5%の消費税増税では焼け石に水

社会保障制度改革と財政再建の議論が始まろうとしている。多くの人が想定しているのは、消費税の税率を5%ポイント程度引き上げるというものだろう(以下では「ポイント」を省略する)。これだけの増税を行なえば、財政再建が達成されると考えられることが多い。

しかし、以下に述べるように、日本の財政は、その程度の税率引き上げでは、焼け石に水にしかならない状態だ。事態を大きく改善するには、ケタ違いの大規模な増税が必要になる。それを認識すれば、とるべき方策はまったく異なるものとなる。議論の出発点として、この点を明確にすることが必要だ。

以下では、必要な増税規模について検討しよう。増税の目的は、まず第一には、現在すでに生じている財政赤字を縮小することだ。しかし、これだけでは十分でない。なぜなら、財政支出は今後増大するからだ。とりわけ、社会保障関係費は、高齢者人口の増加に伴って不可避的に増加する。したがって、第二に、将来の社会保障費増加に対応することが必要だ。

これら2つの目的のためにどれほどの増税が必要かを検討してみよう。

財政赤字を現状からx兆円だけ減少させることを目的にするとしよう。消費税を増税する場合には、税収額の約3割が地方交付税に回される。したがって、必要な増税額は1.43x兆円である。消費税率をt%だけ引き上げると、そのうち国税分は0.8t%である(0.2%は地方消費税分。なお本稿で「消費税率」という場合には、国税分と地方税分の和を指すものとする)。消費税率1%での税収は約2.5兆円だ。したがって、1.43x兆円の税収を上げるためには、消費税率を0.715x%引き上げる必要がある。

仮に2011年度の公債金収入と「その他歳入」の和52兆円のすべてをゼロにすることを目的とすれば、37%の消費税率引き上げが必要だ(現在の5%と合わせて消費税率が42%になる)。15兆円にまで減少させることを目的にする場合は、26.5%だ(現在の5%と合わせて消費税率が31.5%になる)。

ところで、「15兆円まで圧縮」というのは、ほぼユーロ加盟条件に相当する。つまり、日本がユーロに加盟しようとすれば、最低30%を超える消費税率を覚悟しなければならないのだ。

社会保障自然増の対応で5%の税率アップが必要

次に、第2の目的である社会保障自然増への対応を考えよう。自然増がどれほどの規模なのかについては、さまざまなことが言われている。

09年度予算では6500億円程度、10年度予算では1兆0776億円と言われたが、算定の根拠は明確でない。11年度概算要求では、1兆2500億円とされ、これをそのまま認めるとされたので、議論を呼んだ。

1兆円の自然増というのは、率で言えば3%程度の増加に相当する。これはやや過大ではないかと考えよれる。

過去の推移を見ると、社会補償給付費(保険や地方税で賄われるものも含めた社会保障給付の総額)は、65歳以上人口の増加にほぼ比例して増加している。そして、国立社会保障・人口問題研究所の推計によれば、65歳以上人口は、20年には10年に比べてほぼ22%増加する。したがって、保険料や地方との費用負担分比率を不変とすれば、一般会計の社会保障関係費もほぼその程度の率で増加すると考えられる。

したがって、11年度予算で29兆円である社会保障関係費は、今後10年間で約6.4兆円増加する。これを賄うために必要な消費税率の引き上げ幅は、先の算式から4.6%となる。

つまり、消費税率を5%程度引き上げたところで、当初は赤字が減るものの、社会保障の自然増のために再び赤字が増える。今後10年程度の期間を考えれば、社会保障自然増に対応することで精一杯であり、公債発行額を目立って減額させることにはならないのだ。

公債発行額を15兆円に減らすことを目的とするなら、すでに述べたことと合わせて、消費税率を36.1%にする必要がある。

民主党のマニフェストでは、社会保険料方式から税方式に転換し、最低保障年金を創設するとしていた。税方式には原理的にさまざまな難点が考えられるのだが、それを脇に置くにしても、財源の点でまったくの不可能事であることがわかる。この議論は、日本の財政が以下に厳しい状況にあるかをまったく無視した空論である。

国債費の自然増という難問が残る

じつは、財政赤字問題は、これだけでは終わりにならない。「国債費の自然増」という問題が残るのだ。

増税によって、財政赤字がy兆円にまで圧縮されたとしよう。これは、国債残高をy兆円だけ増加させる(過去に発行された国債は償還されるが、60年かけての償還なので、新規発行額に比べてかなり小さい。そこで、これを無視する)。

国債残高が増加すれば、利払いと償還費からなる国債費は、それに比例して増加する。現在10年もの国債の発行利回りは1.2%である。これと60年償還を前提とすれば、国債残高がy兆円だけ増加したことによる国債費の増加は、ほぼ2.9y/100兆円だ。これが「国債費の自然増」である。

yが40とすれば、約1.2兆円である。これは、社会保障の自然増より大きな額だ(ここ数年の国債費は、毎年4000億~5000億円程度増えているが、それはこれまでの国債発行額が今ほど巨額でなかったからである)。10年間では12兆円である。先の算式に当てはめれば、地方税分を含む消費税率を、8.6%引き上げなければならない。

しかも、これでも終わりにはならないのである。税の自然増収がないとすれば(経済成長率が回復しない限り、そう考えざるをえない)、この歳出増は公債金収入に頼らざるをえない。すると、国債残高はさらに増加することとなり、孫利子、曾孫利子、等々が累積して、国債費は雪だるま式に増加してゆくのだ。

もっと恐ろしい問題もある。上記の計算は国債利回りとして現状の数字を用いた。しかし、仮に国債の消化に問題が生じれば、これは急騰する恐れがある。そうなると、国債費は一挙に増加するわけだ。

以上の検討をまとめておこう。仮に、消費税率を5%程度引き上げて10%にしたものとしよう。これによって今後10年間程度の社会保障関係費の自然増には対応できるだろう。しかし、それによって国債残高を目立って圧縮することはできない。

すると、現在程度の国債発行が継続することとなり、それが国債残高を累増させて、国債費を増加させる。それを賄うために、消費税率を10年後には19%まで引き上げる必要がある。

つまり、「5%程度の消費税引き上げは、気休め程度にしかならない」ということである。

日本の財政状況を根本的に改革しようとするなら、次の2つがぜひとも必要とされる。

第1は、社会保障制度の抜本的な見直しである。年金の受給開始年齢を75歳に引き上げる程度の大規模な改革が必要である。

第2は、消費税のようなフローに対する課税では対応できないので、資産を課税ベースとする課税を検討することである。

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