中国のバブル対応は経済法則を超えるか

中国が金融政策を変更した。これまでの「適度に緩和的」から「穏健」に移行するとされている。実際には、「これまで緩和し過ぎた金融を引き締める」ということだろう。

経済危機後の中国は、輸出の減少にもかかわらず、経済成長率を大きく落とすことなく成長を続けてきた。これは、対米自動車輸出を中心として輸出が大きく落ち込んで経済がマイナス成長に陥った日本と対照的である。中国の輸出品は消費財が中心なので日本の輸出ほど大きくは落ち込まなかったのは事実とはいえ、輸出依存度は日本よりかなり高いので、経済危機後の中国の経済成長は、おおかたの予想を超えるものだった。

当初は、政府が財政支出を増大させて、鉄道、道路などのインフラストラクチャの建設を増大させたと考えられていた。しかし、今になって振り返ってみれば、極度の金融緩和によって住宅投資を増加させたことが最大の原因だったのだろう。

人民元に対する増価圧力がさほど大きくならなかったのも、そのためと考えられる(開放経済下のマクロ政策に関するマンデル=フレミング・モデルによれば、財政支出増加によって景気刺激を行なうと自国通貨が増価して刺激効果が相殺されるが、金融緩和によれば、通貨が減価するため刺激効果が失われない)。

工業化に伴う都市化によって、中国の都市人口は急増している。したがって、住宅に対する需要はきわめて大きい。金融が緩和されたために需要が爆発的に増加し、住宅価格が上昇した。都市部における住宅は、労働者の賃金所得で購入できる限度を超えている。上海や北京の普通の住宅が、日本の同じような住宅と同じような価格になっている。中国の1人当たりGDPが日本の10分の1であることを考えると、これは将来の価格上昇を織り込んだ購入行動としか考えられない。つまりこれはバブルである。

純粋に投機的な購入もかなり多いと考えられる。中国政府の取った政策が、2軒目、3軒目の住宅購入に対する条件を強化するものであったことが、それを示している。

不動産価格バブルは崩壊するか

今回の金融引き締めによって何が起こるだろうか? 普通に考えれば、バブルが崩壊して、不動産価格が暴落するはずだ。それによる不良債権問題が、金融危機を起こす可能性もある。

日本で1990年代に起こったのは、まさにそうしたことだった。不動産に対する投機取引に融資をしていた金融機関に損失が生じ、それが日本の金融システムを揺るがせた。

もっとも、中国の不動産バブルと80年代後半の日本の不動産バブルとは、違う面もある。

日本の場合には、投機の対象は空地が中心であった。「東京が世界の金融取引の中心地になる」と言われ、ビル需要の増加が予測された。そして、投機が発生したのである。しかし、実際にはそうした需要は現れず、不良債権の山が金融機関に残された。

これに対して中国では、価格が上昇しているのは住宅である。その背後には都市化があり、その傾向が今後も継続することは確実だ。したがって、不動産に対する需要は、日本の場合とは違って実需であり、需要は今後も強い。だから、金融が引き締められても不動産価格は暴落しないとの見方もありうるだろう。

しかし、「実需があれば、いくら価格が上昇してもバブルにならない」ということにはならない。日本の場合にも、住宅価格もつられて上昇し、そしてバブル崩壊によって下落した。

2002~07年頃のアメリカ不動産バブルも、住宅価格に関して生じた。そして、「移民などの影響で人口は増加しているので、バブルではない」との見方があった。しかし、実際には06年頃に住宅価格がピークに達してバブルが崩壊し、金融危機がもたらされたのである。

中国の場合、右で述べたようにかなりの投機的取引があると考えられるし、価格は労働者の賃金水準では正当化できないレベルにまで上昇している。したがって、現在の状況は、長期的には持続できないものだ。

バブル崩壊による経済混乱は、普通は債務不履行とそれによる金融機関の損失拡大によって生じる。ただし、損失が生じても、政府が補填すれば、経済混乱は防ぎうる。仮にバブル崩壊が生じた場合、中国政府はそうした措置を取って経済の混乱を回避しようとするのだろうか?

中国はこれまで、経済の常識では理解できない動きを示してきた。バブル対策においても中国はこれまでのバブル対策とは異なる政策を取り、ソフトランディングに成功するのだろうか? その答えは、現時点ではなんともわからない。

元増価による輸出減を回避できるか

中国が直面する問題は、不動産価格バブルの崩壊による混乱だけではない。金融引き締めは人民元高をもたらし、貿易黒字を減少させるはずである。

さらに、中国政府は、金融引き締めによる経済の落ち込みを防ぐため、財政支出を増加させるという。仮にそれが実行されれば、国内の金利上昇をさらに進め、元に対する増価圧力をさらに強めるはずだ。

しかも、アメリカは大幅な金融緩和をすでに実施している。これによって中国への資金流入圧力が生じ、元の増価圧力になっているはずだ。中国の金融引き締めと財政支出増加は、この傾向を加速するはずである。つまり、半年ほど前と比較すれば、3つの大きな要因が、元高方向に作用するはずなのである。

元の増価は、中国の貿易黒字を減少させる。すると、中国は、国内の住宅建設の減少(場合によってはバブル崩壊)と対外黒字の減少という2つの需要下落に直面することになる。

もちろん、ここにも「中国の特殊事情」が介在しうる。右に述べたのは、国際間の自由な資本移動を前提としたものだ。しかし、実際には、中国は先進諸国とは違って強力な資本取引規制を行なっている。アメリカの金融緩和による元の増価と貿易黒字減少を防ぐため、中国通貨当局は、これまで以上に必死になって資本の流入を食い止めるだろう。したがって、本来であれば中国に流入して元を増価させるはずの資金は、実際には自由には流入できない(実際、アメリカの過剰資金が中国に流入できないため、他のアジア諸国に流入していると言われる)。

その結果、為替市場において元に対する超過需要が生じ、需給不均衡状態が生じる。中国人民銀行は、これまで以上に大量の元売りドル買い介入を行なう。その結果、国内の金融は緩和し、意図した金融引き締め効果は得られない。また、巨額のドル資産を外貨準備で保有することになるが、それはドル安による価値減少に直面する。問題は、こうした不安定状態をいつまで続けられるかだ。

歴史的に見れば、為替レートの変動が一方向に偏って予測されている場合の攻防戦は、常に市場側が勝利し、通貨当局が敗北する結果に終わっている。71年のニクソンショック後、日本が1ドル360円のレートを守ろうとしてドルを買い続けたが、巨額の損失を被ったすえに変動相場に移行した。最近では、アジア通貨危機において切り下げを狙ったジョージ・ソロスが勝利した。

中国の為替政策は、理論的のみならず歴史上でも明らかなマクロ経済学の法則を超えられるのだろうか。

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