GDPは伸びたものの問題は解決されない

7~9月期の実質GDP(季節調整ずみ、速報値)が、前期比年率換算で4.8%の増加となり、2期連続でプラス成長になった。

これに関する新聞等の論調は、「成長は政策でかさ上げされたものであり、政策がいずれは終了することを考えると、将来も成長が続く可能性は低い」というものだった。後で述べるようにそれはそのとおりなのだが、将来を考える前にまず注意すべきは、水準自体が依然として低いままだという事実である。

具体的には、次のとおりだ。年額換算ベースの実質GDPは、2008年1~3月期にピークとなり、569兆円となった。それが、09年1~3月期には521兆円まで下落した。ピークからの下落幅は48兆円であり、下落率は8.4%である。

それが7~9月期に531兆円まで回復したのである。しかし、この水準は、ピーク比では6.7%の減、対前年同期比では4.4%の減である。ボトムからの増加は9.7兆円であるから、下落幅のわずか5分の1程度を取り戻したにすぎないのである。

イングランド銀行総裁のマービン・キングは、It\’s levels, stupid, not growth rates.と言った。まったくそのとおりであって、重要なのは伸び率ではなく水準なのである。

伸び率は将来の水準がどうなるかを予測するには重要だ。しかし、最終的に問題となるのは水準である。したがって、プラスの伸び率が継続しているのは歓迎すべきことではあるものの、それで心配がなくなったわけでは決してないのだ。

実際、経済危機によってさまざまの問題がもたらされているが、それらは、水準が低いことによって生じている。

第一に、落ち込んだ需要に対して供給能力が課題であるため、雇用も生産設備も過剰になっている。生産水準はピーク時比で8割程度なので、雇用も設備もほぼ2割過剰だ。そして、これを調整するのは、大変難しい。また、企業の利益が減少したため、法人税収が激減した。これによって国債発行が未曾有の規模に増大している。こうした問題は、本連載でこれまで何度も指摘してきた。そして、これらは、GDPが少しばかり回復しても、まったく解決されずに残っている。

自動車に著しく偏った経済政策

今回のGDP統計の内容を見ると、次のとおりだ。

第一に、民間企業設備が前年比年率換算1.6%増となり、6四半期期ぶりに増加に転じた(4~6月期は-4.2%だった)。これは、輸出が増加したことの影響と考えられる。ただし、対前年同期比では-16.9%と、いまだに低い水準にある。

第二に、個人消費が前期比年率換算0.7%増と、2四半期連続で増加した。年率換算成長率のうち1.7%分を個人消費が押し上げたことになる。これは、エコカー減税や新車買い替え補助などの効果で、個人消費が底上げされたためだ。

実際、09年7~9月期の普通乗用車の新車登録台数は34万台だが、これは対前期比で48.9%の増加になる。年率に換算すれば、じつに4.91倍である(乗用車全体では、105万台で、前期比31.1%の増加)。08年の10~12月期以降、毎四半期22万~25万台程度で低迷していたものが、7~9月期に突如として増加したのである。

自動車がこのように異常な増加を示している半面で、GDP項目にはマイナス成長を続けているものもある。

民間住宅は、前期比年率換算-7.7%(4~6月期は-10.2%)だった。マイナス幅は縮小したものの、対前年同期比では-20.2%と、冷え込んだままだ。

注目すべきは、公的固定資本形成が前期比年率換算-1.2%と、マイナスに転じたことだ(4~6月期は7.7%増)。通常、需要喚起策は雇用創出効果が大きい公共事業によることが多い。しかし、今回の政策は、そうしたものではなく、自動車支援に偏ったものになっている。また、雇用調整助成金の申請数も愛知県が最も多く、雇用面でも自動車関連企業に手厚い支援がなされていることがわかる。

また、日本は他国よりも長く自動車購入支援を行なっている(アメリカやドイツでは、すでに終了した)。1年前の状況では、「需要の落ち込みを防ぐ」のが緊急の最重要で、経済内容を深く検討する時間的余裕がなかった。しかし、特定産業をいつまでも血税で支援し続けるわけにはゆかない。危機的な財政状況を考えれば、なおさらそうだ。

それに、支援策は需要の先食いにすぎず、自動車産業を根本的に救済することにはならない。仮に今年度で終了すれば、来年4月以降の反動は、かなり大きなものになるだろう。これは、アメリカやドイツの経験を見ても明らかだ。7~9月期と同程度の成長があと2期続けばGDPはピーク時の水準に戻ることになるが、それは望み薄と考えざるをえない。持続的な経済成長が実現するためには、政府の支援と無関係に消費支出が伸びることが必要なのである。この問題について、以下に考えよう。

所得はGDPより大きく落ち込んでいる

経済規模を示す指標としてわれわれが通常用いるのは、「GDP」(国内総生産)である。これには「固定資本減耗」が含まれている。自由に処分できる「所得」(雇用者報酬、営業余剰など)は、大ざっぱに言えば、GDPから固定資本減耗を控除した額だ。ところが、固定資本減耗はかなり大きな値になっており、07年度では、実質でGDPの20.8%になっている。

そして、これは資本ストック量によって決まるものであるため、GDPが減少しても減ることはない。したがって、GDPが減少する過程では、所得は、GDPより大きく減少しているはずである。つまり、生産された財のうち相対的により多くのものが固定資本減耗の補填に充てられるので、それに圧迫されて、自由に使えるものが少なくなるのである。

速報値はGDPの支出側計数のみで生産側の計数が算出されていないため、正確な数字はわからないのだが、推計してみると、次のとおりだ。

先に見た08年1~3月期のGDPのうち、20.8%が減価償却であるとする。そして、固定資本減耗の絶対額はその後不変であるとする。すると、年額換算値の実質所得は、09年7~9月期に413兆円になるが、これは、08年1~3月期の451兆円に対して91.6%でしかない。つまり、所得はピーク時に比べていまだに8.4%も落ち込んだ状態だ。GDPは、同期間で6.7%の落ち込みであることと比較すると、所得の落ち込みが大きいことがわかる。

「所得が増えていない」ことは、より直接的な調査でも確かめられる。

日本経済新聞社の調査によると、今冬のボーナス1人あたり支給額は、全産業で昨冬比14%減で、1978年の調査開始以来初めて2ケタ減少となった。増加した業種はなく、機械や自動車・部品などでは20%を超える減少だった。

所得が伸びなければ、消費は伸びない。これは内需主導型経済の実現にとって深刻な障害となる。「輸出は他力本願。経済を支えるには政府の支出しかない。しかし、財政は火のクルマ」という状況にどう対処するのか。これが経済政策の最大の課題である。

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