危機前に回復した世界 置き去りにされた日本

アメリカ中間選挙で民主党が大敗した原因は、経済であったとされる。

確かに、アメリカの失業率は高止まりしている。この点でアメリカ経済が大きな問題を抱えているのは、間違いない事実だ。

しかし、その半面でアメリカ企業の利益は、記録的な水準を更新しつつある。ダウ平均株価がリーマンショック前の水準を取り戻したことに、それが明確に表れている。

アメリカの失業率が高いのを見て、「日本経済もダメだが、アメリカ経済もダメになった」と考えている人が日本には多い。多くの新聞や雑誌の記事も、そのトーンで書かれている。しかし、日米の企業パフォーマンスには、大きな差があることに注意が必要だ。

このことは、株価を見れば明白である。11月第2週の日経平均株価は9700円程度だが、これはリーマンショック直前の値(2008年9月初めには1万3000円程度。9月12日で1万2000円)の4分の3程度でしかない。つまり、アメリカの株価はリーマンショック前の水準を取り戻したのに対して、日本の株価はまだかなり低い水準をさまよっているのである。

アメリカ企業は、人員整理をすることで経済危機による利益の急減から回復した。そのために失業率が高くなっているのだ。しかし、その半面で、企業利益は顕著に回復した。いわゆる「ジョブレスリカバリー」が進んでいるのである。

これが経済全体の観点から問題であることは間違いない。しかし、企業利益が高水準であることは、将来に向けて成長するエンジンが健在であることを示しているのだ。

それに対して、日本の場合には、経済成長の牽引役になるべき企業が利益を回復できないままでいる。これが、日米経済の基本的な違いである。

アメリカの企業利益はリーマン前よりかなり高い

10年度上半期(4~9月期)における日本の電機大手8社の純利益が、08年度同期の1.4倍になったと報じられた(「日本経済新聞」11月10日付)。

しかし、この数字だけを見て、日本企業が順調に回復していると考えることはできない。まず、全産業では、10年度上半期でもリーマンショック前の95%にしかなっていない。電機産業が好調なのは、エコポイントの影響があったからだ。つまり、「1.4倍」という数字は、かなりの程度政府支援の賜物なのである。なお、自動車大手7社は、エコカー購入支援があったにもかかわらず、98%の水準にとどまっている。

また、アメリカの国内企業の利益(在庫品評価と資本消費調整後)の回復は、日本企業より早く、回復率も高い。リーマンショック前の08年4~6月期と10年4~6月期を比べると、9411億ドルから1兆3934億ドルへと48.1%の増加を示している。

金融業は、同期間に2425億ドルから3594億ドルへと、48.2%増加した。つまり、アメリカの金融機関は、全体の利益水準で見れば、金融危機をすでに克服したわけだ。

また、製造業も1616億ドルから2771億ドルへと、71.5%増加した。このうちで「コンピュータ」は、51億ドルから512億ドルへとじつに10倍の増加を示している。

アップルやシスコシステムズなど、他国の企業が追随できない先進的な製品を送り出せる企業が存在することの反映だ。アメリカ経済は未来に向けて成長する産業を持っていることが、はっきりわかる。

これに対して日本の企業の同期間の経常利益を見ると、全産業(金融保険を除く)で15.4兆円から13.2兆円へ、製造業は6.5兆円から4.6兆円へと減少している。

個別の企業を見ても、以上と同様の傾向が見られる。税引き前当期純利益について、直近の四半期決算の値を4倍したものと、リーマンショック前の年次決算(日本企業は08年3月期、グーグルは07年12月終了期、アップルは08年9月終了期)の値との比を取ってみると、次のとおりだ。

アメリカの先端企業であるグーグルは1.9倍、アップルは3.2倍だ。つまり、リーマンショック前に比べてかなり利益が増大している。ところが、ソニーは0.62倍、トヨタ自動車は0.67倍だ。つまり、リーマンショック前の6割程度にしかなっていない。

しかも、これまでの利益回復は政府の購入支援策によるところが大きいため、10年度下半期においては、利益が減少するものと予想されている。

先進国で日本だけが置き去りにされている

ところで、経済危機から回復したのはアメリカだけではない。イギリスもドイツも、株価で見る限り、リーマンショック前の水準を取り戻した。それより3割低い水準からはい上がれない日本が、むしろ世界の先進国の中で例外的な存在なのだ。

なぜこのようなことになってしまうのだろうか? われわれ日本人は、このことを真剣に考えなければならない。

これらの諸国と日本とで明らかに違うのは、為替レートだ。日本の産業が回復できない大きな原因が為替レートにあることは間違いない。では、よく言われるように、通貨安競争の中で日本が犠牲になり、実力があるにもかかわらず利益が回復できないのだろうか?

そうではない。経済危機前(07年の夏頃まで)に日本円だけが異常に安かったのである。日本企業はその恩恵を受けて、一時的に利益を増やしたのだ。その異常な為替レートが、経済危機後、やっと正常なレベルに回帰しつつあるだけのことである(各国間の物価上昇率の差を調整した実質レートで見れば、1990年代中頃に比べて、まだ3割程度円安である)。

09年以降、中国への輸出が回復し、他方では政府による援助があった。そのために、危機後においても再び、問題が一時見えなくなっていた。支援策が終わった今、やっと問題の本質がはっきり見えるようになったのだ。

つまり、現在日本経済が抱えている問題は、本来であればずっと前に顕在化していたはずのものなのである。それを90年代後半以降の為替介入(とりわけ、03年頃の大規模な介入)による円安で隠蔽し、経済危機の勃発後は政府の補助で隠蔽してきた。

10年以上の期間にわたって先送りを続けてきた問題が、もはや隠蔽しえなくなったということだ。

企業は、日本国内での生産では対応できないことにようやく気づいた。そして、今、雪崩を打って日本から脱出しようとしている。

この結果、もたらされるものは、明白である。製造業が日本から出て行けば、日本国内に残されるのは、大量の失業と過剰な生産設備だ。11年において、日本経済はイヤでもその問題に直面せざるをえなくなる。「金融危機はアメリカが起こしたものだから、これによってダメになったのはアメリカ経済である。それに対して日本は、地道なものづくりに励んでいるので、影響は受けなかった」と考えた人が多かった。金融起居直後には、そうした意見が大勢を占めた。

そして、今に至るまで、そうした考えに固執している人が多い。しかし、日米経済の実態は、ここで数字で示したようなものなのである。われわれは、日本経済がおかれたきわめて厳しい状況を今こそ直視しなければならない。

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