日本国債に関してこれから起こること

格付け機関S&Pが1月27日に日本国債の格付けを引き下げたのに続き、ムーディーズも、見通しを「安定的」から「否定的」に引き下げた。

日本国債に将来どのような問題が起こると予想されるだろうか?

ムーディーズは、「税と社会保障の一体改革」の行方を見るとしている。しかし、この連載ですでに述べたように、仮に消費税を増税しても、5%程度の税率引き上げであれば、増収分は社会保障関係費と国債費の自然増にのみ込まれ、財政赤字は数年間で元に戻ってしまう。また、いくら増税して単年度赤字を減らしても、それによって国債残高が減ることはない。したがって、国債借り換えと国債費の問題は残る。

「日本の家計資産が1400兆円あるから、国債残高がその範囲にある限りは発行できる」としばしば言われる。しかし、これはまったくの間違いだ。なぜなら、1400兆円の家計資産があると言っても、手つかずのカネがあるわけではなく、すでに貸し出しなどに使われているからだ。実際、かなりの部分はすでに国債に投資されている。

今後増加する国債を消化するためには、貸し出しを減らすしかない。日本経済が停滞していて設備投資の資金需要がないため、これまでそうしたメカニズムで国債が消化されてきた。しかし、それは、次第に困難になってくる。

国債消化が困難になれば、市中に存在する国債が値下がりし、金利が上昇する。

ただし、これによって国債のデフォルトが生じるわけではない。これが通常の企業が発行する社債とは違う点だ。期限が来た国債の償還は、大きな支障なしに行なわれるだろう。

金利上昇は、国債の発行条件に影響を与える。ただし、金利が上昇しても、すぐに国債費は比例的には増えないことにも注意が必要だ。利子支払いが増えるのは、新規発行債と借換債である。仮に全ての国債が10年債だとすれば、金利が上昇してからその影響が全残高に及ぶまでには、10年かかる。また、借り換えの債に、短期化して利子負担を軽減することも不可能ではない。

国内消化が困難になればインフレがもたらされる

ただし、以上で述べたことは、なにも問題が生じないということではない。マクロ経済的には、大きな問題が発生する。

金利が上昇すれば、海外からの資本流入がもたらされるだろう。これによって、円高が進行する。それは、日本の輸出を減少させ、輸入を増加させるだろう。したがって、経常収支の黒字は減少する。つまり、経常収支がクラウドアウトされるわけである。

また、銀行が保有する国債の市場価値は低下する。したがって、銀行の資産を時価評価すれば、資産は劣化する。ただし、満期まで保有し続ければ、額面どおりに償還されるため、実際に損失が発生するわけではない。資金需要が急に増加することは考えにくいので、銀行は保有し続けることができるだろう。

もっとも、国債の市場価値下落を予想した銀行が、それが実際に生じる前に売り抜けようとすれば、市場価値下落は前倒しで発生する危険がある。

そうした事態を引き起こさないためには、国際市場が軟化する兆しが見えたときに、日本銀行が買い支える必要がある。ただし、それによって問題が最終的に解決されるわけではなく、以下に述べるインフレ発生を前倒しにする効果しか持たない可能性がある。

そして、こうした状態がしばらくは続くとしても、いつかは行き詰まる。なぜなら、金融機関の貸し出しをいつまでも減らし続けることはできないからである。貸出残高がゼロになれば、それ以上国内で国債を消化することはできない。

いつ行き詰まるかは、国債を消化しうる金融機関の範囲や、国債と代替しうる貸し出しの範囲がどの程度であるかに依存する。また、毎年度の新規国債発行額がどの程度かにもよる。しかし、それらをどう見積もるにしても、今後10年間程度以上は継続できないだろう(これに関する議論の詳細は、ダイヤモンド・オンラインに連載中の「人口減少の経済学」第10、11回を参照されたい)。

その段階に達した後に取りうるのは、次の2つのいずれか(あるいは両方)だ。

第1は、金融機関が保有する国債を日銀が購入することである。あるいは、直接に日銀が引き受けて国債を発行することである。後者は財政法第5条で禁じられているが、国会が議決すれば、財政法を改正しなくとも実行可能である。これらの方法を取れば、通貨発行量が増加し、インフレがもたらされる。それは、円安をもたらすだろう。

第2の方法は、海外での販売を行なうことである。その際、円建て債の発行はたぶん不可能で、ドル建て債の発行を余儀なくされるだろう(以下に述べるように円安が予想されるため、円建て債では購入者が損失を被ることが明らかだからである)。

海外の購入者は、国内の金融機関とは異なり、日本政府の償還能力について、厳しい判断を下すだろう。そうなれば、大幅にディスカウントして発行せざるをえなくなるだろう。これは、円安が進行することを意味する。それは、輸入インフレをもたらすだろう。

なお、この円安は、国内でのインフレを伴うものであり、円の実質価値を下落させるものではないことに注意が必要である。したがって、輸出が増えることはないだろう。

最終的には家計が負担することになる

インフレが進行すれば、国債残高の実質価値は下落する。他方で、家計が保有する定期預金の実質価値も下落する。このようなメカニズムを通じて、家計から政府への移転が起こる。この場合には、家計の消費が強制的にクラウドアウトされることによってマクロ的な経済のバランスが達成されるわけである。

金融機関の立場から見ると、資産である国債の実質価値は下落するが、負債である定期預金の実質価値も下落する。おおまかに言えば、両者はバランスする。つまり、金融機関は損も得もしない。

政府の単年度の収支はどう変化するだろうか。まず、インフレによって税収は増加する。

他方で、歳出側でも増加する項目が多い。まず、年金にはインフレスライド上項があるので、年金の名目支出は増加する。これ以外の社会保障関係費の多くも、インフレによって増加する。また、公務員給与など、インフレによって増加する経費は、ほかにも多い。税収と歳出のバランスがどうなるかは確実には予測できないが、おおまかに言えば、両者はバランスすると考えてよい。したがって、政府の立場から言えば、インフレによって債務残高の実質価値が低下することがネットの効果だ。

ただし、インフレが長期に続くと家計が疲弊し、税収が伸びなくなる可能性もある。したがって、政府の立場から見ても、インフレからの脱却が望まれることになるだろう。政府が望むのは、インフレでなく1回限りの物価上昇だ。

なお、以上のような事態が予測されると、資産の海外逃避が起こる可能性がある。それは円安をもたらし、輸入インフレをもたらす。つまり、以上の事態が前倒しで発生する可能性もあるわけだ。それを防止するには、強権的な為替管理が必要とされるだろう。

[ad]

Comments

comments

Powered by Facebook Comments