深刻な電力不足が経済活動を制約する

東北関東大震災によって、東日本で深刻な電力不足が発生している。

東京電力のプレスリリースによると、3月12~14日の期間で、同社の供給能力は3100万~3700万キロワットであり、ピーク時(18~19時)の想定需要量は3700万~4100万キロワットだ。つまり、供給能力は、ピーク時想定需要量を下回るか、あるいはぎりぎりの水準である。このため、計画停電が行なわれている。

このように、発電能力だけを取っても、今回の震災が経済活動の基本を揺るがすようなものであったことがわかる。これは、阪神淡路大震災の場合にはなかったことだ。規模も範囲も従来の災害とはケタ違いのものだったために、こうした事態がもたらされたのだ。

震災で損傷した発電所のうち、火力発電は今後復旧されるだろう。また、現在休止中火力発電の稼働再開や、他の火力発電の稼働率向上もなされるだろう。「日本経済新聞」(3月20日付)によれば、これらによって4月末までに供給能力を4200万キロワットまで向上できる。

しかし、事故を起こした福島第一原発(発電量が約470万キロワット)の再建は絶望的だ。これだけでも、現時点の供給能力の14%に相当する。こうした事情を考慮すると、電力不足は一時的なものではすまない。

電力で重要なのは、ピーク時の対応である。ピーク需要は、季節的には、冷房用電力使用が増える7、8月頃だ。1日の中では、今の時期では夕刻だが、夏には10時から18時頃までとかなり長い時間帯になる。この需要に対応する必要があるのだが、今年の夏には、かなり深刻な事態に陥る可能性が高い。「週刊ダイヤモンド」(3月26日号)は、8月のピーク需要は6000万キロワットを超すだろうとしている。供給能力が4月末の水準であれば、需要総量の32%をカットしなければならない。

こうした問題に対処する手段として、私は、「ダイヤモンド・オンライン」において、電力料金見直し(一定以上の基本料金の引き上げ)の提言を行なった。これによって、電力使用の時間的平準化が進むと期待される。

しかし、これで対処できるのは、家庭用電力だけだ。2009年度における販売電力量合計8585億キロワット時のうち、家庭用は2850億キロワット時にすぎない。したがって、家庭用を抑制するだけでは、十分ではない。

量的に重要な意味を持つのは、家庭用以外の電力、つまり、企業等によって経済活動のために使われているものである。これを抑制するために、大口需要の料金体系見直しは不可欠だ。現在でも、ピークロード時の料金は高くなっているが、これをさらに高める必要があるだろう。

工場立地を再編成しても対応できない

仮にそうした対策によって大口需要を抑えられたとしても、それは生産拡大に対するボトルネックになる。それだけでなく、経済活動にも国民生活にも大きな影響が及ばざるをえない。

西日本や北海道の電力を東北・関東地方に融通できれば、状況は緩和されるように思える。しかし、事態は、それほど簡単ではない。

まず、西日本と東日本は、周波数が違うので、電力を融通できない。周波数変換所は現在フル稼働しているが、能力は100万キロワット程度といわれる。これは、福島第一原発の5分の1程度でしかない。今後増強がなされるだろうが、限度がある。また、北海道からの送電は海を越える必要があるので、容易ではない(それに、北海道電力の発電能力は、それほど大きくない。前期ダイヤモンドの記事では、融通量は60万キロワット程度である)。

こうした事情を考えると、電力を融通するよりは、生産活動が東から西へ移転するほうが現実的である。そして、西で生産したものを東に回すのである。ただし、仮にそれが行なわれたとしても、量的に調整可能かどうかは、定かでない。なぜなら、東北・関東地方での電力需要は、日本全体の中できわめて大きな比重を占めているからだ。具体的には、次のとおりだ。

09年度における大口電力販売量は、東北電力が253億キロワット時、東京電力が783億キロワット時だ。この合計(1037億キロワット時)は、全国(2609億キロワット時)の40%となる。

そのうち、製造業が77%(799億キロワット時)と、きわめて大きな比重を占めている。ところで、中部電力(467億キロワット時)と関西電力(429億キロワット時)の09年度大口販売量は895億キロワット時である。だから、仮に、東北・関東地方の製造業の大口需要の3分の1(266億キロワット時)が中部や関西地方に移動したとすれば、中部・関西の需要は3割も増加してしまうこととなり、深刻な電力不足が生じてしまうのだ。

省電力型産業構造への転換が不可避

しかも、長期的には、もっと大きな問題がある。それは原子力だ。福島原発で深刻な事故が生じたので、原子力発電一般に対する社会的な反対が強まるのは、避けられないだろう。事実、諸外国での原発計画の見直しが、次々に報じられている。国際エネルギー機関(IEA)も、3月16日、原子力供給は伸び悩むとの見方を示した。

原発はすでに日本の発電総量の約3割を占めており、19年にはこれを4割超にまで高めることが計画されていた。しかし、今後の原子力政策の見直しは必至であり、新規建設ができなくなる事態は、大いにありうることだ。

そうなれば、日本の総発電量は、計画に比べて1割程度不足してしまう。したがって、日本経済は深刻な打撃を受けざるをえない。さらに、現在稼働中の原発が停止に追い込まれるような事態になれば、日本経済は破壊的な打撃を受けてしまう。

つまり、今後に予想される長期的な電力不足は、単に東北・関東地方に限定された問題ではなく、日本全体の問題なのだ(それどころか、諸外国でも原子力発電が制約されるとなれば、世界全体の問題でもある)。

電力はどんな経済活動にも必要なので、深刻なボトルネックになる。しかも、それが長期的に続く。仮に量的に解決されても、電力コストが高まることは不可避だ。原油価格の上昇を考えると、コスト高はいっそう深刻な問題になるだろう。なお、風力や太陽光発電などの再生可能エネルギーは、規模の点で、原子力を代替することはできない。

これに対処するには、産業構造が大きく変わる必要がある。すでに見たように、製造業は、東北電力、東京電力の大口電力需要の8割近くを占めている。全国では2123億キロワット時であり、大口電力販売量合計2609億ワット時の81%だ。これは販売電力量合計8585億キロワット時の25%である(なお、製造業の需要は、大口電力以外のものもある)。

製造業の電力需要がかくも大きい産業構造は、日本では維持できなくなったのだ。製造業の比重を下げ、サービス産業にシフトするしか方法はない。仮に経済全体に占める製造業の比率がアメリカ並みとなって、現在の半分近くに低下すれば、電力に対する需要総量は1割以上減少する。こうならない限り、日本の電力問題は解決されないだろう。

それができなければ、原子力発電所の建設を今後も進め、原子力の比率を引き上げてゆく必要がある。この二者択一を回避できる方策はないように思われる。

[ad]

Comments

comments

Powered by Facebook Comments