財政再建の基本は地方自治の確立

「消費税率を5%引き上げても焼け石に水」と第547回に書いた。その原因の1つは、増収額のかなりが地方に配分されることだ。

まず、税率5%のうち1%分は地方消費税である。残り4%分の29.5%は地方交付税に充てられる。したがって、増収分の44%は地方に配分されることとなり、国の予算の社会保障関係費にも、新規国債発行の減額にも充てることはできない。

多くの人は、「消費税率1%で約2.5兆円の税収があるから、5%の税率引き上げで12.5兆円の税収が上がる。これは、2011年度予算の社会保障関係費28.7兆円や公債金収入44.3兆円に比較してかなりの大きさなので、財政状況は大きく改善される」と考えている。しかし、12.5兆円のうち、社会保障や赤字削減に使うことができるのは、7兆円程度しかないのだ。そして、社会保障関係費と国債費は、制度を大きく変えない限り、毎年2兆円近く増加する。このため、増税分は数年間で使い切ってしまい、財政状況はあまり改善されないのである。

では、この事態をどう評価すべきだろうか? その判断のために、まずこれまでの状況を概観しておこう。

公債金収入については、その一定率を地方交付税とすべしとする規定はない。したがって、公債依存度が高まると、一般会計歳出中の地方交付税の比重は自動的に低下する。また、減少が激しいのは所得税と法人税であるが、これらの交付税参入率は高いので、これによっても交付税の比率は低下する。実際、地方交付税額は1990年度から約16兆円でほぼ一定であり、国の一般会計歳出総額に占める比率は、90年度の23%から11年度の18.2%まで低下した。

他方で、国の一般会計の歳出を増加させるのは、社会保障関係費と国債費だ。右の期間中、社会保障関係費は12兆円から29兆円に増加し、歳出総額中の比率は、17.5%から31.1%に上昇した。これに対して、地方財政には、年金の負担がない。また、公債費の比重もあまり高くない。09年度地方財政計画では歳出総額の12.6%であり、国の場合の23.3%(11年度)に比べてかなり低い。だから、国の場合のような強い歳出増加圧力には直面していない。

以上の事情を考慮すれば、「今後増税する消費税については、地方交付税に回さない」という選択肢もありうるわけだ。そうすれば、国の財政事情の改善度はかなり違うものになる。

ただし、以下に述べるように、問題は消費税の配分に限定すべきものではない。広く、国と地方の関係一般の見直しが必要だ。菅直人首相は、「税と社会保障の一体改革」について議論するとしているが、本来議論すべきは、「税、社会保障、そして国と地方の関係」だ。

戦時体制のままの地方財政制度

現在の日本の地方財政制度は、戦時中の1940年度に確立された。その基本思想をひと口で言えば、「地方自治の否定」である。すなわち、財源を所得税(とりわけ給与所得に対する源泉徴収税)と法人税というかたちで国に集中し、それを地方に再配分する。そして、全国一律の公共サービスを提供するというものだ。

これは、戦後の日本にそのままのかたちで残り、高度成長期においては適切に機能した。高度成長は製造業の発展を基盤とするものであり、したがって所得税と法人税が順調に伸びた。また、工業地域と農業地域の所得格差が開いたが、それを国の再配分機能によって調整してきたのである。

しかし、その後、財政をめぐる基本的な条件は変化した。1つは社会保障関係費が増加したことであり、いま1つは所得税、法人税の伸び率が低下したことだ。これらが、90年代以降の国の財政事情を悪化させたのだ。変化は、経済危機によって一挙に加速した。所得税、法人税の税収が大きく落ち込み、財政状況が悪化した。この状況は09年度予算に明確に表れている。

ところが、こうした大変化にもかかわらず、国と地方の関係についての基本的な見直しはなされなかったのである。

もちろん、国と地方の分担について、議論はなされてきた。05年には、国庫負担金中で最大の項目である義務教育費国庫負担金の存廃が問題となり、国庫負担比率が2分の1から3分の1に引き下げられた。現在では、子ども手当や後期高齢者医療費に関して、地方側が負担を拒否しており、決着がついていない。

ただし、これらは、当該問題の枠内だけのアドホックな議論である。端的に言えば、国と地方の「負担の押し付け合い」である。国と地方の関係の基本が議論されたわけではない。

このテーマは、広い意味での政府部内の問題であり、一般の関心をあまり集めない地味な話題だ。しかし、以下に述べるように、財政の基本にかかわる論点を含んでいる。

「足による投票」を実現し財政の膨張をチェックする

公共サービスの中で、義務教育、警察、消防、清掃などは地方政府が提供することとされている。これに加え、年金以外の社会保障に関しても、地方の役割を中心に制度を再構築することが可能である。つまり、生活保護、医療保険、介護保険は、基本的に地方に任せるのである。

さらに、子ども手当、農家の戸別所得保障などの再分配政策も地方が行なう。また、産業政策、公共事業も地方に移管する。そして、それに必要な財源措置を講じる。他方で、国の仕事は、年金、防衛、外交、司法などの分野に限定する。

重要なのは、支出についても財源についても、地方公共団体が自由に決定できる制度にすることだ。財源は、地方交付税交付金や国庫支出金のかたちで国が提供するのでなく、地方が税率を決められる地方税で徴収する。この目的のために、消費税は不適切だ(税率の低い地方で購入することで、税負担を逃れられるため)。固定資産税、住民税、事業税のような税目が必要だ。

これによって、「足による投票」が実現する。たとえば、ある地方は子ども手当が多いが地方税負担も重いというよりになり、人びとはそれを基準に居住地を選択する。これは、市場メカニズムと類似の機能である。

もちろん、居住地の変更は容易でないから、「足による投票」は市場メカニズムと同じようには機能しない。しかし、住民は、通常の選挙を通じても、財政に対する意見を表明しうる。

財政支出が野放図に増加するのは、支出と負担との関係が明確に意識できないからである。現在の日本の財政構造では、「高い財政便益には高い負担が必要」という当然のことが意識できないのだ。この構造が残る限り、いくら増税しても、支出が膨張してしまう。消費税の引き上げは、当面の財源を工面するつじつま合わせにしかならない。「消費税を引き上げても焼け石に水」とは、そのことを言っているのである。

財政支出の膨張をチェックするには、便益と負担をリンクさせ、かつそれらを地方に移管することが不可欠である。

もちろん、これは大改革である。1940年以来70年間続いた財政の基本構造を変えようというのだ。しかし、これこそが、財政再建に関する基本問題なのである。「消費税を目的税化すべきか」とか、「年金は税方式か社会保険料方式か」といった問題設定は、基本をはずれたものと言わざるをえない。

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