ソ連と同じ道を辿る日本の財政と企業

日本の財政は史上空前の赤字を抱えている。企業の利益は激減しており、製造業全体としての利益は、数年前の6分の1程度に落ち込んだ。

この事態に対して、どうしたらよいか? もちろん、これが深刻な問題であると認め、対策を講じるべきだ。しかし、それ以外の対処法もある。

第一は、「そのうちなんとかなる」として、問題の深刻さを認めないことだ。つまり、国の赤字も企業の利益減も短期的な問題にすぎず、景気が回復すれば自然に改善する、と考えることだ。そして、なにもせずに事態の推移を見る。

第二は、責任転嫁で、「こうなったのは確かに困ったことだが、不可抗力によるもので、どうしようもなかった」と弁明することだ。

第三は、偽りの対処だ。わかりやすく言えば、ごまかすことである。

財政赤字について言えば、これら3つのすべてがこれまで行なわれてきたし、今でも行なわれている。

第一の「そのうちよくなる」声明は、自民党政権時代に頻繁に出された。もう忘れられてしまったかもしれないが、「基礎収支は、そのうち黒字化する」ということが何度も言われた。

第二タイプの「いいわけ」も、ごく普通に用いられる。いわく、デフレのせいだ。為替レートが円高になり過ぎるからだ……等々。

第三の代表は、「埋蔵金」である。埋蔵金を掘り出したところで、国債の発行増となんら異なるところはないのだが、赤字額が減ったような錯覚に陥る。また、民主党政権は、選挙前には「新規施策のため2013年度に16兆8000億円必要。うち、9兆1000億円を予算の組み替えによるムダ根絶で捻出」としていた。ところが、先般行なわれた「事業仕分け」作業で捻出できた財源は、わずか6900億円だった。9兆円との差については、なんの説明もなされていない。

企業も、国の場合と大同小異の対処だ。まず、「そのうちなんとかなるだろう」思考は、一般的だ。第二の「デフレのせい、円高のせい」もよく聞かれる。企業の場合には、これに加えて、「法人税率が高過ぎるなど、国の政策が問題」という責任転嫁も行なわれる。

偽りの対処も、盛んだ。粉飾決算までしなくとも、株主の期待をつなぎとめることはできる。製造業の場合には、「アジア新興国の需要に期待できる」というのがそれに当たる。もし本当に新興国の低価格製品にコミットすれば、企業利潤がさらに減少するだけでなく、日本の賃金率が新興国並みに下落することは避けられない。しかし、そうした懸念は無視される。

なお、企業の場合には、以上で述べたこと以外に、「政府に助けを求める」という方法もあり、実際に行なわれている。雇用調整助成金、エコポイント、自動車購入支援などがそれだ。

ソ連は経済力の低下で崩壊した

企業の場合、これら3つの方法に頼って対策を怠れば、破綻に追い込まれる。われわれは、その実例を、いくつも見ている。現在上演中は、日本航空だ。しばらく前には、アメリカの自動車会社がその実例を見せてくれた。このように、企業の場合には市場の圧力がかかる。だから、いつまでも対策を怠っているわけにはゆかない。

しかし、国の場合には、一見したところ、そうした圧力はかからないように終える。対策を取らなくとも、3つの方法で国民を欺き続けることができれば、政権は維持でき、国は生き永らえることができるように思われる。

だが、そうではない。国家破綻は、現実に生じうることだ。1991年のソ連崩壊が、比較的最近時点で生じた具体例である。

ソ連が崩壊した最大の理由は、社会主義経済の生産性が落ちるところまで落ちたことだ。80年代には、ソ連の国営工場の生産性はマイナスになっていた。つまり、工場から出てくる製品は、工場に持ち込んだ原材料より経済的な価値が落ちてしまったのである。言い換えれば、生産活動を行なえば行なうほど、国が貧しくなる事態になっていた。もしなにもしないで冬眠できれば、そのほうがずっとましな状態だったのである。

ブレジネフの死語に登場した何人もの高齢の指導者は、この現状をなすすべもなく見るしかなかった。ゴルバチョフの政治力をもってしても、ソ連経済はいかんともしがたく、東欧諸国の民主化・脱共産政権化を、引き止めようにも引き止められなかった。56年のハンガリー動乱や68年の「プラハの春」を戦車で抑圧したにもかかわらず、80年代末にそれができなかったのは、ソ連の経済力がどん底まで落ち込んでいたからである。ソ連は急に倒れたわけでなく、徐々に衰退死したのだ。

ソ連と同じ経済問題プラス機能せぬ政治

ソ連の生産性がマイナスになった事態を、笑ってはならない。なぜなら、日本の製造業は、09年の第1、第2四半期において、それと同じ状況に陥ったからである。製造業が全体として赤字になる状態からはかろうじて脱却したが、資本収益率は1.3%と、国債利回りを下回る水準だ。現在の日本経済は、ソ連末期と基本的には同じ状況に陥っているのである。

「ソ連と日本は経済体制が違う」と言う人がいるだろう。確かにそうだ。ソ連は社会主義経済だったが、日本は市場経済だ。しかし、日本の経済が実態において社会主義とどの程度違うかと言えば、大いに疑問である。特に、巨大企業になれば、ソ連の国営企業との差は、程度の問題でしかない。そこには、市場の圧力が働く余地は少ない。とりわけ、株式の持ち合いによって買収の脅威から守られているため、市場の圧力が経営者に響かない。

空前の財政赤字も、基本的には、日本の産業の生産性が落ちたことによる。利益が激減した結果、法人税が落ち込んだのである。だから、日本が現在抱えている問題は、基本的には、ソ連末期の問題と同じものだ。

過去1年間の製造業の経常利益は、1155億円である。他方で、緊急経済政策で産業支援に充てられている額(その大部分は製造業向け)は、09年度補正予算に盛り込まれたものだけでも2兆円を超える(雇用調整助成金約1.6兆円、環境対策車購入補助金約3700億円、エコポイント約2900億円等)。だから、日本の製造業のったいは、ソ連国営企業と大差がない。

したがって、国全体が日本航空と同じ事態に陥る可能性は、決して否定できない。空前の赤字にもかかわらず、その解決が必要だと認識さえされず、責任転嫁とごまかしだけでしのいでいる現状を見れば、国家破綻までは時間の問題だとしか言いようがない。

ところで、ソ連は中央集権の独裁国家であった。指導者が強く望めば、改革を推し進めることは可能であった(事実、ゴルバチョフは、軍部の反対を押し切って、アフガニスタンからの撤退を実現した)。日本の政治情勢は、それとは対極的にあることに注意しなければならない。消費税増税を言い出すだけで政権が危うくなる国で、ソ連と同じ経済問題に対処するのは、ほぼ不可能である。

以上のように述べれば、「狼少年」と受取られるのではないかと危惧される。実際、日本国内のメディアの報道には、事態の深刻さは見て取れない。しかし、世界のメディアは、そうではない。日本の破綻に対する懸念は、この数カ月で急増したように思う。

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