構造を維持しつつ、異常な低金利政策を継続したことのツケである。新しいタイプのリスクが日本にも登場したために起こった問題ではない。円高と輸出産業という、きわめて古典的なルートを通じる株価下落だ。

実際、仮に日本が異常な金融政策を継続していなければ、円キャリートレイドが大規模に行なわれることはなく、したがって、円巻き戻しによる円高が起こることもなかったろう。また、輸出産業中心の経済構造から脱却していけば、為替レートが円高に触れたところで、日本企業の収益が大きな打撃を受けることはなかったろう。

今回の問題は、日本の産業構造や金融政策が抱えている大きな問題をあぶり出したものだ。

金融を正常化したくてもできない日本の現状

アメリカにおけるサブプライムローンの債務不履行問題は、終わったわけではない。したがって、今後同じような問題が繰り返し起こる可能性がある。また、別の原因によって欧米の金利が低下しても、急激な円高と株価の下落という問題が生じる。

深刻なのは、日本が金融政策を正常化するために金利を引き上げようとしても、同じ問題に直面することだ。長期にわたって異常な低金利を継続し、しかも円高を阻止する介入を行なってきたため、円で借りて高金利通貨で運用するという円キャリートレイドが、すでに大規模に行なわれているからである。

過去10年以上の異常な金融政策の継続によって、日本は金融を正常化しようとしてもできない状態に追い込まれている。

日本の金融政策は、きわめて困難な問題を抱えていると考えざるをえない。9月の金融政策決定会合で日本銀行がいかなる判断を下すかを注目したい。

ところで、「サブプライムローンの証券化とそれを組み込んだファンドの登場により、リスクが全世界に拡散したとか、リスクが見えにくくなった」などと指摘されている。

しかし、こうした見解は支持しがたい。ある種の資産がリスクを抱えていることは、今に始まったことではない。実際、株式にもリスクがあるし、商業用不動産にもリスクがある。

サブプライムローンを証券化した金融資産が、これらに比べて評価しにくい特別なリスクを抱えているわけではない。むしろ、住宅ローンを証券化した資産には、商業用不動産を証券化した資産や株式などに比べて、リスクを評価しやすい面がある。なぜなら、多数のローンの集合体であるために、個別対象に比べて統計的な評価が行ないやすいからである。

通常の住宅ローンより債務不履行となる確率が高いのは事実だが、それは、「リスクの大きさ」の問題であり、「リスク評価のしやすさ」とは別の問題だ。

また、「ファンドに組み込まれると、リスクが見えにくくなる」と言われる。しかし、そうなるのは、ファンドの情報開示が不十分なためだ。その条件下では、ファンドが他の対象に投資していても、リスクは「見えにくい」。ここでも、サブプライムローンの証券化資産が特別の問題を引き起こしたわけではない。

今回の騒動は、「サブプライムローン」という新しいタイプの住宅ローンによって引き起こされたため、人びとがいわれのない恐怖に陥っている側面が大きいのではないかと思われる。

さらに、「このような新しい金融資産が創造されることによって、投機取引が促進されている。したがって、こうした資産の取引は規制すべきだ」という意見も見受けられる。

しかし、こうした見解も支持しがたい。証券化資産にしてもファンドにしても、もともとは、リスクをコントロールするために作られたものだ。住宅ローンの証券化は、一時的な貸し手の資金調達やリスク移転を可能とし、住宅ローンを多くの借り手に与えることを可能とする。

また、古典的なファンドである投資信託は、分散投資を行なうことにより安全性の高い投資商品を作るものである(「ヘッジファンド」と呼ばれるものも、もともとは投機取引ではなく、裁定取引を行なうことを目的としていた)。

もちろん、リスクをコントロールするために作られた手段は、投機的な目的にも使うことができる。問題は、新しい金融技術や新しい金融資産そのものではなく、その用い方である。

これは、次のようなたとえで説明することができる。「飛行機」という新しい交通手段が発明され、遠隔地に短時間で移動することが可能となったとしよう。ところが、十分な管制システムが整備されていないところで、十分な訓練を受けない人が操縦し、墜落事故を起こしてしまった。

これを見て、「飛行機は危険な乗り物だから、利用を禁止すべきだ」という意見が出てくるかもしれない。しかし、この意見は間違っている。必要なことは、十分な訓練を受けたプロだけが操縦できるようにすることだ。そして、管制システムを整備して、安全な飛行を確保することである。

危険極まりない個人の高リスク投資

金融資産についても、これとまったく同じことが言える。住宅ローンを証券化した資産のように新しく創造された金融商品は、経済的可能性を拡大するものであり、われわれの生活を豊かにしてくれるものだ。

しかし、リスクが大きいので、金融のプロが扱うべきものだ。そして、ファンドの情報開示などの市場規制が必要だ。後者は、飛行機の場合の管制システムと同じように、安全を確保するための市場の「インフラストラクチャー」である。

投資のプロであれば、ファイナンス理論を駆使して、金融資産のリスクを評価すべきだ。そして、リスクの高い金融資産は、機関投資家など大量の投資資金を有する主体が分散投資の一貫として購入すべきものである。あるいは、他の資産とポートフォリオを組んで、安全な投資信託として個人に販売すべきものである。

今回の問題の発端となったBNPパリバのケースを見ると、こうしたファンドを個人が直接に購入しているようだ。個人が高リスク対象に直接に投資することが問題なのである。

現在の日本には、個人が高いリスクを取るためのインフラストラクチャーが存在しているとは言いにくい。そうした状況下で個人が高リスクの投資を行なうのは、危険極まりないことと考えざるをえない。

「貯蓄から投資へ」というスローガンが叫ばれている。日本の金融システムは間接金融に偏っており、それが新しい産業の誕生に障害となっているのは事実である。したがって、直接金融への移行は重要な課題だ。

しかし、そのために必要なのは、金融プロフェッショナルの育成であり、市場のインフラストラクチャーの整備である。それらなしに、個人が直接リスクを取ることを勧めるのは、無責任極まりないことだ。

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