成長戦略のポイントは高度サービス産業

成長戦略が論じられている。確かに、経済成長こそが、今の日本にとって最も求められるものだ。

雇用問題も財政赤字の問題も、日本経済が成長できないことから生じている。日本を覆う閉塞感は、1990年代後半以降、日本経済の持続的成長能力が失われてしまったことによる。

以前から予測されていたとおり、中国のGDP(国内総生産)が日本を追い越した。新興国が農業経済から工業経済に移行する際に高い成長率を示すのは当然だから、これ自体は格別驚くべきことではないし、悲観すべきニュースでもない。しかし、日本が成長できないことは、深刻な問題としてあらためて確認すべきだ。

成長戦略を考える際に最も重要なのは、日本が停滞状態に落ち込んだ原因を正しく把握することだ。そうした理解なしに闇雲に「成長が必要」と唱えても無意味である。

まず注目すべきは、この15年間の経済パフォーマンスにおいて、日本とアメリカのあいだに大きな差があったことだ。その事実を認識し、そうなった原因を究明することが必要である。

90年代後半から、日米両国において製造業の雇用が減少した。これは、中国をはじめとする新興国の工業化がもたらした必然の結果である。

しかし、アメリカでは、この間に新しいITを活用したビジネス支援産業が成長し、雇用を生んだ。

ビジネス支援は、インターネットの普及につれて広がった。最近の例では、ウェブを利用する「クラウドサービス」がある。セールスフォースのような新しい企業が登場しているし、IBMのような伝統的な企業も、メーカーからサービス提供に事業の中心を移した。この分野の所得は製造業のそれより高いので、経済全体の所得が高まった。

それに対して、日本で雇用を引き受けたのは、小売り、飲食、その他の対人サービスなど、生産性が低いサービス産業だった。この分野の所得は製造業のそれより低いので、経済全体の所得が低下した。90年代後半以降の日本経済が「失われた15年」に落ち込み、1人あたりGDPの順位が世界の先進国の中で低下したのは、このためである。

日本でビジネス支援サービス産業の成長を阻害したのは、次の3つの要因だ。第1は、(特に通信分野での)規制。第2は、大企業がすべての業務を自社内で行ない、外部のサービスを利用しないこと。第3は、専門的な人材の不足だ。

他方で、資本はさして重要ではない。だから、重点分野への金融などの措置を行なっても、この分野の成長は促進されないだろう。

需要喚起経済政策の誤り

上で述べたのは、主として供給面の条件であることに注意が必要だ。しかし、日本で現実に行なわれている経済政策は、供給面の条件整備ではなく、需要を増やすことを目的とするものが多い。

特に、製造業の後退を食い止めるための需要喚起策が多い。なかでも重要なのは、金融緩和と為替介入によって円安を実現し、それによって製造業の輸出を支えたことだ。この政策は、2002年以降の外需依存経済成長をもたらした。07年頃までは、この方向が成功するかに見えたのだが、経済危機によって頓挫した。これは継続可能なものではなかったのである。

それにもかかわらず、経済危機後も、日本の経済政策は、製造業の後退を食い止めることを目的としている。まず、エコカー購入支援策や家電製品に対するエコポイント制度によって、製造業製品に対する需要を喚起した。さらに、雇用調整助成金によって、製造業に発生した過剰雇用を企業内に押しとどめ、失業として顕在化させないことが目的とされた。

しかし、これらは長期的観点から見て望ましい方向に日本経済を誘導するものではなかった。その行き詰まりが、ここ数カ月で顕在化した。エコカー購入支援策が終了すれば、それはさらに明確になるだろう。

一方、外需依存から抜け出せない製造業は、外需の先を従来の先進国から新興国に切り替えようとしている。しかし、新興国での需要は低価格製品が中心にならざるをえないので、日本国内の高賃金労働では対応できず、生産拠点を新興国に移さざるをえなくなる。このため、日本国内における製造業の雇用はさらに縮小し、また過剰設備も顕在化するだろう。

こうして、高生産性サービス業を発達させる必要性は焦眉のものとなっている。経済政策もそれと整合的なものに転換する必要がある。それにもかかわらず、現在考えられている成長促進策は、相も変わらぬ金融緩和と円安政策、そして法人税減税だ。

これは、現存する供給能力を所与とし、それに対して需要を与えることが目的だ。しかし、これでは経済構造は変わらないし、政策が成功しても、現存する供給能力が成長のリミットになる。

それに対してアメリカでは、新しい供給能力を作ることによって、潜在的な需要を顕在化させた。この場合には、経済構造が変化し、成長のリミットはない。両者の違いは大変大きいのである。

資本と人材の流入を促進することが必要

今必要なのは、需要促進策ではなく、供給面のネックを取り払うことである。

アメリカのビジネス支援産業は、政府の誘導策や援助によって発達したのではない。政府が果たした役割をあえて言えば、それまで電話の独占的地位を守るために行なわれていた通信面での規制撤廃だ。さらに、80年代には盛んに行なわれた製造業の衰退阻止政策(貿易摩擦への介入や為替介入によるドル安政策など)から撤退したことだ。また、軍事産業の減少を無理やりに食い止めることもしなかった。これによって、それまでは製造業に向かっていた有能が人材が新しい分野に参入したのだ。

人材の重要性は、とりわけ強調すべき点だ。高生産性サービス業は、金融業であれビジネス支援産業であれ、高度の専門知識を持つ人材が最重要の生産要素だからである。

人材育成の機能を担うのは、基本的には教育だ。とりわけ、日本の場合には、これまで弱かった高度専門家教育を充実させることだ。しかし、それには時間がかかる。それを補うのは、海外からの人材である。

アメリカのIT産業の成長では、それが特に重要だった。「シリコンバレーでICと言えば、Integrated CircuitのことでなくIndian and Chineseだ」と言われるように、外国人の関与が顕著だった。

具体的人名で見ても、グーグルのセルゲイ・ブリン(ロシア生まれ)、ヤフーのジェリー・ヤン(台湾生まれ)、サン・マイクロシステムズのアンドレアス・ベクトルスハイム(ドイツ生まれ)、ヴィノッド・コースラ(インド生まれ)など、枚挙にいとまがない。

イギリスの高生産性サービス業である金融も、「ビッグバン」という規制緩和と「ウインブルドン現象」という資本、人材の流入によって実現した。アイルランドの金融やIT産業も、外国からの資本と人材の流入によって実現した。

資本と人材の面で鎖国に近い状態の日本が、新しいサービス業で成長することはきわめて難しい。21世紀の世界で当たり前となったこの事実をあらためて認識しなければ、成長戦略は宙に浮いたものとなる。

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