増税も円高も拒否なら消費者が負担を負う

今回の大震災の復興と経済対応について、「復興投資が必要、円高を防ぐべし、増税すべきでない、消費を減らすべきではない」等々、さまざまな主張がなされている。

これらの1つひとつを個別的に取れば、もっともなものである。しかし、経済全体としての需要と供給は等しくなければならないので、これらすべてを満たすことはできない。

需給が均衡しなければ、利子率や為替レートが変化し、当初期待されていたのとは異なる結果がもたらされることもある。また、一部の要求だけを重視した政策が行なわれると、きわめて不公平な結果がもたらされることもある。

以上の問題を考える際に基本となるのは、経済全体の次の需給均衡式だ。

国内生産(GDP)+輸入=国内支出(=投資+消費)+輸出

この式の左辺は、海外生産(輸入)も含めた供給であり、右辺は海外からの需要(輸出)も含めた需要である。左辺と右辺は、事後的には必ず等しくなければならない。

今回の大震災によって、この式を構成する項目に次のような大きな変化が生じた(あるいは、今後生じる)。

第一に、投資が増える。これは、災害によって失われた資産を復旧するためのものだ。どの程度増えるかは、復旧のスピードに依存する。ゆっくり行なえば各年の投資は少なくなる。また企業の生産設備の復興は海外で行なわれてもよいので、もしそうなれば、国内の必要投資は減る。

ただし、社会インフラや住宅の復旧は迅速に行なう必要があるので、損害額(20兆円程度と推計される)のかなりの部分に対応する投資を、今後1、2年のうちに行なう必要があるだろう。

そうだとすると、災害のなかった場合に比べて、投資が10兆円程度増加する可能性がある。これは、2009年度における民間住宅投資、民間企業設備投資、公的資本形成の合計額98兆円の10.2%だ。つまり、災害のなかった場合に比べて、投資が1割程度増加するわけである。これはかなり大きな変化だ。

需給均衡式に生じた第二の変化は、災害によって生産設備が損傷したため、国内生産が減少することだ。設備の損傷はさまざまな面で生じているが、最も深刻なボトルネックは、電力供給能力が大幅に低下したことだ。発電設備は今後復旧されるだろうが、今年夏の需要6000万キロワット時に対して、供給能力は4000万キロワット時程度と見られる。

左辺と右辺で以上で述べた変化が生じたことに伴い、利子率や為替レートが変化し、さまざまな項目に影響を与えて、最終的な均衡が決まる。この過程に対して政策的な介入(財政政策、金融政策、為替政策)が行なわれると、そうでなかった場合に比べて最終的な均衡のかたちが異なるものとなる。

介入がなければ円高になる

格別の政策が取られない場合には、次のようになる。

国内投資の増大は、クラウディングアウトを引き起こす。これが利子率を上昇させる。それによって海外から資金が流入し(あるいは海外への資金流出が減少し)、円高になる。それが純輸出(輸出-輸入)を減少させる。

この変化は、次の2つの部分に分解して解釈することができる。第1は、国内生産(GDP)を変化させずに、需要項目を輸出から投資に入れ替える変化だ。第2は、国内投資の増加に対して供給(海外生産=輸入)を増やす変化だ。なお、以上の結論は、マンデル=フレミング・モデルの結論(開放経済においては、財政支出を増やしてもGDPは増えない)と同じものだ。

国内生産の減少も利子率を上昇させ、その結果、円高が生じて、純輸出の減少をもたらす。

以上は政策介入がない場合だが、実際には円高を嫌う政治的バイアスがあるので、円高阻止のための政策が取られる。実際、すでに3月18日に介入が行なわれた。震災直後に名目円ドルレートが最高値を更新したのは、上記の変化を見据えた投機的な動きによるものであったため、介入はやむをえなかったとも言える。

しかし、円ドルレートは、介入後においても、震災前よりは円高になっている(3月10日の82.9円から、23日の80.95円まで)。つまり、マクロ的なバランスを達成するために円高は不可避なのだ。

それにもかかわらず、今後も円高を阻止する政策が取られるだろう。そのために、金融が緩和する。すると、純輸出の減少が介入のない場合より圧縮される。

しかし、それでは経済全体の需給が均衡しないので、純輸出が減らない分だけ国内支出が減少する必要がある。具体的には、利子率がさらに上昇して国内の復興投資が阻害されるか、あるいは、金融緩和に伴うインフレによって消費支出が減少する。

増税を行なって消費支出を減少させれば、この変化は減殺される。これは、復興予算の財源を考えるときの重要なポイントだ。国債を増発すれば問題が深刻化するので、税を用いる必要があるのだ。「災害に乗じて増税するのは許せない」という類いの意見があるが、これは、マクロ経済のバランスを無視した議論である。

なお、対外資産の取り崩しや国債海外消化も、海外からの資金流入をもたらし、円高を引き起こす。つまり、形式的には異なる財源調達だが、マクロ的な効果は同じである。

円高を阻止すれば投資と消費の奪い合いが激化

以上で述べたことは、次のように表現してもよい。

国内生産(GDP)=投資+消費+純輸出

の均衡式において、左辺のGDPが電力制約などのボトルネックによって減少するので、右辺が減少しなければならない。どの項目が減少するかは、政策いかんによって異なる。

経済の自然な動きとしては純輸出が減るのだが、円高阻止政策が行なわれると、それが実現しない。そのため、本来は復興のために投資が増大する必要があるにもかかわらず、それが抑えられる。また、消費も減少せざるをえない。つまり、円高阻止が行なわれない場合に比べて、復興投資と消費の資源の奪い合いが激しくなるのだ。

以上のような軋みを避けるには、円高を阻止しないことが必要だ。また、増税で消費を抑えればそれだけ復興投資が促進される。

復興財源として国債が用いられれば、以上で述べたゆがみは大きくなるのだ。そして、結局のところインフレが生じて消費が強制的に抑制されることになる。増税ができなければ、インフレというかたちで、明示的な増税よりは不公平な税が降りかかってくることが認識されなければならない。

本稿の最初で述べたように、経済全体の需給バランスを考慮せず、各項目だけを見た議論が行なわれている。しかし、国民経済のバランス式は、どうしても成立しなければならないものだ。それを無視した感情的な議論に政策が押し流されれば、最も望ましくないかたちでの負担が消費者に押し付けられることとなる。

今回の大震災が経済に与えた影響は、第1にはボトルネックのために国内生産が減少せざるをえないことであり、第2には、それにもかかわらず復興のために投資を増大しなければならないことである。「その負担を、誰がどのように負うべきか」に関しての判断が、最終的な資源配分のパタンを決めるのである。

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