日本のものづくりを冷静に考え直そう

日本の製造業をめぐる条件が、このところ急速に変化している。

まず9月の鉱工業生産指数は、前月比1.9%の低下となり、6月から4カ月連続の低下となった。この背景には、エコカー補助金の終了と、対中国輸出の伸び悩みがある。2009年春からの景気回復は、この2つの要因に支えられた一時的なものにすぎないことが明らかになったわけだ。

もう1つは、円高を背景として、生産拠点の海外移転が加速していることだ。日本政策投資銀行が8月3日に発表した10年度の全産業の設備投資計画調査(対象は資本金10億円以上の大企業)によると、全体の投資額が前年比6.8%増であるのに対して、海外設備投資は35.1%増となった。製造業では、国内5.9%増に対して海外が43.9%増となっている。自動車の海外投資は44.0%増、電気機械は55.5%増だ。つまり、日本の製造業の大企業は、もはや国内で生産設備を拡張することはせず、今後の生産は海外拠点で行なうという方針に転換したようだ。

こうした状況に対して、「政府が円高に対応していないから」「日本の法人税が高過ぎるから」などの批判がなされている。

円高が進んでいるのは事実だが、為替レートはコントロールできないし、実質レートで見ればまだ円安だ。だから、このレートで成立しうる活動が何かを考える必要があるのだ(「生産を海外で行なう」ということは、その1つの答えだ)。また、法人税率が日本で格別高いわけでもない。

最近の状況の底流にあるのは、製造業の性格が長期的なトレンドとして変質しつつあることだ。それが、最近の状況変化で加速され、はっきり見えるようになっただけのことだ。

だから、必要なのは、日本の企業がビジネスモデルの変更を行なうことである。それをせずに、「事態が悪くなったのは政府の責任だ」とするのは、言い訳であり、責任転嫁でしかない。

それに、こうした変化は、今急に始まったことではない。20年近く前から徐々に生じていたことだ。以下に述べるように、製造業の分業化が進み、新しいタイプのものづくりが主流になりつつあるのだ。そうした変化に対応できなかったからこそ、これまでの20年間が「失われた20年」になってしまったのである。

日本の半導体産業はなぜ敗退したのか?

「変化への不適応」ということの意味を見るために、半導体産業について具体的に考えてみよう。1980年代末、日本の半導体産業は世界を制覇していた。NEC、東芝、日立製作所のトップ3社で世界の3割を生産しており、アメリカの半導体メーカーは、見る影もなかった。

しかし、それから20年がたち、世界の半導体産業の勢力地図は一変した。トップは米インテルで、第2位が韓国のサムスン電子だ。この2社で世界の20%以上のシェアを占めている。

かつて世界の称賛を浴びた日本の半導体産業は、なぜ敗退してしまったのだろうか?

その理由は、世界経済と技術の条件が90年代頃から大きく変わったからである。具体的には、半導体が先端的製品と低価格製品に分化したことだ。そして、日本はどちらにも対応できなかったのである。

日本が覇権を取っていた頃の半導体の主力製品は、大型コンピュータ向けの信頼性の高いDRAM(記憶素子)だった。ところが、90年代になって、PC(パソコン)用のDRAMの需要が増加した。これは、低価格が求められる製品だ。

たまたまこの頃に新興国が台頭し、安い賃金で安い製品を供給できるようになった。それにもかかわらず、日本は信頼性の高いDRAMの生産から転換できなかった。そのために、日本は韓国のサムスンに敗れたのである。

一方、PCの演算素子MPUが新しい半導体製品として登場した。インテルは、この製品に特化した。そして、日本はこの面でも対応できなかった。それは、MPUはDRAMと違って、製造過程だけでなく演算素子に書き込まれているソフトが重要な意味を持つ製品だったからである。

日本は製造過程の効率化には強いのだが、先端的なソフトには弱い。日本の半導体メーカーがインテルに追いつけなかったのは、このためだ。

つまり、半導体をめぐる条件が大きく変化したにもかかわらず、日本の半導体メーカーは、それまでと同じ製品を作り続けた。そのために、低価格製品では韓国に敗れ、先端的製品ではアメリカに敗れることになったのだ。

日本の比較優位を認識する必要がある

製造業においてソフトの比重が高まっているのは、半導体だけのことではない。

たとえば、ルーターはインターネットにおける交換機のような機械だが、ソフトの比重が高い。そして、ここでは米シスコシステムズが圧倒的な力を発揮している。

あるいは、携帯用の音楽機器だ。ウォークマンもiPodもこのカテゴリーに入るが、大きな違いは、後者はiTunesというネットワークに支えられていることだ。ソフトに弱い日本は、これらの面でも後れを取っている。

製造業に生じているいま1つの変化は、水平分業化だ。PCの生産は、10年以上前から水平分業化しており、その一端を担う米マイクロソフトやインテルが高収益を挙げている。

水平分業はエレクトロニクスの他の分野にも広がっており、それを実現した米アップルが高収益を実現する半面で、そうした展開ができない日本企業の収益性が落ちている。

自動車の生産は、現在は垂直統合で行なわれている。それは、ガソリン車やハイブリッド車は機械的に複雑な製品であり、部品の互換性も実現されていないので、水平分業が困難だからだ。しかし、機械的に見れば複雑ではない電気自動車の生産は、水平分業で行なわれる可能性が高い。そうなると、垂直統合型の生産で強みを発揮してきた日本の自動車産業には大きな影響が及ぶ。

このように、製造業の分業化が進展し、水平分業の中でソフトウェアの比重が高い企業が高収益を挙げているのである。先日発表された10年7~9月期の決算における純利益は、マイクロソフトが前年同期比で51%増、アップルが同70%増となった。

日本の電機産業も対前年比では高い伸びを示しているが、水準は低いし、エコポイントの恩恵が大きい。このように、日米のエレクトロニクスやIT関連企業の収益率には、大きな差が生じている。

ところが、以上で述べたことは、日本では適切に認識されていない。「日本が得意なのはものづくり」と言われることが多いが、そこで考えられているのは、古いタイプのものだ。ここから脱却できないことが、失われた20年の基本原因なのである。

これから脱却するには、日本の比較優位がどこにあるかを認識することが必要だ。90年代に半導体の需要が変化したときにも、低価格製品は新興国に任せるべきで、日本は高不可知のものを目指すべきだった。

そうした明確なビジネスモデルの転換がなかったから、日本の半導体産業は敗退したのである。今日本の比較優位を冷静に分析し、それを実現するように製造業の構造を再編成する必要がある。

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