内需主導経済における所得収支の重要な役割

内需主導経済に対する反対意見として、「内需に依存するだけでは外貨を稼ぐことができない」と言われることがある。「経済活動を行なうためには輸入が必要であり、輸入品を購入するための外貨を獲得するには輸出を行なう必要がある」という議論だ。

これに対してまず注意すべきは、加工貿易的な生産活動が減れば、原材料などの輸入も減ることだ。原油の輸入量もかなり減るだろう。したがって、それらを購入するための外貨も必要なくなる。

もちろん、国民生活を支える輸入は必要だから、外貨獲得の必要性がまったくなくなるわけではない。しかし、これまでと同じような輸入は必要ないのである。

日本では、1980年代の後半以降、実質純輸出は実質GDPの1%、あるいはそれ以下だった(純輸出とは、財・サービスの輸出と輸入の差)。2002年以降この比率が上昇し、08年4~6月期には5.7%にまで高まった。これが「外需依存の景気回復」だ。経済危機後この比率は低下し、09年1~3月期には1.4%になった。しかし、その後再び急上昇し、10年4~6月期では、5.2%になっている。

「外需依存経済から内需主導経済への転換」とは、純輸出の対GDPを減らして、他の需要項目の比重を増加させることだ。どの程度の低下が必要かについては判断の余地があるが、外需依存景気回復以前の値が正常だとすれば、少なくとも2~3%ポイントの低下が必要だろう。

消費支出はGDPの6割程度を占めているから、これが5%増えれば、GDPの3%となり、純輸出の落ち込みは確保できる。

国際収支の面では、どうか。ここでの目的は、経常収支の黒字をあまり減らさずに維持することだ。内需主導経済への転換に伴って、国際収支の経常収支では貿易収支の黒字が減る。減った分を所得収支の黒字増加で補うことができれば、経常収支の黒字は、前と同じレベルに維持することができる(「所得収支」とは、対外資産が生んだ収益と対外負債のための利子支払いなど)。

ただし、これまでの経常収支黒字は大き過ぎたので、その水準を将来も維持する必要はない。経常収支が長期にわたって赤字にならないことを目的とすればよいだろう。

国際収支における貿易収支黒字とGDP統計の純輸出は、若干の概念の差があるが、ほぼ同じものだ。したがって、内需主導経済への転換によって経常収支を大きく減少させないためには、所得収支黒字のGDP比を高められればよい。後で述べるように、これは、簡単に実現できることではないが、不可能ではない。

じつは、貿易収支の黒字が大きい構造から所得収支の黒字が大きい構造に転換することこそが、「成熟国」としての国際収支構造なのである。日本は巨額の対外資産を持っており、この点では世界で最も恵まれた立場にある。資産大国としての経済構造への転換を、成長戦略の基本に据える必要がある。

日本の対外投資の収益率は低い

所得収支の黒字によって貿易収支赤字をカバーしている国の代表例は、アメリカである。受け取り所得を対外資産で割った値を「運用利回り」、支払い所得を対外負債で割った値を「調達利回り」とすれば、アメリカの運用利回りは、常に調達利回りを上回っている。

01年には前者が4.6%で後者が3.2%だった。その後調達利回りは低下し、02年から04年までは2%台になった。他方で、運用利回りには大きな変化は生じなかった。利ザヤは2.6%に拡大した。

これだけの利ザヤを実現できるので、対外純資産がマイナスであるにもかかわらず、所得収支がプラスになっている。なお、アメリカの対外資産収益率が高いのは、第2次大戦後に行なった直接投資が高い収益率を実現しているためだ。

マイナスの純資産でプラスの所得収支を実現しているのは、アメリカだけではない。イギリスも同様だ。

日本でも、04年以降、所得収支黒字が貿易収支赤字をカバーするようになっている。ただし、それは対外純資産がプラスでしかも巨大であるためだ。収益率で見ると、日本の成績はそれほどよくない。

08年には受取額が22兆円で08年末の対外資産残高が519兆円だったので、収益率は4.2%だ。しかし、これは例外で、過去の年について収益率を計算してみると、3%程度の値だ。これは、アメリカ長期国債の利回り(10年債で4%程度)よりも低い。収益率がこれほど低くなるのは、アメリカ短期国債(TB)への運用が多いからだ。

資金調達を変えなくとも、資金運用の面で利回りをアメリカ並みの水準に上げることができれば、所得収支黒字は増える。対外資産の大きさはGDPとほぼ同じなので、所得収支黒字のGDP比は1.6%ほど上昇するだろう。

新興国は販売先でなく投資先ととらえるべきだ

金利が世界的に低下しているので、運用利回りを従来よりも高めるのは、容易なことではない。しかし、調達金利も下がるはずだから、利ザヤを拡大させるのは不可能ではない。

さらに重要なのは、これまでの投資戦略からの大転換だ。日本の対外投資の収益率が低いのは、右に見たように、受け身の証券投資が大部分を占めているからである。それから脱却して、直接投資を含めた積極的な投資活動の展開が必要だ。

特に重要なのは、新興国への直接投資である。新興国の経済成長が高いことは、そこへの投資の収益率が、キャピタルゲインを含めて、きわめて高い値になりうることを意味する。成長の利益を享受するには株式投資でもよいが、それよりは、直接投資のほうが望ましい。

今日本で議論されているのは、新興国で成長する消費を対象にして、日本製品を売ることである。しかし、新興国の所得水準は低いので、低コストでの生産が必要になる。そうした生産を日本国内で行なえば、日本の賃金水準が低下してしまう。

成長する新興国への対応は、「ものを売る」ことではなく「投資する」ことなのである。円高が要求しているのも、「外国に売る」ことではなく、「外国に投資する」ことである。

なお、対外資産の運用利回りを1%ポイント上昇させるのは、対外資産とGDPがほぼ同程度の規模なので、GDPの成長率を1%ポイント引き上げるのと同じことである。「成長セイン略」を論じる場合、この認識はきわめて不十分だ。製造業などの成長を促進して成長率を1%ポイント高めるのはきわめて難しいが、対外資産の運用利回りを1%ポイント高めることは、これまでの運用が適切でなかったことの改善なので、十分実現可能なのである。

ただし、新興国への直接投資を拡大するには、現在の体制では不十分である。市場で客観的な価格付けがなされている証券投資に比べると、直接投資はリスクが高く、評価も難しい。したがって、まず現地経済の十分な知識と情報が必要だ。これまで、日本は、ODA(政府開発援助)供与などに関連して多くの専門家を育ててきた。彼らをこうした目的のために動員すべきだ。また、リスクコントロールのために、ファイナンスの専門家が大量に必要である。そのためには、教育が必要だ。ただし、養成には時間がかかるので、海外から人材を招いてもよい。

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