急回復する米企業 停滞する日本企業

日本の株価(日経平均)は、2009年中に19%上昇した。イギリス(FTSE)が21.3%であるのよりは低いが、アメリカ(ダウ指数)が18.8%であることよりは高かった。

しかし、重要なのは、危機以前の水準との関係だ。そこで、09年末とリーマンショック直前(08年9月発)と出株価指数を比較してみると、日本はまだ82.2%にしかなっていないが、アメリカは90.5%、イギリスは96.7%にまで回復している。また、金融危機が広がる以前の時点である07年7月と比較してみると、日本は58%に落ち込んだままなのに対して、アメリカは77%、イギリスは80%まで回復した。つまり、金融・経済危機からの脱却は、日本が最も遅れているのである。

アメリカの株価上昇の背景には、企業利益の回復がある。米商務省が09年12月22日に発表したところによると、アメリカ企業の利益(減価償却後、税引き後、季節調整後、年率換算)は、09年第3四半期に、前期比12.7%ときわめて高い伸びを示した。08年第3四半期からの利益を四半期ごとに絶対額(単位十億ドル)で見ると、1150、900、912、921、1038と推移してきている。今後も高い伸びが予想されているので、第4四半期には、06~07年のレベル(1100程度)に戻る可能性が高い(トムソン・ロイターによる09年12月31日時点のアナリスト予想集計では、米主要500社の10~12月期の最終利益は、前年同期比で約3倍となる)。

アメリカの金融業とIT産業の目覚ましい利益増

ここで注目すべきは、アメリカ企業の利益回復度は、産業によってかなりの差があることだ。すなわち、09年第3四半期の年率換算値を07年と比べると、金融業が98.5%、情報関連(IT)が118.5%であるのに対して、製造業46.6%、小売業81.3%となっている。

つまり、製造業の利益はピーク時の半分未満にとどまっているのに対して、金融業はほぼピーク時の利益水準を回復し、ITに至っては、過去のピークを2割近くも上回っている。金融業とITの利益増が、アメリカ企業全体の利益増を支えているのだ。

このように、産業別で見れば、今回の経済危機によって大きな打撃を受けたのは、製造業なのである。金融セクターが危機の原因をつくったのだから、これは一見して意外に見えるが、よく考えればそうではない。

製造業の場合、需要が増加したときに生産能力を増強してしまうと、需要が減退したときに、加除雇用だけでなく、過剰設備が残る。設備廃棄は困難であるため、長期にわたって利益が圧迫されるのである。これに対して、金融業の場合には、事業拡張のときに物的な投資はさほど必要とされないので、縮小するときには雇用を調整するだけですむ。このため、経済全体の失業率は上昇するが、企業の利益は損失を償却してしまえば急回復する。ITも物的投資はあまり必要でない。しかも、クラウドなどの新しいビジネスモデルが生まれている。このため、政府支援と無関係に回復した。

1年ほど前、日本ではアメリカ没落論が声高に論じ去れ、「資本主義が自滅した」などと言われた。特に、「アメリカ型貪欲金融業はもうダメだ」という見方がしばしば唱えられた。しかし、そうした見方(期待?)は間違っていたことになる。

私は、08年12月に刊行した『世界経済危機 日本の罪と罰』(ダイヤモンド社)の中で、「アメリカのIT関連企業は、経済危機にもかかわらず成長するだろう」と述べたが(第6章の4)、そのとおりのことが起こっている。

アメリカでの製造業の比率は、1990年代から、すでに小さくなっている。今回の金融危機を経て、その傾向はさらに強まった。製造業、金融業、情報関連業の利益は、07年には279、368、90であった(単位十億ドル)。それが、09年第3四半期には、130、362、107になっている。製造業を1とした指数で見れば、07年には、金融業1.3、情報0.3であったものが、09年第3四半期には、金融業2.8、情報0.8になったわけだ。近い将来に、利益で見て金融業は製造業の3倍程度になり、ITは製造業より大きくなるだろう。日本の現状からすると、考えられないような経済構造が実現するわけだ。

日本経済の未来を開くため産業構造の大転換が必要

以上で見たように、アメリカ企業の利益は、全体としてもリーマンショック前の水準に戻っている。ところが、日本企業の利益は、そうなっていない。法人企業統計年報によって、08年7~9月期からの経常利益を、四半期ごとに絶対額(単位兆円、季節調整値)で見ると、全産業で10.7、6.0、4.7、5.6、7.1となっている。製造業では、4.1、0.3、-9.4、-3.6、1.0だ。

このように、回復はきわめて遅れている。全産業でリーマンショック時の7割程度の水準に、製造業は4分の1程度の水準に落ち込んでいる。そして、07年7~9月期と比較すると、全産業は半分程度、製造業は6分の1程度の水準に落ち込んでしまっている。このように、日本の製造業の落ち込み度は、アメリカの製造業に比べても大きい。

日米の企業利益の推移を本稿の最初に述べた平均株価の推移と比較すると、日本の場合に株価が企業利益の変化に対して若干過大気味であるように見られるが、おおまかにいえば、ほぼ対応した値になっている。

なお、金融業を比較しても、日本の金融業はアメリカの金融業に見られるような顕著な回復は示していない。これは、日米金融業のビジネスモデルが異なることの反映である。日本の銀行は、預金を受け入れて国債を購入することが中心的な業務になってしまっているが、これでは利益が上がらない。また、アメリカのIT産業に対応する産業は、日本には存在しない。

以上で見たように、日本では、同じ産業を比較しても利益の回復が遅く、しかも、他産業より回復が遅い製造業の比率が高い。だから、経済全体としてみると、金融・経済危機からの回復は、アメリカやイギリスに比べて遅くなるのだ。

それだけでなく、将来に向かっての展望でも、問題を抱えている。これまでのところ、日本経済は、雇用調整助成金や自動車購入補助などの緊急対策で支えられている。しかし、こうした施策は、いつまでも続けられない。だから、今のままでは、将来に向かっての持続的な回復は実現できない。新興国の需要への期待が言われるが、所得が低い国の最終需要に対応しようとすれば、低価格製品が中心にならざるをえず、利益には貢献しない。また、海外に立地することになるので、日本国内の雇用にも寄与しない。

こうした現実は、重く受け止めるべきものだ。「今のまま続ければそのうちなんとかなる」と多くの人が考えているが、それは、根拠のない期待だと言わざるをえない。これまでの産業構造や企業のビジネスモデルを続けても、未来は開けない。よくて現状維持、悪ければ、際限のない後退だ。

日本経済を今後発展させるためには、いかに大きな摩擦を伴おうと、産業構造を大転換させなければならない。これまで述べた数字が告げているのは、そうしたことである。

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