未曾有の大惨事の異例の財政措置を

未曾有の大惨事となってしまった東日本大震災の被害について、現時点(3月14日)では、詳細はまったくわからない。ただし、これまで経験したことのない甚大な被害が発生したことは間違いない。

人名以外の物的資産だけを取っても、阪神淡路大震災では10兆円程度の損害が生じたと言われる。今回の被害は、それを上回り、GDPの数パーセントに及んでいる可能性がある。日本はそれだけ貧しくなったわけである。だから、日本人の生活が平均的にそれだけ貧しくなるのは、不可避のことだ。

それに加えて、今後の経済活動への間接的な影響がある。阪神のときには被害は比較的狭い範囲に集中していたが、今回は広範囲なので、産業活動への影響は甚大だ。

なお、「災害特需によってGDPが増える」といった類いの意見が、すでにウェブ上などに見られる。しかし、この考えは、(不謹慎うんぬんという以前に)誤りである。なぜなら、「特需でGDPが増える」のは十分な供給能力が存在する場合のことであるが、今後日本経済が直面するのは、供給面における深刻な制約であるからだ。

現代の経済活動は複雑に絡み合っているので、全体としての生産能力が過剰であっても、ボトルネックがあれば、能力を発揮できない。たとえば、機械がいくら並んでいても、動力がなければ動かすことはできない(ただし、一部の業種については、特需がありうる。これについては後述する)。

供給面の制約は、備蓄が不可能である電力について、すでに発生している。本稿執筆時点で、東京電力による計画停電の実施が決まっている。それによって交通が混乱し、モノと人の移動が阻害され、経済活動が麻痺する。

原子力発電所で深刻な事故が生じたことを考えると、電力不足は短期的には解消できない。かなりの長期にわたる可能性もあり、それが国民生活や産業活動にどのような影響をもたらすかは、まだわからない。

長期的な影響として憂慮されるのは、原発に対する国民の不信が高まってしまったことだ。水素爆発や被ばく者が出てしまった以上、原発に対する住民の反対は、今後全国的にきわめて強いものとならざるをえない。

これまで、温暖化防止対策などを背景に、原発の比重は上昇してきた。政府は、2010年6月に策定したエネルギー基本計画で、原発比率を高める方針だった(東京電力によれば、09年度の28%から19年度に48%に)。しかし、この抜本的な見直しを求める声が強まるのは、必至だろう。

原発の比率を高められないだけでなく、現在の比率さえ維持できなくなる危険も大きい。火力発電の能力増強もすぐにはできないし、できたとしても原油価格が高騰しているので、エネルギーコストは高まらざるをえない。

復旧と支援のための臨時増税を行なうべきだ

これから災害の復旧活動と被災者の支援活動が始まり、そのために救援募金やボランティア活動が行なわれるだろう。そうした活動は、もちろん歓迎すべきものだ。

しかし、今回の損害の規模は、そうした自発的善意によってカバーしうる限度を遥かに超えていると思われる。被災地での当面の生活を確保するだけのためにも、数兆円の財源が必要とされる可能性がある。政府は補正予算を編成する方針だが、その内容も規模も、従来の災害復旧事業とは大きく異なるものにならざるをえない。

今回の大惨事からの復旧と支援のための費用は、なんらかのかたちで全国民が負担しなければならない。つまり、損失を国民全体で分かち合う覚悟が必要だ。

そのためには、善意だけでは不十分で、国家の強権による措置が必要だ。したがって、財源調達のために、国債の増発だけでなく、増税が必要である。

具体的には、災害復旧と被災者支援に目的を限った臨時増税措置を行なうべきだと考えられる。

まず、予定されていた法人税減税は、当面のあいだ棚上げにすべきだ。

さらに、災害復旧特需によって一時的に利益が増加する業種の企業については、法人税の臨時的な付加税を検討すべきである。

上で述べたように、経済全体としては、供給面の制約が厳しいためにGDPが特需で増えることにはならない。しかし、一部の業種に限ってみれば、製品に対する需要が増加し、価格も上昇するので、利益が一時的に増加することは十分ありうる。

このような利益は、公平の観点から見て国が吸い上げる必要がある。「他人の不幸に乗じて利益を上げることは許されない」という論理は、広い支持を得られるはずである。利益額の算定など、実施のためには多くの技術的困難があるが、こうした措置を取りうるか否かは、自然がもたらした不条理な事態に対する日本国民の考えを明確に示すものとして、重要な意義を持ちうると思う。

また、10年所得を課税ベースとして、所得税の臨時付加税を実施すべきであろう。さらに、消費税の臨時的な税率引き上げが検討されてよい。

もちろん、このような増税措置は、「臨時」とはいっても恒久化する恐れがある。また、災害に名を借りた安易な財源調達手段となる危険も孕んでいる。したがって、使途についても規模についても、慎重な検討が必要である。

ただし、今回の災害の規模は、このような異例の措置を取らなければとうてい対処できないものであることを、はっきりと認識すべきであろう。

ムダなバラマキは即刻やめにしよう

財源調達のためには、歳出面でも措置が必要である。

最も重要なのは、マニフェスト関連のムダな支出を即刻やめることだ。マニフェスト関連経費がもともとムダなものであることは、民主党政権も十分認識していたのだろう。ただし、これまでは、メンツや経緯があってやめられなかった面も強いと思う。今回の惨事を目の前にして、あらためて、冷静な目でマニフェストを見直すことが必要だ。

生活の糧をまったく失ってしまった家庭がいるなかで、所得制限もせずに子ども手当を出すことが正当化できるだろうか?

高速道路を無料化してレジャー的なドライブに使わせることが、国家非常時に許されるだろうか?

田畑が海水につかってしまった農家が多数ある中で、非効率な生産によるコストを、農家戸別所得保障制度で支えることが正当化できるだろうか?

これらに対する答えは、明らかである。11年度予算案におけるマニフェスト関連経費は、3.6兆円ある。これらを全て災害復旧費に回すだけで、必要な財源のかなりが確保できるはずだ。

ところで、報道を通じて伝わってくるのは、救出されたり避難した被災者の方がたが、パニックを起こさず冷静に行動している様子だ。被災地外でも、交通混乱や停電に人びとは沈着に対処している。

非常事態にもかかわらず、日本人は冷静で礼儀正しい。日本は、混乱に乗じた略奪行為が発生するような国ではない。このことが、全世界に向かって発信されている。これは、われわれが誇りうることだ。

今後に予想されるさまざまな難局に日本人が見事に対応できることを、全世界に示したいと思う。

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