過去最低の内定率は経済構造変化の反映

厚生労働省と文部科学省の共同調査によると、らいねん3月大学卒業予定者の就職内定率は、10月1日時点で前年同期比4.9ポイント減の57.6%となり、調査を始めた1996年以降で最低となった。

理系の内定率は58.3%(前年同期比10.2ポイント低下)、文系は57.4%(同3.8ポイント低下)。男子が59.5%(同3.8ポイント低下)、女子は55.3%(同6.3ポイント低下)だった。学校種別では、国公立が63.2%(同8.1ポイント低下)、私立が55.8%(同3.8ポイント低下)だった。

過去の実績を見ると、4月時点での就職率は、前年10月時点の内定率より30ポイントほど高くなる(今年3月の新卒者は、91.8%と62.5%)。この傾向が続くとすれば、来年3月の新卒者の就職率は9割程度になるだろうが、9割を下回る可能性もある。いずれにしても、大学新卒者の失業率が10%程度という高水準になる可能性は高い。

これはきわめて深刻な事態である。そして、次の諸点を考慮すると、決して放置することのできない大問題であることがあらためて認識される。

第一に、これは、短期的・循環的な現象ではない。経済危機後、日本企業の利益は回復してきた。2010年度上半期(4~9月期)における企業の純利益は、全産業でリーマンショック直前の95%にまで回復した。電機大手8社は4割増である。この数字だけを見れば、新卒者の就職事情が好転してもおかしくない。ところが、実際にはそれと逆の現象が起きているのだ。

それは、円高を背景にして、製造業の海外への脱出が急造しているためだ。日本企業は、今後企業の中心となるべき人材を日本人に限定しなくなったのである。パナソニックが新規採用の8割を外国人としたことが、それを象徴的に表している。設備投資においては、海外投資の伸びが国内投資の伸びを遙かに上回っている。雇用について同じことが起こっても、決して不思議ではない。新卒者内定率が過去最低の水準に落ち込んだ背景には、日本経済のこのような構造変化がある。したがって、新卒者の就職難は、今年だけの問題ではなく、今後長期にわたって継続するだろう。

これに対して、就職活動の行き過ぎた早期化の見直しや、卒業後3年間を新卒扱いすべきなどの議論が行なわれている。政府も「新成長戦略実現に向けた三段構えの経済対策」の中で、卒業後3年間を新卒扱いとする企業に奨励金を支給することを決めた。しかし、新卒者の就職難は日本経済の構造変化を反映した問題だから、対症療法で解決できるものではない。これを変えるには、経済の構造を変える必要がある。

第二は、雇用政策との関係だ。政府は新成長戦略の中で、介護分野での雇用を増加させるとしている。確かに、経済全体としての雇用を増やすために介護分野の果たす役割は大きい。しかし、日本の労働市場は、いくつかの市場に分断されており、大学新卒者の就職市場と介護分野の労働市場は、別の市場だ。したがって、仮に介護分野の労働需要が増えたとしても、大学新卒者の就職状況が改善することはないだろう。

新しい産業を立ち上げる必要がある

第三に、大学新卒時での就職の失敗は、その人の一生を左右する重大事になる。これまで続いてきた日本の雇用慣行では、中途採用があまり一般的でないため、「再挑戦」の機会が十分に存在しないからである。したがって、内定率がこのように低いと、若者の希望が失われ、日本を覆う閉塞感は著しく高まる。そして、深刻な悪循環が発生する危険がある。

この問題の解決には、新しい産業が成長し、そこで労働需要が増えることが必要だ。製造業の雇用が増えることは期待できないので、新しい産業は、高度なサービス産業が中心にならざるをえない。

アメリカの場合、実際にこのような変化が起きた。すなわち、95年から09年のあいだに、製造業の雇用者数が543万人減少する半面で、金融、ビジネスサービス、教育・健康部門の雇用者が1057万人増加した。90年代以降の世界経済の大きな変化に対応して、産業構造が大きく変わったのである。

日本でも、こうした変化が90年代から進展してしかるべきだった。それが実現しなかったのは、02年以降の円安・外需依存景気回復によって構造問題が隠蔽されたからだ。経済危機の勃発で問題が顕在化したが、雇用調整助成金やエコカー購入補助、エコポイントなどによって、再び覆い隠された。低い内定率は今突然生じた問題ではなく、20年前から潜在的には継続していた問題なのだ。「平成21年度経済財政白書」が、日本企業が抱える過剰労働力は全労働力人口の1割近い528万~607万人であると推計していることを思い起こすべきである。日本経済が現在の産業構造を続ける限り、完全雇用の実現は不可能なのだ。

また、理系学生の内定率が大きく低下したことは、日本の大学工学部の教育体制が、社会で必要とされるものと乖離していることを示している。新しいサービス産業となれば、そのために必要な人材を育成する専門教育は、さらに遅れている。つまり、日本の高等教育体制は、社会が本当に求める人材を育てているわけではないのである。人材の潜在的需要と実際の供給のあいだには深刻なギャップがあるのだ。

本当は視野を世界に広げるべきだ

女子学生の内定率が低いことも憂慮される。なぜなら、日本企業は貴重な人材を失うこととなるからだ。意欲的で優秀な女子学生が増えたと聞くことは多いが、その逆は聞かない。就職試験の面接でも、男子学生の応答はマニュアルどおりのものが多いという。転勤についても、男性のほうが消極的だそうだ。国内の転勤についてもそうだし、海外勤務でも女性のほうが積極的であるという。

ところで、本来は、学生が就職する企業は、日本企業に限ったわけではない。海外に活動の場を求めてもよいはずだ。

日本企業が外国人を雇い、日本人が外国企業で働くのが、グローバル時代の就業の姿である。日本企業が外国人を雇用する傾向は始まりつつあるが、日本の学生が外国企業に就職するようにはなっていない。日本の学生は、グローバル化から遥かに遅れている。

もっとも、「日本企業が雇ってくれないなら目を世界に」と言っても、日本の現実から離れた空論に聞こえるかもしれない。

それには2つの原因がある。1つは、外国企業で働く能力を持たない日本人が増えていることだ。これは、外国語力の低下が大きな原因だ。海外の有力校における日本人留学生数の減少は顕著だ。大学に受け入れられない状況で企業に受け入れを望むのは、無理かもしれない。

いま1つは、日本の若者が海外で働こうと望まなくなったことだ。20年ほど前に、地方から来た学生が東京の企業に就職せず地元に帰りたがることに気がついた。一人っ子であるために、親元を離れたくないのだ。ましてや海外勤務で日本を離れることなどは、思慮の外に置かれていた。これまでの主たる赴任先だった先進国とは違って、新興国での生活は大変だから、そのときと比べて、海外の勤務希望はさらに減っているだろう。問題の深因はここにもあると思われる。

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