法人の実質税負担率は3割程度しかない

日本経済活性化のために、法人税率の引き下げが必要と言われる。

この論拠とされるのは、「日本の法人課税の実効税率が諸外国に比べて高い」ということだ。財務省の資料によれば、法人所得課税の実効税率は、2010年において、国税27.89%、地方税12.80%で計40.69%だ。ところが、諸外国では、アメリカ40.75%、フランス33.33%、ドイツ29.41%、イギリス28%、中国25%、韓国24.2%などとなっている。これを見る限り、確かに日本の負担率は、アメリカを除く各国より高い。

この数字は頻繁に援用されるので、「日本の法人は思い税負担に喘いでおり、日本経済不調の大きな原因になっている」というのが、いまや常識になっている。成長戦略が論じられるとき、財界から決まり文句のように提起されるのが「法人税率の引き下げ」だ。

しかし、この議論は、疑ってかかる必要がある。なぜなら、実効税率を算出する際の分母は課税所得であるが、これは企業会計における利益とは異なるからだ。そもそも、税務上の利益概念は会計上の利益概念とは異なる。それに加え、租税特別措置などのために、課税所得は会計上の利益よりかなり少なくなっている可能性がある。

税務上の利益の定義や特別措置は国によって違うので、右のような単純な比較は出来で胃のである。国際比較をするのであれば、国際的に標準的と認められる利益を分母にして負担率を見る必要がある。

税引き前純利益に対する負担率を求める

ここでは、国税庁の「会社標本調査」(「税務統計から見た法人企業の実態」)と財務省の「法人企業統計調査」とを突き合わせることによって、税引き前当期純利益に対する負担率を推計してみよう。この2つの統計の対象は必ずしも完全に一致しているわけではない(なお、いずれも一部は標本調査だが、推計で母数の値に拡大している)。しかし、会社標本調査の「営業収入」1420兆円と法人企業統計調査の「売上高」1508兆円はほぼ見合っている。そこで、第一近似として、両者の対象を同一視してもよいだろう。

会社標本調査によれば、08年度において、利益計上法人の申告所得35.2兆円に対して、法人税は10.4兆円だ。したがって、率は29.5%であり、上記の財務省資料とほぼ照合する。

では、法人企業統計調査における利益に対する率で見れば、どうなるか。公表統計では黒字企業と赤字企業が分離して示されていないので、ネットの税引き前当期純利益が22.1兆円であることしかわからない。そこで、ネットの数字の元となっている黒字と赤字を推計する必要がある。

黒字企業の税引き前当期純利益をy、赤字企業の赤字額をzとする。まず最初に、黒字企業に限って利益をxだけ縮小するものと仮定しよう(赤字企業は課税がないので、赤字を拡大する必要はないと考えるわけだ)。

その場合には、y-x=35.2、y-z=22.1となる。zは、会社標本調査により、28.3だ。これを解けば、x=15.2、y=50.4だ。つまり、黒字企業の税引き前当期純利益は約50兆円なのだが、これが会社標本調査では15兆円ほど縮小しているのだ。

したがって、税引き前当期純利益に対する法人税の負担率は、10.4÷50.4=20.6%となり、財務省資料にある課税所得に対す比率に比べて10%ポイント近く低くなる。地方税も含めた実効負担率は、40.69×20.6÷29.5=28.4%だ。

諸外国の実効負担率が税引き前当期純利益に対するものであれば、日本の負担率は、中国、韓国よりは若干高いが、ヨーロッパ諸国よりは低いことになる。

以上では、黒字企業の場合だけ会計上の利益と税務上の利益が乖離すると仮定した。しかし、赤字は7年間繰り越すことができるので、将来の法人税負担を軽減するため、赤字企業の赤字額も税務上は拡大している可能性もある。そこで、第2のケースとして、それを仮定して計算してみよう。

黒字企業も赤字企業も、税務上は赤字がxだけ拡大するものとしよう。すると、y-z=35.2、z+x=28.3、y-z=22.1となる。これを解けば、x=7.6、y=42.8だ。したがって法人税の負担率は、10.4÷42.8=24.3%になる。地方税も含めた実行負担率は、40.69×24.3÷29.5=33.5%だ。これでもヨーロッパ諸国並みで、格別高いとはいえない。

なお、税務上の赤字企業は構造的に赤字で、将来黒字に転換する可能性がない場合が多い。したがって、赤字企業が赤字を拡大して申告するケースは少なく、33.5%というのは過大推計かもしれない。

ただし、会計上と税務上の利益の差は、個別企業を調べないとわからないことも多い。

以上をまとめれば、次のようになる。地方税も含めた法人課税の実効税率は、税引き前当期純利益に対する率で見れば、28.4~33.5%程度だ。大ざっぱには「3割程度」と言ってよいだろう。これは、先進国の標準的な値であり、格別高いわけではない。

財務省資料にある40.69%という値は課税所得に対する比率なので、国際比較をする場合には適切な値ではない。したがって、「日本の法人負担率が外国より高い」という主張は誤りだと結論できる。

以上で述べたことは、各企業の決算書によって直接に確かめることもできる。いくつかの企業において、07年4月~08年3月期における税引き前当期純利益に対する法人税、住民税、事業税の比率を計算してみると、次のとおりであり、ほぼ上で行なった推計値の範囲に入っている。

トヨタ自動車29.5%、日産自動車34.2%、ホンダ33.0%、ソニー36.1%。

日本の法人税負担は世界水準よりかなり低い

以上で検討した黒字法人の利益に対する負担比率とは別に、法人が全体としてどれだけの税負担をしているかも見る必要がある。

財務省の資料によれば、10年における法人所得課税の対GDP比は、日本では1.5%であり、アメリカ2.7%、イギリス3.4%、中国2.0%、韓国3.7%などと比べてかなり低い。赤字法人が多いため、全体としての法人所得課税は低水準なのだ。税務上の利益概念は国によって差があるので、国際比較をするのであれば、この指標を見るほうが適切である。

それで見れば、日本の法人所得課税は世界的に見て高水準であるどころか、むしろ低水準である。

ここで示したことは、税制改革に対して重要な意味を持っている。日本の法人所得に対する実質的な課税率は諸外国に比べて高いわけではないのだから、法人税率を引き下げるなら、その前提として特別措置を撤廃することが不可欠である。これを行なわずに税率引き下げだけを行なえば、現在特別措置の恩恵を受けている業界に過大な利益を与えることになる。

また、特別措置は資源配分を歪めて経済成長に対する阻害要因になるし、課税上の公平も損なっている。仮に法人税率の引き下げを行なうのであれば、最低限、特別措置撤廃で得られる税収を財源として税収中立的な改革とすべきだ。

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