破綻を明確に示す来年度予算の惨状

「2010年度予算には日本の死相が表れている」と前に書いたことがある。昨年12月24日に閣議決定された11年度予算には、よりはっきりしたかたちで死相が表れている。

国債発行額が表面的には44兆円に抑えられているが、いわゆる埋蔵金を使っているため、実質的には50兆円を超えている。

他方、歳出面では、何が目的なのか理解できない施策に、巨額の資金がつぎ込まれている。「3K」といわれる支出(子ども手当、高速道路料金割引、農家戸別所得補償)が、その代表だ。

基礎年金国庫負担率引き上げの恒久財源は、法律によって11年度予算までに手当てすべきことが明記されているにもかかわらず、実現できなかった。これは、明白な法律違反である。04年度以来宿題となってきたことが、いまだに実現できていない。

以上は、日本の予算がもはや制御不可能な末期的状態に陥っていることを、明白に示している。冒頭「死相」と言ったのは、このためだ。

財政のコントロールは、もちろん容易な過大ではない。特に、高度成長期と違って税収の伸びが期待できない状況下では、そうだ。問題は、政策担当者が、日本の将来を左右する事柄に対して明確な戦略を持ち、その対処に全力を傾注しているとはとうてい思えないことである。選挙のための人気取りとつじつま合わせの算術だけがすべてであるように見える。

もっとも、財政がこのような状態になっても、すぐさま大きな問題が引き起こされるわけではない。国債の大量発行が続いているにもかかわらず、長期金利は目立って上昇していないからだ。それは、今後もしばらくのあいだは続くだろう。

そうであるからこそ、問題は先送りにされてきたのだ。しかし、いつまでも先送りすることはできない。後で述べるように、さほど遠くない将来時点で、国債消化に関してきわめて深刻な事態が発生する。そのときになって対応しようとしても、手遅れだ。

人口高齢化に財政が対応していない

巨額の国債発行が続いているのは、人口高齢化が進展する半面で、財政がそれに対応した構造に転換していないからである。

社会保障給付は、制度を変えない限り、高齢者人口の増大によってほぼ自動的に増える。とりわけ公的年金は、団塊世代が受給年齢に達したため、これまで以上に増加圧力が強まる。その半面で、税構造は1990年代から基本的にはなにも変わっておらず、日本経済の衰退に伴って税収が減少している。したがって、社会保障制度(特に公的年金)を抜本的に改革して給付を削減するか、そうでなければ、今後増え続ける社会保障に見合った恒久的財源を準備しなければならない。日本の財政が直面している基本的な課題はこのことだ。

これに対応しなかったのは、自民党政権時代からだが、民主党政権になって、さらにはっきりした。国債が増加した大きな原因は経済危機によって税収が減少したことだから、民主党の経済失政だけの結果ではない。しかし、マニフェストに振り回され、選挙対策しか考えない予算編成を行ない、3K支出を増やしたことの影響は大きい。

ところで、現在の国債消化メカニズムは、持続可能なものとは考えられない。

90年代までの期間においては、家計貯蓄が増えることで国債が消化されてきた。家計貯蓄が増えて銀行の定期預金が増加し、それを原資として銀行が国債を購入してきたのである。これが本来のかたちでの国債消化である。

しかし、最近10年間程度の国債消化は、異なるメカニズムでなされている。それは、企業に対する貸し出しが減少することで行なわれているのだ。したがって、銀行の資産に占める国債の比重が増加している。日本企業に設備投資意欲がなく、資金需要がないため、これが問題を引き起こすことはこれまでなかった。

この方式はいつまでも続けられるものではなく、どこかで破綻する(しばしば、「日本では1400兆円を超える家計資産があるから、その範囲までの国債発行が可能」と言われる。しかし、これはまったくの間違いだ。家計資産はすでに国債保有や貸し出しに使われているからである。その総額が増えるのでない限り、貸し出し等を減らさなければ増加する国債を消化することはできない)。

国債消化はあと10年で行き詰まる

一定の仮定の下で計算すると、「あと10年間程度で民間金融機関の企業向け貸し付けがゼロになる」との結論が得られる(この計算の詳細は、ダイヤモンド・オンラインに連載中の「人口減少の経済学」を参照)。つまり、現在の国債消化メカニズムは、あと10年ほどしか続かないのだ。こうなるずっと前に、銀行資産の大部分が国債になるという事態が訪れる。これは、きわめて危険な状態だ。

なぜなら、国債の償還に懸念が強まり、国債価格が下落すると、銀行の資産が悪化するからである。個別企業に対する貸し出しはすべての貸し出しが同時に劣化することはあまりない。しかし、国債は基本的には単一の資産なので、償還に疑問が生じると、価格下落は一挙に生じる。しかも、国債の場合には、企業貸し付けの場合のような担保が存在しない。

ギリシャやアイルランドの場合には、欧州連合(EU)が救済策を実施した。しかし、日本の場合にそうした救済者はいない。

金融機関の破綻を回避するには、日本銀行が銀行保有国債を購入するしかない。さらに、新規発行国債を日銀が直接に引き受けることが必要になるだろう(これは財政法第5条で禁止されているが、国会が議決すればできる)。これによって通貨発行額が増大し、インフレが引き起こされる。

国内のインフレで円安になり、輸入物価が高騰して、さらにインフレが激化する。国民生活は甚大な影響を受ける。また、日本の家計が保有する金融資産の大部分は定期預金であるが、この実質価値がインフレによって下落する。

歴史上、ある限度を超えた財政赤字は、ほぼ例外なくインフレを引き起こしている。日本の財政状況は、歳出の見直しや増税で解決できる段階をすでに超えているので、この歴史法則から逃れるのは不可能だ。「いつ?」とうい点に若干の不確実性が残るものの、日本経済がこの方向に向かって突き進んでいることは間違いない。

なお、円安になれば輸出が増えて日本経済が回復するという意見があるが、これは単純な誤りだ。インフレによる円安は円の実質価値を低めないので、輸出が増えることはない。

日銀引き受けの必要が生じる前に、海外消化が試みられるかもしれない。しかし、買いたたかれて円安がもたらされる。それは輸入物価を高騰させて国内でインフレを引き起こす。だから、結局同じことになる。

こうした事態を予想して、資本の海外逃避が起こる可能性がある(実際、現在でもすでに富裕層の資産のかなりの部分が対外資産になっている)。それが起これば、円安・インフレ経済への転換は、前倒しで起こる。

以上で述べたことは、問題の規模がきわめて大きいだけに、対応に十分な時間が必要だ。それこそが政治の果たすべき役割なのである。その役割を、現在の日本の政治はまったく果たしていない。

[ad]

Comments

comments

Powered by Facebook Comments