新興国労働の活用が不可欠である理由

上場企業の2010年4月~12月期の連結決算が出揃いつつあり、連結経常利益が前年同期に比べて増加したことが報じられている。また、通期業績を今後上方修正する企業が増えるとも言われる。しかし、ここ数年間は、経済危機によって企業利益が異常な低水準に落ち込んだ期間であった。だから、それとの比較で利益が増えても、格別驚くには当たらない。

問題は、回復の度合いである。とりわけ、次の2点だ。第1に、日本企業の利益回復は、他の先進国企業に比較してどうか。第2に、利益の回復は、売上の回復に見合ったものか。じつは、このいずれについても、問題がある。それが日本経済にとって何を意味するかを、以下に検討しよう。

まず、第1点についてみよう。『日本経済新聞』の集計によると、上場企業の11年3月期の経常利益は、前期に比べて53%増加し、08年3月期の73%の水準まで回復すると見られる(対象は、2月10日までに決算を発表した3月期決算企業。金融・新興市場を除く1471社。日経新聞11年2月11日)。

では、アメリカの企業はどうか。07年第3四半期の利益を1とすると、国内企業全体では、09年第3四半期ですでに0.83まで回復しており、10年第3四半期では1.12になっている。情報関連産業の10年第3四半期の数字は1.28だ。

つまり、日本企業の利益がやっと経済危機前の7割強まで回復しようとしているのに対して、アメリカの企業は、すでに1年前に8割強の水準に回復した。そして、現在では経済危機前より1割強高い水準になっており、業種によっては3割も高い。

株価の推移はどうか。リーマンショック直前の08年9月半ばの株価を1とすると、11年2月中旬の株価は、ダウ平均は1.08、ナスダックは1.24であるのに対して、日経平均は0.90となっている。アメリカの株価は、ほぼ企業の利益の推移と見合っているが、日本の株価は企業利益の回復に比べると、かなり割高である。

売り上げは回復するが利益が回復しない

次に、売り上げと利益の関係についてみよう。

前期日経新聞の集計によると、11年3月期の売上高は、08年3月期の約9割の水準まで回復する。それにもかかわらず、前述のように、利益が7割強までしか回復しないのだ。つまり、売り上げの回復に比べて利益の回復が遅れている。

その原因を、日産自動車を例にとって、ミクロ的に検討しよう。まず、総資産利益率(ROA)は、06年は7.9%、07年は6.4%だったが、08年3.96%、09年▲2.1%、10年0.41%と推移している。つまり、赤字からは回復したものの、経済危機前に比べるとまだ非常に低い水準だ。

この原因として考えられるのは、原理的には次の3点だ。第1は、生産台数が減少したため、設備の使用効率が下がったこと。第2は、為替レートが円高になったこと。そして第3は、主たる市場が北米からアジア新興国(特に中国)にシフトしたことだ。

まず第1点を見ると、10年3月期のグローバル生産台数(第1~3四半期・以下同)は233万台だったが、11年3月期には306万台で、05年より多い水準に回復している。したがって、これまでの利益率低下には生産台数減少が影響したであろうが、今後影響するのは残りの2つだ。

為替レートが経済危機後に円高になったことは、明らかに利益を減少させた要因である。とりわけ、北米地域の利益を減少させた。日産自動車の地域別の営業利益の売上高に対する比率を見ると、北米地域については、04年3月期11.6%、05年3月期10.8%であったものが、11年3月期には7.5%にまで低下している(04年、05年は通期、11年は第1~3四半期)。円ドルレートがかつてのような円安に戻ることは考えられないので、北米地域の利益率が回復することもないだろう。

他方で、中国が含まれる地域における比率は、同じ時点で、7.3%、5.4%から10.1%に上昇している。これは、生産の現地化が進展して安い労働力の活用が可能になり、生産コストが引き下げられたためだと考えられる。実際、同地域における生産台数と販売台数の比率を見ると、04年3月期には0.34、05年3月期には0.45であった。つまり、約6割は他地域で生産されたものの輸入であった。しかし、11年3月期には1.02になった。地域生産の一部が他地域に輸出されるようになったのである(なお、北米地域では、この比率はどの時点でも0.8程度である。また地域区分は年度によって同一でないが、「その他」あるいは「アジア地区」を中国が含まれる地域としている)。

つまり、市場が北米から中国に移ったため、当初は全体の利益率が低下した。しかし、中国での現地生産が増えるにつれて、利益率が回復したと考えられる。

生産が新興国にシフトする傾向は、今後さらに進展するだろう。これは、市場を新興国に求める場合には、不可欠の条件である。新興国での生産で新興国の需要を満たすだけでなく、それによって日本を含めた先進国の需要を満たす必要がある。日本国内に生産設備が残る限り、それが足を引っ張り、企業全体のROAは経済危機前の水準には戻らないだろう。

日本国内に残る過剰労働力と過剰設備をどうするか

アメリカ企業の利益が回復しているのは、雇用を減少させているからである。そのため、失業率は高止まりしたままだ。

しかも、資本は容易に国境を越えることができるので、雇用を増やす場合にも、高賃金国の労働を使用せず、低賃金国の労働を使用する。これは、グローバル経済における不可避の傾向だ。

自社構造を海外に移すだけでなく、水平分業方式で新興国の企業を活用する。アップルの製品が中国で作られていることは、よく知られている。同社の最近のROAは19.1%という驚くべき高さになっているが、その大きな要因は、新興国労働力の活用だ。

製造業全体の海外生産比率は、1997年度ですでに、アメリカが27.7%、ドイツは32.1%になっていた。その時点で、日本は12.4%だった。日本の値はその後上昇し、特に自動車はかなり高くなった。しかし、製造業全体では、09年度でも17.8%だ。

しかも、新興国の労働力を活用する手段は、生産拠点の移動だけではない。すでに90年代から、アメリカ企業はインターネットを通じるオンライン・アウトソーシングによって、インドの労働力を活用してきた。コールセンターなどの単純労働から始まり、データ処理などのバックオフィス業務の多くをアウトソースした。しばらく前から、法務等の高度な知的作業さえアウトソースしている。

これまで円安が続いたため、日本は新興国労働力の積極的な活用を行なってこなかった。しかし、経済危機後の条件変化によって、生産拠点の新興国への移転を行なわざるをえなくなったわけだ。

これは、国内に膨大な過剰労働力と過剰生産設備を発生させる。これに対処するには、生産性の高いサービス業を国内で興すしか方法はない。そのための人材をいかに確保するかが、今後の日本にとっての基本的な課題である。

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