日航と同じ問題が公的年金にもある

日本航空の再建に関して、企業年金の削減が最重要の課題となっている。

日航は企業再生支援機構の管理下で、公的資金投入を含めた資本増強などによる再建を目指している。しかし、手厚い年金支給を受けたままで公的資金を投入することに対しては、国民の反発が強い。年金・退職金債務の積み立て不足は、2009年3月末で3000億円を超えている。金融機関からの借り入れなどである有利子負債が約8000億円であることと比較して、これは大変大きい。

企業年金の見直しが必要とされるのは、これが初めてのケースではない。これまでも、多くの企業で企業年金が問題となった。ただし、退職者は従来の制度を前提に引退後生活の設計を立てているので、それを変えるのは、並大抵のことではない。

公的年金に上乗せ給付される確定給付企業年金の変更には、全受給者の3分の2以上の同意が必要とされている。企業の減額提案が、訴訟に発展した例は多い。パナソニック(旧松下電器産業)のように、3分の2以上の同意が得られ、勝訴したケースもある。しかし、NTTのように、実施しようとしたものの認められなかったケースもある。

日航のケースに対して、政府は年金を削減できる特別立法を検討している。しかし、憲法に保障された財産権を侵すとの見方もあり、実現は容易なことではない。

だが、そうしたことが必要なほど、状況は深刻なのである。特に問題なのは、予定していた利回りを実現できないことだ。日航の年金の積立金の給付利回りは、年4.5%とされている。しかし、これは、長期国債利回り(現在、1.4%低度)と比較して、いかにも高い。日本の低金利は、1990年代以降継続している現象だ。日航の企業年金は高度成長期のままで、90年代以降の経済情勢にはまったく不適合になってしまっていることがわかる。

時事通信の報道によると、勤続42年のモデルケース(65年生まれ、18歳入社、60歳退職)で、65歳以降の年金支給額は基礎年金と厚生年金、企業年金を合わせて月48万6000円、年583万2000円だ。減額後も、最高月36万1000円、年433万2000円が支給される(なお、モデルケースは退職金1700万円を選択した場合で、内訳は企業年金が月25万円、国民年金・厚生年金が計月23万円となっている。退職金を最大の3650万円受け取った場合は、年金は公的年金の月額計23万円のみとなる。

これは、年300万円台半ばである大企業の平均支給額を、大幅に上回っている。また、全日本空輸の企業年金給付額は、月10万円を切る。日航の給付額は「あまりに高額。これを続けるのは無理」との意見は多い。そこで、退職給付債務を1600億円程度圧縮する年金制度改定が検討されている。

公的年金も似た問題を抱えている

以下で論じたいのは、日航の年金切り下げの是非ではない。国が運営する公的年金についても、似た問題が存在するということだ。日航の事態は、国がこれから直面する問題を象徴しているのだ。

公的年金は、積み立て方式でなく賦課方式で運営されているので、金利の影響というよりは、人口構造の影響が大きい。

賦課方式とは、ある世代の年金を次の世代が負担するという、一種のねずみ講である。ねずみ講を私的に行なうことは禁止されているが、国が行なうのは問題がないとされる。しかし、それは人口が増加する社会での話である。人口が減少する社会では、負担者が受給者より少なくなるため破綻する。日本の現状は、まさにこの状態に当たる。

また、雇用構造が変化して非正規労働者が増えたため、厚生年金の加入者がさらに減少することの影響もあると考えられる。

このように、企業と国では、年金が破綻するメカニズムに差がある。ただし、順調に成長していた時代につくった制度を維持できなくなってしまったという点では、同じである。

ギリシャ神話に登場する宿屋の主人プロクラステスは、旅人の身長が宿のベッドより長ければ、旅人の足を切って身長をベッドに合わせたそうである。ベッドを継ぎ足して長くすべきか、それとも足を切るべきか?

旅人の場合は、もちろん、ベッドを長くすべきだろう。しかし、ベッドの材料がなければ、足を切るしかない。年金制度が財政的に行き詰まったとき、保険料などの収入を増やすことができれば、給付はカットせずにすむ。しかし、収入増が不可能なら、給付を切るしか方法はない。

日航の問題は、長期にわたって指摘されていながら、抜本策がとられなかった。その結果、順調なときに導入した仕組みが維持できなくなった。国の年金制度や財政一般についても、破綻の危険はこれまでも指摘され続けてきた。あまりに指摘されたために、いまさら叫んでも、迫力がなくなってしまっている。しかし、抜本的な手当がなされていないことに変わりはない。たとえば、基礎年金に対する国庫負担率は引き上げられたが、いまだに財源手当がなされずに、放置されている。昨年度予算では、いわゆる埋蔵金で一時的に手当てしただけだ。

最も重要な事業仕分けは公的年金

そして、最近の経済危機によって、税収は激減した。その結果、11月14日号で指摘したように、国債の発行はコントロール不可能な状態に陥っている。

長期金利がさしたる上昇を示していないので、日本国内では危機感が高まっていない。しかし、アメリカでは、日本の国債が国内で消化できない事態に陥る危険が真剣に議論されている。

ところで、来年度の予算編成に向けて、行政刷新会議の事業仕分けがスタートした。「劇場効果」を利用したこの方法は、予算の中にいかにムダが多いかを示すには、効果的だろう。

ただし、これによって支出圧縮を期待することはできない。節減額は、多くても3兆円とされる。他方で、鳩山由紀夫首相は、国債発行を44兆円に抑えたいという。しかし、税収は40兆円程度しか望めない。そして、概算要求での支出は95兆円を超える(この中には、事項要求だけで金額が含まれていないものもある)。すると、単純な差し引き計算で、約8兆円の不足が発生する。

事業仕分け作業で最も重要なのは、対象事業を選び出す過程である。地方交付税や薬価基準などの金額が大きなものも含まれたことは評価したいが、重要なものは、ほかにも多数ある。

まず俎上に載せるべきは、子ども手当や高速道路無料化、それに揮発油税の暫定税率廃止など、民主党のマニフェストに含まれているムダな支出だ。そして、支出額を本当に削減したいのであれば、最重要の課題は、公的年期制度の検討である。

前回指摘したように、税収を増やすのは容易ではない。つまり、ベッドは伸ばせない。だから、足を、つまり支出を切るしかない。これまで公的年金の給付が見直されるとき、既裁定の年金が見直されることはなかった。いまや、それに手をつける必要がある。

問題の本質は、日航の場合と同じだ。違いは、日航のように外部からの圧力が加わっていないことだ。しかし、国債を国内で消化できなくなれば、同じになる。それまでに残された時間は、長くはない。一刻も早い対応が求められる。

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