待っても神風はない あるは自力対応のみ

日本の平均株価は、昨年1年間で約3%下落した。現在の株価は、リーマンショック直前に比べると、14%ほど低い。それに対してアメリカの株価は、昨年1年間で11%上昇した。そして、現在はリーマンショック直前に比べて2%高くなっている。日米両国の株価の動きは、対照的だ。

イギリスの株価回復も顕著である。昨年1年間で9%上昇した。現在の株価は、リーマンショック直前に比べて10%ほど高い。

このように、株価に関する限り、世界が回復するなかで、日本だけが低迷状態から抜け出せない。ところで、株価は企業利益を反映している。したがって、右に見たことは、他国の企業利益が回復するなかで、日本企業の利益が低迷していることを示している。しばしば、「日本の株価が出遅れている」と言われるが、出遅れているのは、株価ではなく企業利益なのである。

では、なぜ日本企業の利益が低迷するのか? その理由は2つある。第1は、円高が進むために輸出が頭打ちになっているからだ。日本の輸出総額は、2009年1月のボトム3.4兆円から10年7月の約6兆円まで、ほぼ順調に伸びてきた。しかし、その後は頭打ち、ないしは減少で推移している。11月の輸出総額は5.4兆円である。これは、07年11月に比べると4分の3程度の水準だ。中国に対する輸出は、09年1月のボトム以降急速に回復してきたのだが、10年4月以降は頭打ちになっている。

第2は、これまで製造業を支えてきた購入支援策が終了あるいは縮小したからだ。鉱工業生産指数も、09年2月の71.4から10年5月の96.1までは継続的に上昇してきたが、その後は減少に転じている(ただし、11月は10月に比べて若干上昇した)。

今後こうした事態が急速に改善することはないだろう。円安に進むことは考えられないし、政府が新しい購入支援策を打ち出す可能性もないからだ。むしろ、購入支援策で需要を先食いした反動が、これから顕在化するだろう。したがって、11年においては、さまざまな指標が悪化する危険がある。そして、労働力と生産設備の過剰が顕在化するだろう。

他力本願では問題は解決できない

これまで、日本の企業は、他力本願の姿勢を続けてきた。世界経済の大きな条件変化に対してビジネスモデルを変更して積極的に対応するのでなく、責任を政府の政策に押し付けてきた。

第1に、「為替レートが異常な円高になるために、利益が圧迫される。だから、介入して円安にせよ」と主張した。第2に、「法人税率が諸外国に比べて高過ぎるから、日本企業は外国企業に敗れる。また、日本企業が海外に移転する。だから法人税を引き下げよ」と要求した。

政府は、こうした要求に対応した。第1点については、10年9月、為替市場に介入し、円売りドル買いを行なった。第2点については、11年度税制改正で法人税を減税し、国と地方を合わせた法人税の実効税率を5%引き下げ、35%強とすることとした。

では、これらによって事態は改善されたろうか? 第1点については、円高を食い止めることはできなかった。これは、大きな教育効果があった。円安を望んでも不可能であることが広く認識されたのだ。そして、円高に対応したビジネスモデルに転換しなければ生き残れないことが、認識されるようになった。

それに、前回述べたように、今のレートは、実質値で見れば、決して円高とは言えない。1995年頃と比べれば、まだ4割程度円安である。だから、名目レートの円高が今後さらに進んでも、少しも不思議ではない。円安を待ち望むのではなく、円高に対応する必要性は、これからますます強まる。

第2点についての検証は、これからのことだ。しかし、これも効果がないことが遅からず明らかになるだろう。そして、「法人税率を引き下げるべし」との要求は下火になるだろう(「5%引き下げでは不十分で、もっと引き下げなければならない」という声は残るかもしれないが)。

実際、この連載でこれまで指摘してきたように、日本の法人税負担率は、会計上の利益に対する負担率で見れば、諸外国に比べて決して高くない。また、理論的に考えて、法人税率の引き下げが企業活動を活性化することはない。こうした当然のことが、理解されるに至るだろう。

いずれにせよ、他力本願では事態は改善しないことが理解されるだろう。「天は自ら助くる者を助く」のだ。

今こそ、基本的な転換が必要である。「失われた20年」は、企業が従来のビジネスモデルをとり続けたことによって招来された事態である。

現在の事態は本当はチャンスなのだ

こうした事態に、企業もようやく対応し始めた。

日本国内での回復を諦め、生産拠点の海外移転を再開した。また、新興国市場での最終消費財販売に乗り出した。新規採用においても、外国人(特に中国人)採用枠を拡大した企業が目立つ。これらの動きは、今後さらに加速するだろう。

これらの対応が企業利益を回復させるかどうかは、わからない(私は、新興国市場への進出は、利益を回復させず、かえって減らすと考えている。なぜなら、新興国では低価格製品が主流となるからだ)。ただし、日本国内における問題を解決せず、かえって悪化させることは明らかだ。

地方に行くと、「親会社が海外に工場を移した。どうしたらよいか」という声を聞く。また学生の就職難は深刻化するだろう(すでに、10年12月時点の内定率は過去最悪になっている)。

このままでは、日本国内に活力が戻らない。新しい産業の登場が必要だ。

では、どうすればよいのか。「政府が成長分野を見つけ出し、助成すべきだ」という意見があるかもしれない。しかし、そうしたことで新しい産業が生まれるはずはない。私は、政府の成長戦略に期待することには反対である。これは、かたちを変えた他力本願にほかならない。

しかし、現在の事態は、本当はチャンスなのだ。

たとえば、クラウドサービスによって、コンピュータ利用のコストは大幅に下がっている。これを用いて、新しい事業を始めることは十分可能である。インターネットの世界で新事業の可能性が枯渇したわけではないことは、フェイスブックの大躍進でもわかる。アメリカ企業がインド人のIT技術者をインターネットを介して使っているように、日本企業が中国人のプログラマを活用すればよい。

国内の需要は飽和したと言われる。確かに、従来の商品やサービスに対する需要は飽和した。たとえば、テレビは、薄型は、地デジ対応、3Dと次々に需要を掘り起こしてきた。しかし、いずれ先細りになる。これらは、従来路線の延長にすぎないからだ。

新しい需要を掘り起こすには、発想の転換が必要だ。実際、フェイスブックにしても、これまであった潜在需要を新しい技術で掘り起こしたものだ。

日本国内にも、まだまだ巨大な潜在需要がある。破棄された工場をショッピングセンターに転用するのは従来型の発想だが、介護施設や野菜工場に転換することが考えられないか。発想の転換によって日本経済を活性化する可能性は、いくらでもあるはずである。

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