投機取引をあおる日本の巨額外貨準備

3月7日の財務省発表によると、日本の外貨準備高は、今年の2月末で9000億ドルを超えた。現在の為替レートで換算すると、100兆円を超える。

日本の外貨準備は、3つの問題を抱えている。第一は規模が大きすぎること、第二は運用対象が安全資産に偏りすぎていること、第三はドル建て資産に偏りすぎていることである。

特に問題なのは第三の点だ。なぜなら、これは為替レートの変化について、政府自身が大きな利害関係者になっていることを意味するからである。

第一の、100兆円という規模について。これは、日本の対外資産総額と比べても、また一般会計の長期国債残高と比べても、ほぼ2割に当たる。これほど巨額の外貨準備を持つ必要はまったくない。

経済学の教科書には、「変動為替制では外貨準備は不要」と書いてある。国際収支の不均衡が発生すれば、為替レートが変化して調整するからだ。実際、アメリカの外貨準備高は日本の10分の1程度しかない。日本でも、1995年には1845億ドルであった。したがって、現在の日本の外貨準備高は、まったく正当化できないほど大きい。

ヘッジされていなければ円高・ドル安で巨額の損失

外貨準備が巨額であるのは、為替レートによる自動調整効果を拒否したことを意味する。具体的には、95年頃からドル買い介入が始まり、円高になるのを阻止した。2003~04年には、合計で約40兆円に上る未曾有のドル買い介入がなされた。この結果、異常としか言いようのない巨額の外貨準備が積み上がったのである。

問題の第二は、運用利回りが低すぎることだ。財務省の発表資料では、外貨準備のうち7582億ドルが「外貨証券」である。これ以上の詳しい情報は公表されていないのだが、このほとんどは米財務省証券(TB)だと考えられている。これは安全な資産ではあるが、利回りは低い。ドル資産で保有するとしても、仮に株式などに投資していたとしたら、もっと多額の収益を得られたはずである。

外貨準備を効率的に運用する試みは、他国ではすでに行なわれている。たとえば、シンガポールは政府投資公社を通じてヘッジファンドなどへの投資を拡大しつつあり、韓国は韓国投資公社が先進国株に運用している。

1兆ドルという世界一の外貨準備を保有する中国も、外貨準備を効率的に運用する新会社を設立すると、今年の3月に発表した。不動産や海外油田などへの投資を行なうのではないかと観測されている。不要な外貨準備を大量に抱えているという意味では中国も日本も同じだが、運用の効率化を考えている点では、中国は日本よりは一歩は前に進んでいることになる。

現在の外貨準備高はGDPの5分の1程度の規模なので、その運用利回りが仮に1%ポイント高ければ、経済成長率が0.2%ポイント高まったのと同じことになる。公務員宿舎の売却など政府資産の効率的運用が必要と言われているのだが、100兆円を超える資産の効率的運用のほうがはるかに重要な課題だ。

第三の問題は、為替リスクへの対処である。外貨準備の通貨建てがどうなっているかは公表されていないので推測するしかないが、長年にわたって外貨準備の9割以上はドルで運用されてきた(ただし、日本銀行保有外貨では最近、ユーロの比率を増やしているようだ)。

どの程度ヘッジされているのかについても、公式な発表がないので正確なことはわからないのだが、ヘッジされていないと考えられる根拠がいくつかある。

第一に、仮に介入時にヘッジしたのであれば、直物円を買って先物円を売ることになるから、直先スプレッド(円の増価率)が拡大したはずである。しかし、実際には、大量介入があった03~04年頃はむしろ縮小している。第二に、外国為替特別会計に剰余金が発生し、かなりの額を一般会計に繰り入れている。もしヘッジしたのであれば利回りが低下するはずだから、これだけの剰余金は発生しないだろう。第三に、ユーロ建て資産を増やそうとしているが、ヘッジしているのであれば通貨建てを分散化する必要はない。

仮にヘッジしていないとすると、円高・ドル安によって、巨額の損失が発生することになる。為替レートが1割動くだけで、数兆円のオーダーの損失が発生する。したがって、財政当局の立場としては、円高はどうしても阻止しなければならないことになる。

日銀が金利を正常化できないだろうと考えられる理由について、前回書いた。それを繰り返せば、第一に、リートを通じた不動産への投資が増加しているので、金利が上昇するとリートから急激に資金が流出し、不動産価格が下落する可能性がある。第二に、外国ファンドによる円キャリートレードがあり、為替レートの円高予想が生じると、この巻き戻しが生じて急激な円高が生じる。

これらは資産市場に対する大きな撹乱要因だが、国が直接に損害を被るわけではない。しかし、外貨準備の問題は、国自身の問題だ。円キャリートレードが問題視されているが、じつは、日本政府自身が大規模に円キャリートレードを行なっていることになる。

これに加えて、巨額の国債残高の問題があることは言うまでもない。金利が上昇すると一般会計予算の国債費が膨張する。それは国債の発行額をさらに増加させ、財政赤字問題は深刻な悪循環に陥る。したがって、政府の立場からすると、金融緩和・円安政策からは、どうしても抜けられない。

個人資産の海外流出は政府公認の方向

政府が巨額のドル資産を保有している事実は、「日本政府は円高を望んでいない」というメッセージと同義なのである。つまり、日本政府は、全世界の投資家に対して、「円から外貨に転換しても運用しても、為替差損を被る恐れは少ない」と告げているのだ。

このメッセージに対して、ついに日本の個人も反応するようになった。90年代まで、外貨資産への投資の主体は生損保や信託銀行の年金基金など機関投資家だった。ところがこの数年、個人投資家による外貨投資が急速に拡大している。

外貨建ての投資信託や預金などを合わせた外貨資産残高は、06年末に40兆円を突破した。これは、生命保険会社の同残高より大きい。03年9月に20兆円を突破して以降、3年あまりで2倍にふくらんだことになる。

それだけならまだしも、外国為替の証拠金先物取引も増えている。これは、少ない元手で多額の外貨売買を行なう、リスクがきわめて高い投機的な取引だ。

こうした投機が拡大するのは望ましくないことだが、個人資産の海外流出が続くと円安が進むから、投機は成功することになる。国内に資産を保有し続けるものが報われず、外貨で資産を保有した者が報われるという事態は、決して健全なものではない。

以上で述べた状況は、海外から日本への投資に対しても大きな阻害要因になっている。この5月には三角合併が解禁になる。私は、海外からの対日投資が企業の体質を改善することを望みたいのだが、その期待は実現しない可能性が強い。現在の異常な経済政策は、日本経済を資本面で海外に向けて開くという面でも、きわめて大きなマイナス効果を発揮しているのだ。

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投機取引をあおる日本の巨額外貨準備” への1件のコメント

  1. アメリカ合衆国の属国である日本はドルの傘から出ることはできません。ユーロに乗り換えようとするだけでドルの暴落が起こると思います。

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