日本企業は経済危機を克服できたのか?

東京証券取引所の一部上場企業522社の2010年4~6月期決算で、経常利益が前年同月比約4.3倍になった。これを伝える新聞記事は、「リーマン・ショックで落ち込んだ国内企業の復調が鮮明になった」としている。こうした記事を見ていると、「日本企業は順風満帆」という印象を受ける。

しかし、本当にそう考えてよいのだろうか? 数字をよく見れば、じつはそうではないことがすぐにわかる。

利益の前年同月比が高かったのは、09年4~6月期の水準が非常に低かったからである。実際、製造業では、この期にはほとんどの企業が赤字だった。電機は5000億円の赤字、自動車は1664億円の赤字だった。日本経済は文字どおり「奈落の底」に落ち込んでいたのである。だから、この時点と比較した伸び率は、きわめて高い値になる。そのため、「順調に成長している」という錯覚に陥るのだ。イングランド銀行総裁のマービン・キングは、このことを、It’s levels, stupid. Not growth rates(重要なのは「水準」だ。伸び率ではない)という過激な表現で警告したのだが、まさにその錯覚が今の日本で生じつつある。

今年はこれが黒字に転換した。しかし、黒字と言っても、4~6月期の利益は、電機で6494億円、自動車で7260億円である。経済危機前、トヨタ自動車1社で年間2兆円を超える利益があったことと比べると、隔世の感がある(ただし、ホンダ、日産自動車、富士重工業の利益は危機前を上回った)。最初に述べた上場企業利益で見ると、08年のリーマンショック前に比べてまだ92%の水準でしかない。つまり、「まだ経済危機前には回復していない」というのが正確な評価だ。

実際、法人企業統計で、07年と10年の1~3月期における日本経済の経常利益を比べてみると、次のとおりだ(単位兆円)。「奈落の底からは這い上がったものの、危機前の水準は取り戻せていない」ということがよくわかる。

全産業:16.7、11.3
製造業:6.4、4.4

政府支援の特需に支えられている

しかも、電機と自動車は、政府支援の特需に支えられている。また、雇用調整助成金の支援もある。しかし、自動車の購入支援策は9月に、電機の支援策は今年中には終了する。この施策は、需要を増加させたのでなく将来の需要を先食いしただけなので、終了すれば、需要は急減する。また、09年には中国に対する輸出が急激に伸びたかのだが、今後は同じようには伸びないだろう。

だから、よくてピークの8~9割の水準を維持できるだけで、それを超すことは当面のあいだはできないだろう。平均株価は、ピーク時(07年7月頃)の52%程度の水準でしかないが、これが利益の長期的見通しを示していると考えてもよい。

他方で、アメリカ企業の利益に関する報道は、ネガティブなトーンで伝えられていることが多い。まず、主要金融機関の多くが減収減益になったことが強調されている。また、アメリカのIT企業の利益は対前年同期比3割程度であるが、これは日本の4倍に比べるとだいぶ低い。

伝えられていること自体はもちろん事実なのだが、問題は、記事のトーンから受ける印象だ。こうした記事を読むと、日本の企業が好成績でアメリカの企業利益が停滞しているような印象を受ける。

しかし、実際に生じていることは、その正反対なのである。アメリカの企業利益の伸びがさほど高くないのは、前年同期の水準がすでにかなり高かったからなのだ。

実際、07年と10年の1~3月期の利益(在庫表か調整後)を比較すると、次のとおりだ(単位兆ドル)。

全産業:1.7、1.7
金融:0.4、0.4
情報関連:0.1、0.1

つまり、経済危機の原因を作った金融を含めて、10年1~3月期にはすでに07年の水準を取り戻し、全産業ではそれより5%ほど高い水準になった。08年のリーマンショック前と比べれば、もっと高い水準だ。日本が9割にしかならないのとはだいぶ違う。そして、情報関連に至っては、07年より3割程度高い水準で過去最高を更新しつつある。

利益率における日米企業の大きな差

日本の企業は、黒字になったとはいうものの、利益率は非常に低い。利益額は、新興国の需要動向や為替によって変動する。だから、回復したところで将来がどうなるかは確実ではない。基本的な問題は、利益率が非常に低いということなのである。それは、事業モデルが経済の構造変化に対応しているか否かを示しているからだ。

それを知るには、「1単位の資本投入でどれだけの利益が得られるか」を示す「総資本利益率(ROA)」を見るのがよい。通常用いられる「自己資本利益率(ROE)」は、借り入れを増やせば事業の実態が変わらなくとも上昇してしまう。事業の評価には、こうした操作では影響を受けない指標であるROAを使うほうがよい。

10年3月期連結決算における日本企業のROAは、次のとおりだ。

ホンダ2.3%、トヨタ0.7%、日産0.4%、ソニー-0.3%、東芝-0.4%、日立製作所-1.2%

主要企業のROAは(ホンダを除けば)国債の利回りよりかなり低い。「資本を日本企業に投資するよりも、安全資産である国債に投資したほうが有利」という事態が生じているのだ。これは、異常な状況である。しかも、繰り返すが、これは政府による購入支援策が与えられている状況での数字である。

ホンダの場合、08年のROAは4.9%だったから、半分以下に低下したことになる。これは、経済危機後、需要の動向が利益率を引き下げる方向に変わったことを示している。それは、新興国シフトだ。

新聞報道などでは、「自動車や電機など主力企業が、中国など新興国への好調な輸出を背景に全体を牽引している」とされる。しかし、「新興国向けの伸びが高い」ということの実態は、「利益の高い先進国が伸びないので、利益率の低い新興国に向かざるをえない」ということだ。

それに対して、先端的なアメリカ企業のROAを見ると、次のとおりだ。

マイクロソフト18.8%、アップル18.4%、グーグル14.1%、IBM11.5%

日本企業の利益率とは隔絶的な差がある。しかも、これは政府の支援に支えられたものではない。また、外需に依存するものでもないので、為替レートの変動によって動いてしまうものでもない。新しい技術に支えられたものだ。だから、将来の動向にあまり大きな不確実性はない。日本企業とは全く異質の事業を展開しているとしか考えようがない。ここで見たのは先端的な企業だが、それ以外の企業も含むダウ平均株価で見ても、現在の水準はピーク(07年7月)の77%である。日本が先に述べたように52%であるのと比べると、だいぶ高い。

今回の決算を見て日本企業が順調に回復していると考えるのは、大きな誤りだ。「基本的な方向転換をしなければどうしようもないところに追い詰められた」と考えるべきである。

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