外形標準課税、または支出法人課税の提案

菅直人首相が消費税税率引上げに言及したことをきっかけとして、税制改革論議が政治の場でも行なわれるようになった。税制をめぐる議論はこの10年来ほとんど封印されてきたので、これは望ましい変化だ。参院選に向けて議論が深まることを期待したい。

言うまでもないが、税制改革に当たって議論すべきは、消費税だけではない。税制全般にわたっての議論が必要である。

その際まず認識すべきは、日本の税収が長期的に大きく落ち込んでいる事実だ。税収は1990年頃をピークとして傾向的に減少を続けている。2006~08年頃の期間に一時的・例外的に増加しただけだ。

租税負担率(国税、地方税の国民所得に対する比率)は、90年度には27.7%だったが、10年度当初予算では21.5%にまで低下している(国税は18.1%から11.7%に低下)。負担率が4分の1近くも低下したのは、尋常なことではない。

経済危機による落ち込みが特に顕著なのは、法人税である。09年度(補正後)における法人税収入は約5.2兆円であるが、これは、70年代と同レベルである(07年度税収は15兆円だった)。あまりに異常な落ち込みとしか言いようがない。所得税収入も、長期的に大きく落ち込んでいる。現在の水準は80年代と同レベルだ。かくも大幅な税収の落ち込みを、かくも長期にわたって放置してきた政治の責任は、きわめて大きい。

他方で、歳出は傾向的に増加を続けている。したがって、税収と歳出は、構造的に逆方向に変化し続けているのだ。どちらも、日本の社会・経済構造の変化に適合できていないのである。財政赤字が異常な額にふくれ上がったのは、当然の結果である。これを是正するには、税構造と歳出構造の基本的な見直しが必要だ。

政府は、6月22日に「財政運営戦略」を閣議決定し、基礎的財政収支(プライマリーバランス)を20年度までに黒字化することとした。また、今後3年間の歳出入の骨格を示す「中期財政フレーム」において、11年度の新規国債発行額を「約44兆円を上回らないようにするため全力を挙げる」とした。

しかし、数字を並べる前にまず必要なのは、構造的アンバランスにどう対処するかを明確にすることだ。とりわけ、税制の根幹についての考え方を明確にすべきである。菅首相は「強い経済、強い財政、強い社会保障」を実現するとしているが、基本哲学を明確にしない限り、根本的な改革は決して実現できない。

法人が税負担しなくてよいのか?

税制改革はすべての税について行なう必要があるが、そのうち緊急なのは法人税だ。なぜなら、法人税については減税だけが議論されており、それが他の税制改革より早く実現してしまう可能性が高いからだ。

法人税減税の論拠として言われているのは、「日本の実効税率(国と地方の法人課税を合わせた税負担率)が世界各国に比べて高い」ということだ。しかし、これは、「仮に法人が税を支払えば」という仮想上の話である。

実際には、多くの法人が税負担をしていない。国税庁の資料によれば、09年度において、全法人300万社(申告法人は273万社)のうち、利益があったのは82万社にすぎない。

現在大手銀行では、1行を除いて法人税を負担していない。これは、かつての不良債権処理に伴う損失の影響がいまだに続いているからだ。これからは、製造業もこれと同じような状態になる。それは、経済危機後に企業利益が激しく落ち込んだためである。

これは、短期間で終了することではない。損失の繰り延べが6年間は可能であることを考えると、今後かなりの期間にわたって製造業の多くの企業が法人税を負担しない状態になる。先に述べたように、法人税収は70年代の水準にまで落ち込んでしまっているのだが、この異常な状態が今後も続く。

ところで、当然のことであるが、法人の負担は軽ければよいというわけではない。なぜなら、法人は、政府が提供しているさまざまな公共サービスを享受しているからだ。

道路などの社会資本を使用し、廃棄物処理などのサービスを享受している。そして、治安、司法、教育、防衛、治山治水などの政府の基本的サービスの恩恵を受けている。

だから、それに見合った負担をしなければならない。さらに、株式会社は、個人事業には与えられていない「有限責任制」という特権を享受しているので、それに対応する負担もあってしかるべきだ。

今後消費税が増税されれば、その負担は、主として個人消費者が負うこととなる。その際、法人の負担が軽減されるのではバランスを失する。

キャッシュフロー法人税に移行すべきだ

現在の法人税は、法人の「利益」を課税ベースとしている。これは故人に対する課税が「所得」をベースにしていることと対応している。しかし、これは法人に対する課税のあり方として、唯一のものではない。

経済学者のあいだでは、昔から「キャッシュフロー法人税」という考えが議論されてきた。これは、法人の「支出」を課税ベースとするものだ(具体的な課税ベースについては、さまざまな考えがある)。

日本でも、法人企業の利益ではなく、資本金や付加価値額などを基準として課税する「外形標準課税」が、地方税である事業税にはすでに一部導入されている。キャッシュフロー法人税は、これと近い(外形標準課税を理論的にサポートするのが、キャッシュフロー法人税である)。

国の法人税についても、キャッシュフロー法人税、ないしは外形標準化が検討されるべきである。これによって、法人課税の課税ベースは拡大する。赤字法人にも課税されることとなるので、課税対象となる法人数は、現在の3倍以上に拡大する。

これは、負担率とは別のイッシューであることに注意が必要だ。法人に対する課税を、赤字企業も含めたより多数の法人が負うため、仮に法人負担総額を不変のままとすれば、現在法人税を負担している企業にとっては、負担が著しく軽減される。また、利益操作が行なわれることもなくなるので、公平にも資する。

法人税に対する不満が大きいのは、負担が総額として大きいからではなく、それを負担するのが全法人の約3割でしかない黒字法人に偏っている(そのため、実効税率を高くせざるをえない)ことによると考えられる。今行なわれている議論は、負担の総額とその分布を混同している。外形標準化は、この点を是正する。また、経済変動に対する法人税収の激変を防ぐためにも有用だ。

個人に対する課税として、従来の「所得」を中心に課税する仕組みから「消費」を中心にする税制に移行してゆくのであれば、法人に対する課税も、従来の「利益」に対する課税から「支出」に課税する仕組みに移行するのが整合的である。そして、こうした移行は、日本経済の基本的な構造変化とも整合的なものだ。

ここで詳述する余裕がないが、以上で述べたのは、経済学者が以前から「支出税」として考えてきたものである。今こそ、支出税論を基軸とした税制の基本理念を確立すべきだ。

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