法人税率引き下げは経済を活性化しない

法人税の負担をいかなる指標で見るべきかという問題について、前回述べた。通常用いられる「実効税率」は課税所得に対する表面的な税率だが、課税所得の定義は国によって違うので、これは国際比較のために適切な指標ではない。

課税所得と企業会計上の利益は同一でない。交際費損金不算入措置のように、企業会計上の所得より課税所得を増やす要因もあるが、多くは課税所得を減らす要因として働く。

たとえば、法人税では、損失を7年間繰り延べることができる。主要な金融機関が現在法人税を払っていないのは、このためだ。今回の経済危機で製造業に大きな損失が発生したが、これは将来に繰り延べられるため、製造業の大企業では今後法人税を負担しない企業が増えるだろう。また、各種引当金、準備金も利益を減らすように働く。

実際のデータを見ると、国税統計における「黒字法人の利益+赤字法人の欠損」は、法人企業統計調査における「税引き前当期純利益」(金融保険を除く)に対して、2004、05年度にはほぼ50%、06年、07年度にはほぼ85%だった。08年度では31.2%だ。好況期には比率が高まる傾向が見られるものの、100%よりは低い。つまり、課税所得は企業会計上の所得に比べて圧縮されている。不況期には特に圧縮度が高まるようだ。

これは黒字法人と赤字法人のネットの利益だが、負担率の分母になるのは黒字法人の利益だ。今、利益の縮小は黒字企業、赤字企業の双方に働くとし、前回述べた方法を用いて計算すると、利益の縮小率(課税所得÷企業会計上の利益)は、06年、07年度には93%程度だが、他の年度では80~83%程度になる。したがって、06、07年度では実効税率と負担率はあまり変わらないが、他の年度の税引き前当期純利益に対する負担率は、実効税率の8割程度になる。

これに加え、租税特別措置がある。特に重要なのは、試験研究費の税額控除制度だ。これは、その期に支出した試験研究費の8~12%を法人税額から控除できる(法人税額の40%が限度)制度だ(適用年度の試験研究費の額が前期、前々期の試験研究費を超える場合、増加額の15%を税額控除してもよい。なお、法人税額の12%が限度)。この制度によりトヨタ自動車の納税額は、07年3月期に約762億円、08年3月期に約822億円減少したと言われる。

このほかに、外国税額控除制度がある。総合走者では、これがかなり負担額を減少させている。ただし、日本は全世界の所得に対して課税を行なっているので、これは政策的な特別措置ではなく、二重課税排除のために本来的に必要とされる措置だ。

法人税は企業行動や投資行動に影響するか?

法人税の経済効果については、誤解が多い。最も一般的な誤解は、法人税負担が「企業のコストを高めている」というものだ。しかし、法人税は利益にかかるのだから、企業にとってのコストにはならない。合理的な企業が利益を最大化するように行動しているとすれば、法人税の税率が変わったところで、企業の行動様式には影響が及ばないはずだ。もし企業が行動を変更するとしたら、その企業が合理的でない証拠である。

法人税の影響があるとすれば、企業が行なう投資や企業に対する投資の税引き後収益率が変化するため、他の形骸活動との関係で相対的な有利性が変化することに伴うものだ(たとえば、株式会社形態で事業をしたり株式に投資したりするのでなく、個人事業とするほうが有利になるかもしれない)。しかし、これについては、慎重な検討が必要である。

まず、企業が行なう設備投資に対する法人税の影響を考える際には、支払利子を損金算入できることに注意が必要だ。これを考慮すると、「税引き後の投資収益率は法人税率に無関係」との結論が得られる。

なお、現在の日本で設備投資が低迷しているのは、法人税の影響ではなく、投資の収益率が低下しているからである。

株式投資に対する収益率についてはどうか。これを考える際には、個人に対する配当課税をも合わせて考える必要がある。配当に対する課税率は、日本では20%だが、イギリス32.5%、フランス30.1%などとなっている。したがって、仮に日本の法人税率が高いとしても、配当課税率が低いことでオフセットされていることになる。

なお、法人税では、受取配当の益金不算入措置が取られている。この措置は、法人税と所得税の二重課税を防ぐための本来的な措置なので、本来は個人株主に限って適用すべきものだ。日本の場合には法人間の株の持ち合いが多いので、法人の税負担を軽減していると考えられる。

ただし、以上のような税の影響を考える以前の問題として、企業利益そのものが重要だ。現在の日本では、全法人の約74%が欠損法人となっている。

また、日本企業の利益率は低い。これは法人税とは関係ない現象だ。

日本で法人税率が最も高かったのは1984年で43.3%だった(地方税を入れると、50%を超えていた)。法人税率は、それ以後下がり続けている。89年に40%となり、99年に30%となった。では、こうした引き下げが日本経済を活性化しただろうか?

現実には、まったく逆に、日本経済は衰退していったのだ。製造業の総資本経常利益率(ROA)は、84年には4.9%であったが、08年では2.4%だ。これを見ても、法人税率と系再活性化とはあまり関係がないことが推察できる。

高い法人税は企業海外流出の原因か

日本の法人税率が高いため、企業が海外流出するとも言われる。確かに、生産拠点の海外流出が今後加速することは疑いない。

しかし、制度的に考えて、この過程に法人税は無関係だ。なぜなら、日本は全世界所得課税・外国税額控除方式(源泉地が国内か国外かを問わず合算した所得に課税し、外国での増税分を控除する)を取っているため、生産拠点を法人税率が低い海外に移したところで、最終的な法人税負担を軽減できるわけではないからである。

海外移転が進むのは、日本の賃金が新興国に比べて高いからだ。問題があるとすれば、社会保険料の雇用主負担だ。これは利益のあるなしにかかわらず企業の負担となるので、重要なコスト要因となる。そして、すでに雇用主負担は法人税負担とほぼ同じ規模になっている。

ただし、日本の企業の負担率は、アメリカよりは高いが、ドイツ、フランスよりは低い。また、雇用主負担が経済的に見て本当に企業の負担なのかどうかは、議論の余地がある(それだけ賃金を引き下げている可能性がある)。

もっとも、法人税が外国からの直接投資の流入を抑制している可能性はある。実際、ヨーロッパの法人税率引き下げ競争は、対内直接投資増加を期待して行なわれた。ただし、これもまた、表面利益では判断できない。また、これに関してなによりも大きな問題となるのは、日本国内での利益率の低さだ。

要するに、法人税率を引き下げたところで、何の経済効果もないだろう。少なくとも、これが日本経済の起死回生策になるなどは、ありえないことだ。

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