年金に関する本当の争点は何か

年金問題が参議院選挙での最大の争点として浮上している。しかし、前回のこの欄で述べたように、保険料納付記録問題は、きわめて重要であることは間違いないが、選挙の争点となるようなものではない。是正の必要性は明らかであり、あとは、これをいかに実行するかだけの問題だ。

年金に関する最大の争点となるべきものは、年金財政、つまり負担と給付の関係である。これこそが年金の最も基本的な問題であり、その方向づけについての議論が、十分に尽くされなければならない。

2004年の財政再計算によって、将来の年金制度は、次のように運営されることになっている。

厚生年金の保険料率は、04年の13.58%から、17年の18.30%にまで引き上げる。厚生年金給付の、現役サラリーマン世帯の平均的所得に対する比率(所得代替率)は、現在の59.3%から引き下げるが、23年以降も50.2%に維持する。簡単に言えば、これは給付を現在の約85%とし、保険料を現在より35%引き上げるというものだ。

問題は、実際にこのとおりにできるかどうかである。結論を言えば、それは大いに疑問だ。その理由を以下に述べよう。

現在の保険料と給付の関係は維持できない

現在の年金財政は、基本的には「賦課方式」に近いものとなっている。これは世代ごとの収支ではなく、毎年の収支を世代を通じて均衡させる方式だ。つまり、保険料を積み立ててそれで給付を行なうのではなく、その時点の保険料によってその時点の給付を賄う方式である。

したがって、負担と給付の関係は、基本的には人口の年齢構成で決まる。15~64歳人口と65歳以上人口は、05年には8337万人対2682万人だったが、50年には5388万人対3586万人になる。つまり、15歳~64歳人口1人当たりの65歳以上人口は、05年の0.32人から50年には0.67人と、2倍以上に増加する。

このため、現在の負担と給付の関係を将来に向けて維持することはできない。負担をさらに引き上げるか、あるいは給付を切り下げなければ、年金制度を維持できない。人口比から単純に言えば、現在の給付を維持するには負担率を2倍以上に引き上げなければならないし、現在の負担率を固定すれば、給付は半分に削減しなければならない。

現実には、複数の制度があることや、積立金が存在することなどのために、このとおりにはならない。しかし、将来に対するおおよその目安として、この数字を念頭に置いておくことが必要だ。これは、年金財源として保険料のほかに消費税などの税を考えたとしても、ほぼ同じことである。そして、制度の一元化などの措置にはかかわりなく生じる問題だ。

04年財政再計算で示されている数字は、これに比べると半分程度のものであり、かなり楽観的な見通しと考えざるをえない。実際、所得代替率の見通しは、楽観的な積立金利回り見通しに依存したものであることを本欄で指摘した。

民主党は、所得比例年金を目標として掲げている。しかし、右のように人口構成面での条件が今後さらに厳しくなることを考えると、給付を今以上に引き上げることは、とうてい不可能である。年金に関する利害対立は、じつは世代間の対立である。民主党のように今後の給付水準を引き上げようとすれば、労働年齢階層の負担はきわめて重いものとなる。その意味で、民主党の考えは、労働年齢階層の利益に背くことになる。民主党が年金問題を参院選の主要な争点にしたいのであれば、この点を認識する必要がある。

現実には、財政再計算で示された以上に保険料の引き上げと給付の見直しが必要になると考えざるをえない。それをいかに実現すべきであろうか?

給付面での最重要の要検討課題は、支給開始年齢だ。現在の65歳でよいのか、これのさらに引き上げるべきかである。

支給開始年齢の引き上げは、年金支給総額に大きな影響を与える。現在の65歳以上人口2682万人のうち、65~69歳人口は773万人と、3割弱になっている。したがって、ごく単純に言うと、支給開始年齢を70歳に引き上げれば、年金額は現在の7割程度の水準に減る。

これを行なったうえで、以下に述べるさまざまな施策で年金財政を維持するというのが、現実的な方向にならざるをえない(ただし、これは最終的な結果であって、実際にはそう簡単ではない。経過期間の問題があるからである。実際、65歳への引き上げも、長期間をかけて行なっている。)

なお、支給開始年齢の引き上げは、平均余命の延長を考えても必要とされることだ。これに伴って、人生のサイクルは変わってきている。65歳を超えても働く意欲と体力を持っている人は大勢いる。年金生活に入るよりは、むしろ働くほうが生きがいがあってよいと考えている人が多い。年金制度がこのような変化に適切に対処しているとは思えない。

年金の問題は経済全体の問題

保険料については、料率の引き上げより、保険料負担者の数を増やすことを考えるべきだ。つまり、労働者数の増加である。

まず、女性の労働力率をさらに引き上げることが考えられる。これは、単に保険料負担者の数を増やすという意味だけでなく、女性の社会参加の観点から積極的に行なわれるべき課題だ。ただし、このためには、第三号被保険者問題が解決されなければならない。04年財政再計算時にも議論されたが、改正はされなかった。また、所得税の配偶者控除の扱いも関連する。

また、高齢者の労働力率向上も重要な課題だ。仮に支給開始年齢を70歳まで引き上げるのであれば、労働環境の整備は不可欠の課題である。特に重要なのは、在職老齢年金制度の見直しである。現在の制度だと、支給開始年齢を過ぎても、一定以上の給与所得があると、年金を減額または支給停止される。これは、高齢者の給与所得にきわめて高率の所得税がかかるのと同じことになり、高齢者の就業を促進するのであれば、この制度の見直しは不可欠だ。

もう1つの問題は、外国人労働力の受け入れである。従来、この問題は年金問題と関連づけて議論されることはなかったが、大変重要な影響が及ぶ問題である。外国人労働者の問題は、労働力不足に対処する手段としてだけでなく、年金財政の観点からも本質的な重要性を持つ問題なのである。これは、出生率引き上げより確実な方策だ。

保険料の問題は、税とも関連している。先に、「消費税などの税を考えても同じだ」と述べたが、正確には、税の年齢別負担パターンによって、この結論は変わってくる。資産所得税など高齢者が比較的負担する税を増やしてゆくなら、若年者の負担は軽減される。また、相続税を考えても、結論は異なる(ただし、相続税の帰着は、難しい問題だ)。

以上のように、年金はさまざまな問題を抱えている。しかも、それらは年金という狭い枠内だけで解決できる問題でなく、税や移民政策など広い範囲の問題に関連している。年金を論じることは、とりもなおさず、日本社会のあり方を論じることだ。

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年金に関する本当の争点は何か” への2件のコメント

  1. 外人労働者の受け入れだけはゴメン被りたい。南米系労働者には非常に不愉快な思いをしています。

  2. ピンバック: The企業年金BLOG

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