緊急対応策はもう限界 基本構造の改革が必要

2010年4~6月期の実質GDP(国内総生産)の対前期比成長率(年率換算。以下同)は、0.4%となった。09年10~12月が4.1%、10年1~3月期が4.4%だったので、伸び率が大幅に低下したわけである。

日本経済は、世界経済危機による輸出急減の打撃で08年4~6月期からマイナス成長に陥り、それが09年1~3月期まで続いた。その後、中国に対する輸出の増加や政府による購入支援策に支えられて、回復傾向に転じた。

しかし、この傾向は、10年4~6月期にはすでに終わってしまったことになる。そして、以下に述べるように、今後は経済活動を下押しする要因が顕在化してくるものと予想される。こうした状況変化は、株価にも表れている。日経平均株価は、10年4月頃に1万1000円を超えたが、その後は下落している。

実質GDPの需要項目を見ると、家計最終消費支出の伸びは、1.7%、1.3%から0.0%に低下した(数字は、09年10~12月期、10年1~3月期と10年4~6月期。以下同)。これは、自動車・家電製品の購入支援策の効果が限界にきたことを示している。純輸出の伸びは、2.4%、2.3%から1.3%に低下した。これは、中国などへの輸出の伸びが鈍化し、他方で輸入の伸びが高まったことの影響である。なお、公的固定資本形成の伸びは、-0.2%、-0.2%、-0.6%と継続的にマイナスであり、しかもマイナスの数字が拡大している。

鉱工業生産指数を見ると、09年2月のボトム71.3から10年1月の94.3までは順調に回復した。しかし、その後は増勢が止まり、10年6月では95.0にとどまっている。乗用車は、09年2月のボトム51.6から10年1月の106.0へと倍以上に増加したが、10年6月には98.9に低下した。その他電気機械は、09年2月の75.9から10年3月の162.0まで、倍以上に増加した。しかし、10年6月には137.4に低下している。この数字からも、購入支援策の生産底上げ効果がすでにピークアウトしていることがわかる。

今後はマイナス成長に陥る可能性が高い

貿易傾向を見ても、これまでの傾向が変調したことが確かめられる。対世界輸出額(月額)は、09年1月にボトム(3.48兆円)を経験したあと順調に増加し、10年3月には6兆円にまで回復した。これは、危機前のピーク(08年7月の7.62兆円)の約79%のレベルである。しかし、その後は減少し、10年5月には5.3兆円になっている。

輸出が減少したのは、対中国輸出が減少したことの影響が大きい。すなわち、対中輸出額(月額)は、09年1月に0.5兆円というボトムを経験したあと順調に増加し、10年3月には1.16兆円まで回復した。これは、危機前のピーク(08年7月の1.28兆円)の約9割のレベルである。しかし、その後は減少し、10年5月には1.02兆円になっている。

外需と購入支援策に支えられた景気回復は、永続できないことが明らかになったわけである。

その第一の原因は、09年上半期に急激な伸びを示した中国の輸出が鈍化したことだ。さらに、ドルやユーロに対して円高が進行しているため、中国市場における日本の比重が低下し、ドイツなどユーロ圏諸国の比重が上昇していることが挙げられる。今後は、いっそうの円高の影響が加わるため、輸出の減少が続くだろう。また、これまで自動車や家電製品の生産を支えてきた購入支援策が終了すれば、民間消費支出はマイナスに転じる可能性が強い。これらのいずれもが、経済に大きなマイナスの影響をもたらす可能性がある。

近い将来の日本経済の状況を表すのに、「踊り場」とか「二番底」といった景気循環上の表現が使われることが多い。確かに、今年初めまでの回復基調はここにきて変調した。しかし、重要なのは、循環的な動きの変化ではない。日本経済が構造的に袋小路に入り込んで抜け出せないことである。

10年4~6月期の日本の実質GDPは、危機前のピーク(08年1~3月期)に比べると、4.6%ほど低い水準だ。アメリカで同じ期間を比べると、すでに99%の水準になっている。これからも、日本の遅れがよくわかる。

08年に日本経済が落ち込んでから取られてきた経済政策は、1つは雇用調整助成金によって過剰労働力を企業内に押さえ込んで失業に顕在化するのを防ぐことであり、いま1つは自動車や家電製品の購入支援策であった。これらは、いずれも短期的な緊急対応策にすぎず、日本経済の構造を改革するようなものではない。それらの政策が行き詰まってきた今、経済政策の基本的方向を大きく変える必要がある。現在の構造のままでは、日本経済に展望は開けないのだ。

介護の自由化と高度知識産業への条件整備

円高が進行し、株価も下落していることから、円高に対して対応策が必要といわれる。しかし、前回にも述べたように、現在の世界経済の条件(特に先進諸国の金利が低下したこと)を考えると、為替介入を行なったところで効果はなく、損失が発生するだけの結果に終わるだろう。

日本の法人税の実効税率が諸外国に比べて高いため、この引き下げが必要と論じられることが多い。しかし、日本共産党の資料によると、エレクトロニクスなど研究開発費が多い産業では、法人税の実効税率は10%台である。さらに、経済危機後は赤字が拡大したため、製造業では法人税を負担していない企業が多くなっている。損失は将来に繰り延べできるため、この状態は今後数年間は続くだろう。したがって、法人税の税率を引き下げたところで、日本企業の状態にはなんの変化も生じないだろう。

日本経済は、手術が必要であるにもかかわらず、痛みを回避するためにそれを怠り続けてきた。この状況が、1990年代の後半から、すでに15年間も続いているのである。しかし、これ以上に日本経済の体力が衰えるのを放置するわけにはゆかない。

外需に依存する産業は、今後は生産拠点を海外に移転することによって対応しようとするだろう。これが進めば、日本国内の雇用に深刻な問題が発生する。

したがって、今必要とされる経済対策として第一に必要なのは、雇用の確保である。介護分野の有効求人倍率は1を超えており、現在の日本において大量の雇用を創出できるほぼ唯一の分野だ。ここに人が集まらないのは、規制のために賃金が低く抑えられているからである。したがって、雇用を量的に確保するには、介護部門での規制緩和を図り、ここに大量の雇用機会をつくることが必要だ。

長期的に見た場合には、もちろんこれだけで十分ではない。先端金融など、生産性の高いサービス産業の成長環境を整えることが重要だ。そのために必要とされるのは、高度な専門能力を持った人材の育成である。こうした政策の効果は、すぐに表れるわけではない。しかし、日本経済の構造改革には、最も重要な戦略的手段だ。これまで行なわれてきた緊急避難的需要追加策から脱却し、こうした方向へ経済政策を転換することが必要だ。それを実現できるか否かが、日本経済の命運を決める。

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