QE2がもたらすのは新興国バブルだけ

アメリカ連邦準備制度理事会(FRB)が、11月初めの連邦公開市場委員会(FOMC)で第2段の量的緩和(QE2)に踏み切った。これは、2011年6月までに6000億ドル(約49兆円)のアメリカ国債を買い上げる措置だ。

FRBは、08年のリーマンショック直後、金融市場の流動性危機に対応して大量の資金供給を行なった(QE1)。その結果、FRBの資産は08年9月の0.9兆ドルから11月の2.2兆ドルに急拡大した。09年1月からは、モーゲッジローン債権を買い上げた。

FRBがQE1にとどまらずQE2に踏み切ったのは、アメリカの失業率が目立って低下しないからだ(10年10月で9.6%)。他方で、消費者物価上昇率が低下しているので、インフレを起こす可能性は低いと判断された(コア指数は08年9月の2.5%から10年10月の0.6%に)。

この金融緩和によって生じたのは、アメリカから新興国に向けての資金移動である。

それによって新興国でバブルが引き起こされ、各国の株価が上昇している。世界の株式市場の時価総額は、10月25日でリーマンショック直前より6兆ドル増となった(『日本経済新聞』10月27日付朝刊)。特に新興国での時価総額増大が顕著で、インドネシア、フィリピンでは昨年末から5割増となった。中国では、不動産価格のバブルが起きている。

また、金価格も上昇し(11月8日に1オンス1400ドルを突破)、原油先物は1バレル87ドルと、08年10月以来の高値になった。非鉄金属、農産物も値上がりしている。

9月初めに9000円を割っていた日経平均株価が11月中旬に9800円台まで上昇したのも、この過程の一環と考えられる。前回見た日本企業の利益動向と比較すると、現在の日本の株価はバブルである可能性が高い(アメリカ企業の利益は伸びているので、アメリカの株価はバブルとは言えない)。

他方で、アメリカ国内では金利が低下しても、投資は増えない。なぜなら、資金が流出するので、アメリカ国内の銀行貸し出しや住宅購入が増えないからだ。つまり、失業率引き下げという目的を達成できるかどうかは、大いに疑問だ。

ただし、ドルが売られるのでドル安が生じている。これは、アメリカの輸入を減少させ、経常収支の赤字を減少させる。このルートを通じて、アメリカの経済活動が押し上げられる可能性はある。

低金利国の金融緩和はキャリー取引をもたらす

この過程で重要なのは、「一国の金融緩和が当該国内での投資増加をもたらさず、海外への資本移動をもたらす」ということだ。

資本移動は、利回り差を求める投機的なものであり、「キャリー取引」と呼ばれる。国際間の資本移動が自由である現代の世界では、金融緩和をしても国内の経済活動が活性化することにはならず、利回り差が拡大するため、利回りの高い国や商品を求めて資金が流出してしまうのである。

金融危機前には、日本の金融緩和が日本国内の投資を増やさず、日本円からドルなどへのキャリー取引(円キャリー)を引き起こした。アメリカに流入した資金は、アメリカ国内で住宅価格のバブルを加速した(住宅価格上昇は、もともとはアメリカの金融緩和によって生じたものだが、円キャリーが生じたために、FRBが04年から引き締めに転じてもバブルを抑制できなかった)。

今生じているのは、ドルからのキャリー取引(ドルキャリー)である。それが新興国や金、原油等に流入している。危機前と比べて、資金の流出国と流入国は違うが、金融緩和がキャリー取引をもたらしたという意味で、危機前に起こったことと本質的には同じだ。

危機前と違うのは、中国が財政支出を増加し、また人民元の増価を防ぐために介入を行なっていることだ(中国の外貨準備は、9月に前月比1000億ドルも増加した)。

財政支出増は元高要因だ。また、介入を行なっているのは、自然には元安が進まないことを意味する。そして、介入は元を増価させないための措置であって、積極的に元安にするものではない。したがって、元安にはならないだろう。このため、金利平価式が働けばドル高になって損失を被るはずのドルキャリーの投機性が薄れている(むしろ、将来の元切り上げによって多額の利益が得られる可能性がある)。

危機前の円キャリーでは、日本政府が介入したのでただちには円高にならないと考えられていたが、結局は経済危機によって円高(ドル安)が生じ、投機取引は巨額の損失を被った。それに比べると、現在のドルキャリーは比較的安全だ。だから、大規模に起こる可能性がある。

中国は、バブルをコントロールするために金融を引き締めようとしている。また、投機的な住宅購入の規制などを行なっている。しかし、引き締めて金利が上がれば投機マネーの流入が増える。アメリカが05年頃に陥ったのと同じジレンマに直面しているわけだ。したがって、中国のバブルのソフトランディングは難しい。

バブルはいつかは崩壊し世界経済を混乱させる

アメリカの立場からすれば、中国の介入で為替レートが歪んでいることが問題だ(アメリカが輸出を増やしたいためにそうした主張をするという人が日本では多いが、アメリカはネットの輸入国なので、ドル安は望ましくない。元安で中国の経常収支黒字が拡大することが問題だ)。

中国の立場からすれば、アメリカの金融緩和が投機資金の流入をもたらすから問題だ。日本では、ドル安(円高)が輸出産業の利益を減少させるとされる。

どの国から見ても、他国のマクロ経済政策が自国に問題を持ち込んでくると意識される。そして、自国の経済問題の責任を他国に押し付けようとしている。

これは世界的なマクロ不均衡である。02年以降のバブルは、世界的なマクロ不均衡(アメリカの過剰消費とアジアの過剰貯蓄)を背景として起こった。これが崩壊して金融危機が起こったが、それへの対処として欧米諸国が金融を緩和したことが、新しいバブルを引き起こした。結局、不均衡が是正されることにはならなかったわけだ。

経済危機前には欧米の金利が高く日本の金利が低かったので、キャリー取引は日本から欧米に向かうものであった。危機後、欧米の金利が低下したため、こうしたキャリー取引はもう起きない。

現在のキャリー取引は、先進国から新興国へのものである。新興国では投資需要があるから、高金利国になる。だから、先進国が金融緩和をすれば、金利差がさらに拡大し、そこに資金が流入することは不可避だ。つまり、先進国でいくら金融緩和をしても、資本移動を引き起こすだけなので、自国経済を活性化できず、新興国のバブルを増殖するだけの結果に終わる。

そして、バブルはいつかは崩壊する。アメリカの住宅価格バブルはほぼ5年続いて崩壊した。中国のバブルも、いずれ崩壊するだろう。上で述べたようにソフトランディングは難しいので、金融危機と同じようなハードランディングになる危険が大きい。それが何をもたらすかは正確には予測できないが、世界経済が再び大混乱に陥る可能性は否定できない。

[ad]

Comments

comments

Powered by Facebook Comments